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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * 準備を整えて

いつもお読み下さいましてありがとうございます。

王宮闘争もあと少し。


 



 監禁部屋改め滞在部屋。

 大きな作業台の上には、私専用の 《ハンドメイド・ジュリ》の正装がある。

 シルバーグレーの生地に豪華に刺繍が施されたそれはドレスではなく、所謂ツーピースタイプとなっている。豪奢なドレスと並んでも見劣りしないようにと細部にまで拘った私の勝負服、いや、戦闘服と言っていい。そしてこの戦闘服、離婚してからバージョンアップさせていた。理由は単純で、ドレスの正装とは違い宝飾品で飾り立てるデザインにはなってない。華美なネックレスやブレスレットを必要としない作りと言えばいいのかな。カチッとしたスーツをモデルにしたトップスに、Aラインのシンプルな裾の広がりのスカート、そこに銀糸による刺繍なのでシンプルなアクセサリー以外は結構選ぶのが難しい。

「まさかこの王宮で着ることになるとはね」

 そんな正装にいざという時のボリュームというか、派手さを出すために採用したのが、マント。

 マントと言っても如何にもなデザインではなく、肩に専用のピンで留められる軽くて薄いもの。正装と同じ生地だけど、こちらは裏地が真っ白でそちらに銀糸で刺繍が施されている。普通のマントとは違い軽い分歩くとサラリと靡くので身長が決して高くはない私でもマントを重そうに引き摺っているようには見えないよう工夫されている。

「ジュリ、アクセサリーは真珠がいいというからあるものすべて持ってきたが他は本当にいらないか?」

「うん、この服には真珠が一番合うから。往復二回もさせてごめんね」

「気にするな、いくらでも頼ってくれ」

 グレイにお願いして一回目は正装を、今回はアクセサリーもきちんとしたものをつけるべきかと思い立って二回目の転移で真珠のアクセサリーを全て持ってきてもらった。……てゆーか、グレイ長距離転移余裕で数回こなすようになってて凄いわ。


 ラヴィリエ女王陛下から、正式な謝罪の場を設けるので場が整うまでククマットに帰るのは待ってほしいと言われたのがあの研究塔の地下室の騒ぎの直後。それどころではないという状況だったにもかかわらず女王陛下が私に国主として謝罪したいと言ってくれた。

 その場が整うまで僅か二日。わざわざそのための招待状まで用意され、それをこの部屋に届けに来たのが王宮が落ち着くまで騎士団のまとめ役、相談役として任命されたツィーダム侯爵夫人のエリス様だったのは、私だけじゃなくグレイもビビってた。

「何してるんですか、エリス様」

「師匠であるティターニア様が直々に私を騎士団の再教育係にと推薦して下さってな。お前たちが帰らないことには落ち着いて躾け直しもままならない。だからいちいち手順だなんだと煩わしいことは平気ですっ飛ばせる私が持ってきてやったんだ、まともな手順だとあと三日は届かず謁見ももっと後になっていただろうから感謝しろ」

 あ、うん、エリス様って感じ。そして今日はロイド団長だけじゃなく騎士団団長さん全員従えてるんだね。

「全員、顔が死んでいる」

「何か言ったか、グレイセル」

「いえ何も」

 そんなやりとりがあって苦笑しつつ、要するに私一人の為にここまでするということはそれだけちゃんとした謝罪の場になるはず。

 そのための私の戦闘服、正装だ。


 その証拠に昨日から続々とこのベイフェルア王宮には知った顔が集まっていた。

「妹よ!」

「!! 兄よ!」

 咄嗟にノリで返して、そしてしばし無言になった後に、互いに吹き出して笑って抱擁した相手はバミス法国ウィルハード公爵様。

「すみませんっ、調子に乗って返しました!」

「あはは、あははははっ! これが冗談じゃなくなったからね!」

「……本当に、ありがとうございます」

「なんの、こちらこそありがとうを言わねば。君との縁が強くなったんだ、これほど嬉しいことはない」

 体を離した後は、硬く握手を交わす。

 私と公爵様のやり取りを見て愉快そうに笑ったのは奥様のアティス様。

「旦那様ばかりずるいですわ、私もジュリ様との再会を楽しみにしておりましたのに」

「アティス様にもお礼を。本当にありがとうございます」

「よしてくださいませ、そんな事望んでおりませんわ。それよりも今日は特に気合を入れて尻尾を手入れしてまいりましたの、義妹の特権として触り放題ですわよ」

「うほぉぉぉぉっ」

「ジュリ、やめておけ、顔がダメだ、他には見せられない危険な顔になっている」

「グレイ、ちょっと、ちょっとだけっ! 猫吸いを、モフモフをっ」

「やめろと言っている! お前のそれはここでは全く理解されない!!」

 私の暴走で一悶着し、最終的にグレイに小脇に抱えられて大人しくなった私。この形態が私とグレイの普通だと知っているお二人は全く動じることなく、今回のことが一件落着となったことを心から喜んで安堵してくれていた。

「本当はラパト家も来たがったんだけどね、あちらまで連れてくるとなると大所帯で統制が大変だから将軍以外は遠慮してもらったよ」

 公爵様が言っている大所帯。これ、ウィルハード家とラパト家の私兵のことを言っている。

 なんと登録されている私兵だけで一万人を抱えるウィルハード家、そこから精鋭を連れてきただけだよとさらっと笑って聞かされた人数が五百。精鋭、獣人の戦闘能力が高い人が五百人……その時点で既にベイフェルア王宮の今の騎士団が緊急で動ける最大人数も力も大幅に超えているぞとグレイに聞かされたときはゾッとした。しかもラパト将軍が公爵様に代わり指揮してフル装備で連れてきていて、駐留している王都に隣接する穏健派の貴族の領地の一角がまるで戦争直前の様相を呈していて別世界のようになっているとまで教えられ。

「えっと、連れてきただけですよね?」

「そうだね、それで終わってよかったね。僕としてはどちらでも構わなかったけど。でも将軍は何時でも出られますよとやる気満々だよ」

 笑顔で言うことではない、とポツリと呟いた私は悪くない。


 このウィルハード公爵夫妻の登場を皮切りに、次々と現れた各国の要人。招待された貴賓ではなく、現れた。勝手に。呼んでないのに勝手に今ベイフェルア王宮に来ている。

「構わん、誠心誠意もてなすのみだ」

 と女王陛下が言った事でいま王宮内の人たちは戦場で駆ける兵士並みの過酷な労働環境になっているらしい。そもそも完全に規律が乱れて無秩序になっていた内部なので、イレギュラーに対応しきれるはずもなく、今はツィーダム侯爵家、トルファ侯爵家、それから有力貴族の方々の王都に構える屋敷から有能な執事長や侍女長が呼ばれ各所でテキパキと動いているそう。逆らったら即クビ、実家にもお咎めがあるぞ、という女王陛下のお触れが出された為にこの王宮の侍女や執事、良家の子息令嬢が顎で使われている。いい気味だわ、これを期に働くとはどういうことか少しでも学べ。


「あはは」

 今の王宮内の状況などを話しながら着替え終わり、私は自分とグレイの鏡の中に映ったその姿を見て笑ってしまった。

「なんだ、急に」

「ごめんごめん、なんか、今から結婚式するみたいじゃない、雰囲気が」

「え?」

「グレイも 《ハンドメイド・ジュリ》の正装だから」

「……ああ」

 グレイが鏡の中の私たちを見て甘く穏やかな笑みを浮かべる。

 全く同じ生地で同じ刺繍の正装。グレイが好む丈の長めの上着が重く感じないように、マントは片肩から後ろに流すようなデザインになっていて、グレイが常に持ち歩くクノーマス家の宝剣が邪魔にならないようにという意味もある。宝飾品は真珠はちょっと違うだろうと黒い石や魔石で統一、グレイらしいチョイスだ。

「このまま結婚しようか」

「え、しない」

「……」

「そんな不服そうな顔されても困るわぁ」

「私はジュリ以外と結婚はしないからな」

「私もグレイ以外とはしないよ?」

「……」

「意味わからんって顔やめて。結婚しないだけで

 一緒にいるならそれでいいでしょ」

「……」

「だからなにその顔」

「それっぽい式は嫌か?」

「は?」

「無事解放記念に」

「それ、どうなの? 祝賀会でよくない?」

 グレイの前では結婚の話は斜めな方向に拗れる事がわかったので今後は控える……。

 他の人が聞いたらどう反応していいのか分からずきっと気まずい空気になる会話の直後。


「ジュリ!!」

「シイちゃん?! えっ、シルフィ様、ルリアナ様も!!」

 クノーマス侯爵家の皆さんが。駆け込んでくる女性三人の後ろに侯爵様、エイジェリン様、そしてロディムが続き、扉が閉まると私は一番に駆け寄ってきたシイちゃんに抱きつかれた。

「ジュリ、ジュリっ、良かった、良かった無事でっ」

「うんお陰様で……って、いた、痛いかもシイちゃんっ、う、ぐうぅぅぅっちょっ、苦しいんだけど?! 待て待て、死ぬ!!」

「シイ、離れろ。ジュリが本当に死ぬ」

 ベリ! とグレイが離してくれたおかげで圧迫死は回避。ロディム、お前はこの子と抱き合って大丈夫なのか? あ、ロディムも目立たないだけで何気に魔法だけじゃなく身体能力も高いから平気なのか。

 ウィルハード公爵ご夫妻との再会のように、一気にその場は笑いに包まれた。グレイだけはシイちゃんを本気で睨んでたけども。

「ククマットのこと、ありがとうございます」

 私は侯爵様とエイジェリン様に頭を下げた。すると二人から帰ってきたのは苦笑で。

「何も出来なかったよ」

「そんなことは」

「いや、本当に、何も」

「侯爵様……」

「ジュリ、ジュリは自分の力で今を勝ち取った。我々は、そこに至る外側で……自分たちにとって火の粉になるものを払っただけ。君のためなんて私は言えるような事はしていない」

「そんなことはないです」

 私は真っ向から否定した。

 だって、侯爵様がベイフェルア王家による王政からの離脱宣言をしなかったら、私はきっと王家に対してここで過ごした間の啖呵を切るような言動は出来なかった。

「ここに来る前、侯爵様とお話した時。……何となく、侯爵様が大きな覚悟をなさっているのは分かりました。あの時確かにシイちゃんとロディムの仲を引き裂くような事も想定されていて、クノーマス家としては私のことを抜きで本気で王家との関わりを考え直す時だったのだと分かっています。でも、少なくとも、そこに私の存在もあったことは、誰よりも私が分かっています。…結局私がここまで来られたのは、召喚された時、途方に暮れそうになった私を拾い上げて下さった侯爵様がいたからです。恩に報いるために【技術と知識】で発展させることを誓って、そしてそれを喜んで下さった。一緒に頑張って行こうって、その時点で一蓮托生です。そうじゃないなら、何だって言うんですか」

「ジュリ……」

「ありがとうございます本当に。グレイが各国を飛び回って説明や説得をしている間、ククマットがいつも通りに動けたのは、間違いなく、クノーマス領の中にあったからです。ククマットの混乱を最低限に抑えられたのは、クノーマス侯爵家の支援があったからです。周囲の助けが無駄なく機能したのも、侯爵様とエイジェリン様が仲介や采配をして下さったからです」

 私の隣に、グレイが並んだ。顔を見上げれば、グレイが静かに頷いた。

「グレイから、聞きました。クノーマス侯爵家の全面的な協力がなければグレイはククマットを離れられなかったと。私が帰りたい場所を、居場所を離れても安心して動けたのは、クノーマス侯爵家が、何も惜しまずグレイに代わってククマットを守るために支えてくれたからだと。……【彼方からの使い】として、 《ハンドメイド・ジュリ》の商長として、そしてククマットの住人の一人として。……誠にありがとうございました。心から感謝申し上げます」

 深々と頭を下げる。

 グレイも合わせて、同じように頭を下げた。


 色んな事があった。

 一時は不信感を募らせた。

 でも、結局私はこの人たちが好きだ。

 最初から私に寄り添った人たち。

 どうにでも出来るはずの私に一番最初に寄り添ってくれた権力。

 フィンやライアスが不安になる暇もないくらい、優しく楽しく距離を縮めてくれた人たち。

 何か作るたびに一緒に一喜一憂して、お金の心配は無いとカラリと笑って背中を押してくれた人たち。

 この人たちがいなかったら。

 私は今こうして中心に立っていなかった。

【思想の変革】も起こせず、ただぼんやりとゆっくりと過ぎるなだらかな人生で終えていた。

 何より。

 グレイとこうして並んでいることは、叶わなかった。

(ああ、そうか。改めて思う)

 はっきりとした、疑いようのない確信。

(やっぱり意味があったんだ。私がクノーマス領に召喚されたのは)


 エイジェリン様が泣いていた。

「何故兄上が泣く」

 グレイ! そこはツッコミ入れちゃダメ!! いい場面なんだから空気読めと真顔で言った私を見て、目に涙を溜めた侯爵様が体を捩らせて大笑いした。

 シイちゃんがクスクスと笑ってロディムと二人肩を寄せ合ってエイジェリン様の事を見ている、仲良しだね。シルフィ様が侯爵様につられて笑い出して、ハンカチで目元を拭い、そして侯爵様にもさりげなく差し出した。こちらも相変わらず仲良し。

 ルリアナ様が。

「最近のエッジ様は涙もろいの。ウェルガルトが描いた絵を見て泣いたのよ? 私とお義母様が何を描いたのか分からず首をかしげた丸か三角かも判別がつかない簡単な絵で」

 サラッと恥ずかしい話を暴露して、エイジェリン様の涙を引っ込ませた。

「ぐふっ」

 グレイが堪えきれず珍しい奇妙な声で吹き出したら、エイジェリン様が飛び蹴りを食らわせた。

「お前に笑われると腹が立つな」

「笑われる方が悪いですね」

 グレイも回し蹴りを炸裂させた。

 そこから、全員正装だというのに壮絶な喧嘩が始まりそうになって、割って入ったのがロディム。

「服が破れるし汚れます、正装を取りに戻り着替えるの大変ですよ」

 言うことはそれじゃないだろう、侯爵様がそう面白そうに突っ込んで、ロディムが真面目な顔して大事なことですよとサラリと返していた。

 なんか、これだよなぁ、と納得している自分がいた。

 いや、ダメだ。

 今から謁見。

 そしてロディムが離れた途端にまた喧嘩するのやめて、王宮壊れる!!


「賠償金は貰う気満々でも賠償金 (修繕費)を払う気は全くない!!」




本日『とある喫茶店の日常』も更新しております。

緩くシュールなお話です。喫茶店で働く人々のちょっとおかしなお話です、時間つぶしに是非。


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― 新着の感想 ―
やはり終わったらハンドメイドジュリに寄っちゃうんでしょうか…貴顕のみなさまがた…
謝罪の場に来てくれるだけ、ジュリさんやグレイさんは温厚ですね。ハルトさんとかだったら、謝罪するならお前が来いって言って帰ってしまいそうだもの。そして、後日広場かどこかで待ち構えて、謝罪はここで受けてや…
 おお! ジュリのスーツ(ジャケット)姿! 見たかった!! 本当はパンツスーツで颯爽と歩くジュリが好みなんですが、難しいから仕方ない。多分Aラインでもサバサバ歩く!(笑) そこにマント!!! 格好いい…
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