王宮闘争 * 急展開
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです①発売中です。お手に取って書き下ろしや素敵なイラストを楽しんで頂ければ幸いです。
春休みスペシャルで連続更新中。
「ラヴィリエ女王陛下に裁かれ処刑台に立たされるのならば、それは本望です。私が犯した罪は多く、そして重い。けれど後悔しておりません、『初代王の血』を受け継ぐ貴方様が再びこの王宮に戻られたお姿を拝謁出来ただけでも、満足ですから」
ベリアス卿は穏やかな表情で女王陛下の前で頭を垂れながらそう語った。
「……【時の記憶】ではそなたの事を詳しく知ることは叶わなかった。確かなことは、王家の終焉を願っているということ。ベリアス家の犯した罪は重く許しがたい。しかし」
女王陛下はそこで一度口を閉ざす。ややあって、瞼を閉じて、眉間に僅かにシワを刻む。
「私も、心のどこかで、望んでいたのかもしれぬ」
重苦しい声色で落とされた言葉にベリアス卿が目を見開いて頭を上げた。
「王女……娘が亡くなった日。【スキル】があろうと【称号】があろうと、抗えぬ娘の死に、絶望した。何のために与えられた【称号】かと、私の存在意義すら、分からなくなった。……こんなことならば、『初代王の血』などいらぬと、継承する意味などないと、何度も思った」
「陛下、女王陛下、それは違いますっ」
「何が違う? せっかく与えられた【称号】も【スキル】も、役に立たたぬということは、その時点でベイフェルア王家の後継者として私は、すでに神々に見捨てられていたのだろう」
「そんなっ、女王陛下には何一つ非などありません」
「なかったのならば、王女は生き長らえ、今ごろその頭上に王冠を載せておった」
「……」
「そうであれば、卿もこのような事をせずベリアス家を建て直しておったのではないか?」
そして目を開いて、女王陛下は寂しげに微笑んだ。
「すまぬ……。卿が思うよりもずっと前、大昔から、このベイフェルア王家は過ちを犯し続けていた。それを、卿にまで、背負わせた。すまぬ、本当に、すまぬ。どれだけ詫びればいいのか、償えばいいのかも、分からぬ私を決して許さないでくれ」
「全ては!!」
ベリアス卿が叫んだ。
「私の一存で! 私の意思で行ったこと!! 貴方様に謝罪されるようなことなど何一つございません!!」
一瞬見せた激情は、ベリアス卿の本質かもしれない。けれど直ぐにその激情をしまい込んで、また穏やかな表情に戻る。
「……陛下。許してはなりません。私を、ベリアス家を、そして腐敗しきったこの王宮を、許してはなりません。貴方様の手で裁きを。今のこの王家を、終わらせてください。この愚か者の気持ちを僅かでも理解してしまったというならば、女王陛下、どうか、最後の『初代王の血』である貴方様の手で、ベイフェルア王家を……終わらせてください。終わらせることが難しいのなら、せめて、全く違う、新しいベイフェルアとして生まれ変わらせてください」
日付が変わろうとしてもなお王宮の外は歓喜で埋め尽くされていた。
現在は近衛騎士団とその直属兵士達を残し全ての騎士団が王都の警備にあたっている。
人々からの大歓声に応えた直ぐ後、その采配をする女王陛下の周りにたくさんの人が集まって監視が弱まったと勘違いし、隙を見て逃げようとしたベリアス公爵。
ロイド団長達から逃げること自体が無謀なのに団員に直ぐ様腕を掴まれると聞くに堪えない暴言を吐いていた。蹴りを入れられ即座にロイド団長が髪を掴んで引き摺り倒し、腕を締め上げ押さえつけていた。悲鳴を上げ態度をコロリと変えて謝罪するベリアス公爵を侮蔑の眼差しで離れた所から眺めていたベリアス卿はそんな父親に一切言葉をかけなかった。口に布を噛まされ、きつく縄で縛られて引き摺られていく父親を見ても、何も。
ベリアス公爵のその姿を見て自分もそうされると想像したのか、元国王と王太子も逃げ出そうとして、ニール副団長さん達に取り押さえられていた。
そして金切り声で自分は何もしていない、悪くないと喚く王妃は自分を取り囲んだ女性団員達の間を無理矢理体を押し込んで私たち、正確にはグレイを真っ直ぐ見ながら向かってこようとしていた。ただその時、不思議なことが起きていた。
元王妃はグレイに向かって何かを叫んでいたけれど、なぜか、そう、なぜかその時、元王妃の声が全く聞こえないという奇妙な現象が起こって。まるでテレビの消音、ミュートボタンを押した時のように、グレイに向かって言葉を発したその瞬間一切の音が消え、そして何より暴れて取り押さえられるというちょっとした騒ぎになっているのにグレイは王妃にまるで無関心で一瞥すらしないという事に驚く事になった。
そのことを指摘してようやくグレイは王妃の方を見たけれど、それだけ。グレイ曰く『縁が未来永劫切れたせいだろう』と、なんだかワケのわからない事を言って、でも本人はそれで納得していて本当にどうでもよさそうに無関心で、直ぐにわたしにその全ての意識を戻していた。
三人が女王陛下の指示でそれぞれが王宮地下にある極めて劣悪な環境の独房に、そして王太子が結局姿を現すことなく見ることもなかった妹である王女と共に王宮の貴族が入れられる牢に移されることが決まり、連れられて行った後。
慌ただしく誰もが動き回る中で、女王陛下とベリアス卿は僅かな時間言葉を交わした。
そしてそれが最後の願いであったかのように一切抵抗することなく、ベリアス卿はロイド団長に従いその場を去っている。
女王陛下と言葉を交わした後ベリアス卿はその目に誰も映していなかった。未練などない、真っ直ぐ前だけを見るその目に、あれだけ巻き込まれた私すら映すことはなく。
ベリアス卿は自ら元国王達が連れて行かれた独房に入れてくれと嘆願し、拘束されることなくロイド団長の後ろを歩いて地下に降り、微塵の躊躇いもなく鉄格子をくぐったと後に聞かされることとなる。
「どうしよう」
「どうした!」
私のあまりにも悲嘆に暮れた顔に何事かとグレイが私の肩を掴んだ。
「……お腹すいた、倒れる、食べないと死ぬ」
「よし、何か食べよう」
「肉、肉が食べたい、焼きたての分厚いブルさんステーキを胃がもたれるまで食べたい。ここの食事って基本的に運ばれて来るまでに冷めちゃってるのよ、そこそこ美味しいはずなのに、冷めるから微妙なのよ、わかる? そこそこのものがさらに微妙になるあの実にテンション下がる味。あれ私ダメだわ、だったら最初から冷たいものでいいわって思ったのよ、本気で。だから焼き立てブルさんステーキが食べたい。ついでに舌が火傷する超熱いグラタンも食べたい」
「……転移でククマットに一度戻るのがよさそうだな」
「この状況下で本気でそれやったら腕引きちぎらせてもらうわ」
リンファが現れた!!
「あなたの審問会前には既に王宮にいたわよ」
「ええ……今までどこで何してたの」
「バールスレイドに一端戻って皇帝に報告したり王宮内を散策してみたり色々ね。あとはマイケルにも会いに行ったわ」
「マイケル? そういえば今どこに?」
「テルムス公国よ。大公家と 《ギルド・タワー》を徹底的に叩くためティターニア達と鼻息荒く動き回ってたわね」
「……ん? なんか、不穏だね」
「そうね、あそこもベイフェルアみたいになりそうだから不穏といえば不穏だわ」
「ごめん、今既に情報過多だからそれ以上は聞かないでおく」
「じゃあ落ち着いたらマイケルから直接聞いて」
「了解」
頭痛が起きそうな話を回避して、改めてリンファから心配したのよと言葉を貰い抱きしめられて、私も抱きしめ返す。
「心配かけてごめんね。そして色々ありがとうね」
「こんなことは二度とごめんよ」
「私も二度は無理よ、次は百パー逃げる!」
二人で笑い合い、それをグレイが穏やな顔をして眺めて。ほっこりした空気になって、じゃあどこで美味しいご飯を食べろと言うんだと話を強制的に戻して直ぐのこと。
「ちょっと待って、その前にグレイセルに確認したいことがあるのよ」
「私に?」
ご飯の話を無かったことにされ、不貞腐れかけた私だったけど、二人の会話に空腹を忘れる程の不安を覚えることになる。
「ねぇ、西側にある魔導師の塔、だったかしら? 魔法研究部門の塔かも? そんな所があるわよね」
「ああ……私がいた頃と変わっていなければ、西側にある複数の塔のうち朱色の門構えの所がそうだな」
「ちょっと気になる話を聞いてアストハルア家の側近に会った時に話を通したけれどその後どうなったのか聞いていないのよ。その塔って、何があるの?」
「碌な場所じゃないぞ」
「と、いうと?」
「不可侵領域のような建物で騎士団とて簡単には出入りが出来ないな、私も巡回で決められた日に監査でしか入ったことがない」
「……普段から人の出入りはあまりない場所なの?」
「王宮内に通常業務をする部屋が割り当てられているから、まあ、常に人が出入りするという感じではないはず……何があった?」
するとリンファは頬に手をあてがい、軽く首をかしげる。
「こんな時に出入りするのって、どんな理由があるかしら。碌な場所じゃないのよね? ……碌な理由じゃない気がしてきたわ」
チリン
ここでそれがくる?!
マジですかセラスーン様!!
「はい、はい!!」
私は勢いよく手を挙げ、グレイとリンファの会話に割り込む。
「多分それヤバいヤツ!!」
「えっ」
リンファが珍しく上擦った声を発した。
「なんか、なんて表現したらいいか分からないけど、多分セラスーン様だと思うんだけど、知らせたい事がある時の反応が今あった!!」
私の焦りが伝わってリンファの顔がこわばった。
王宮は事実上女王陛下が掌握し復権したし、【思想の変革】だって来た。形勢逆転、元国王達に責任を取ってもらって謝罪してもらって終わり後は帰るだけ、じゃないの?!
「行ってくる。ジュリはここで待っていてくれ。ロイドに護衛を―――」
グレイの手を握り、それ以上は言わせないよう遮った。
「私も行くよ、だって私に知らせたってことは、私が関わるってことだから」
困り顔をしたグレイを見上げる。
「危険がないとは言えはい」
「そんなの百も承知、でも大丈夫、グレイが守ってくれるって信じてる。私を本当の意味で守れるのはグレイだけだって、私は知ってるから」
するとグレイはハッとした顔をしてから、破顔した。
「ああ、そうだな。勿論守る」
この笑顔、実に頼り甲斐がある。グレイ最高!! リンファが呆れた顔してため息ついたけれど、それはスルーしておく。
グレイが宝剣に手をかけ、そして反対の手で私の肩を抱く。リンファも行くことになり二人が転移のために魔力を一気に解放したその時。
「おいおい、どうした何があったんだよ!」
ハルトだった。
元国王達を地下牢に押し込んで戻ってきたロイド団長たち近衛騎士団とハルト、そしてアストハルア公爵様にツィーダム侯爵様やヴァリスさん、他にも女王陛下が連れて行けと預けてくれた兵士達と共に私たちは西側にある朱色の門の直ぐ奥にある塔の前に立つ。
聞こえるのは王宮の政権交代による混乱と興奮が混じる独特のざわめきと、王都の未だ冷めやまぬ歓喜と喧騒がごちゃ混ぜになった音。なのにこの塔だけ不気味な程に静まり返っている。人の気配なんて全くなくて、窓がいくつかあるけれど真っ暗で中を窺い知ることもできなそう。
「おい、これ」
ハルトとリンファが先頭を歩いていた騎士団を押しのけて前に出た。
「呪いじゃん」
え、呪い?
「何なの、これ。呪いが充満してる。わざとそうしてるの?」
はい?
リンファ曰く、塔の入り口と外側はよくある結界だと。結界を解くか手順を踏まないと人の出入りが出来ない盗難防止によく使われる結界で、それが外側にあったから近づくまで気付かなかったと。その内側にさらに結界が何重にも重ね掛されている、と。
「でも中は別物、呪いだわ……気持ち悪い」
リンファは、肉体の弱体化に精神の混乱に衰弱を引き起こすし強制的に魔素酔いを引き起こすこともあるし、人によっては複数もの重くて冷たくてねっとりとした重なりあった呪いに耐えきれず中に入った瞬間全身麻痺して失神したり過度の負荷で心臓麻痺で即死を起こすこともあるはず、と言って不快そうに顔を歪める。
ロイド団長たちにはそれがはっきりとは分からないらしい。ただ、ギリギリ結界に近づき意識すると確かに中に明らかに不穏な気配のような物を感じると口を揃えた。
「おいおい、なんだここ。前からこうなのか?」
ハルトの問いにロイド団長がきっぱりと否定した。
「いや、違う。三ヵ月前に西側の巡回は我々が行ったが、こんなことにはなっていなかった。今月は……今月の巡回はラーノ達だったな」
ラーノって、騎士団団長の、グレイが倒したあの?
「あ」
そしてハルトが。
「これ」
足元に視線を落とした。
「最悪」
そして急に地面を睨みつける。
「地下だ」
ドン!!!!!
ハルトは片足を上げた直後、その足を地面に下ろした。
「うわっ!」
これが所謂衝撃波というものかと経験したことのない、体が跳ね上がる強烈な力が足裏から脳天を突き抜けた。私だけじゃなく殆どの人がその出来事に反射的に声が出ていた。
リンファがものすごい形相でハルトを睨む。
「ちょっと、なにしてるのよ!!」
「リンファ、お前はわからねぇの? ちゃんと見ろ」
「なにが」
「……呪いは今ので全部吹き飛んだ。地下だ、見てみろ、今なら見えるだろ」
「ええ? ……え、なに、えっ」
サァァァと血の気が引き、リンファは口元を手で覆ってその場で固まってしまった。
「なんだ、何がある」
アストハルア公爵様が身を乗り出した。
「人が死んだ時に放出される魔力の残滓が残っている。……とんでもねぇ数のな」
ハルトが冷ややかな声でそう吐き捨てた。
「なんだとっ?」
公爵様にしてはかなり珍しい、上擦った声だった。
そしてハルトは極めて冷静に見える感情の読めない表情で地面を凝視している。
「今、結界を壊す。行こうぜ」
いやホント、急展開。王宮まだなんか起きるのか!!と、書いてる本人が思いました、ごめんなさい。
春休みスペシャル連日更新は明日までです。




