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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * ハルト、介入する

 



 グレイがジュリの肩を抱いた。二人は揃って自分たちがいる場所を明け渡すように後ろに下がる。

 そこへ迷わず俺達は進む。二人は俺の後ろに一礼した後、その場を離れるために歩き出した。

 グレイとすれ違い様、拳を合わせた。

 振り向かず、ジュリの肩を抱いたまま、悠然と歩く姿につい笑いが込み上げた。

 血塗れでどうみても悪人だ。あれで自分の正義を貫いて正気でいられるんだからやっぱりあいつも狂人だ。

 そしてジュリ、お前もなんで血塗れなんだよ? 抱き合ったからか? おまえそういうのいつの間に平気になってたんだよ。怖いぞ。

 なんて事を考えて笑ったせいか、女王が目を細めて俺を見てくる。

「何か、おかしなことでも?」

「うん? そうだなぁ、まあ、この状況俺には他人事だからさ、面白いのかもな」

 俺の陽気な声に、あからさまにその場にいるやつらの顔色が悪くなる。

 王妃は顔面蒼白になり唇が震え、そして目の前の光景を否定するように首を振る。

 そして王太子は何が起きているのか分からない、そんな顔をして、俺の後ろをじっと見つめる。おそらく『誰なのか』わかっていない。

 そして国王。

 青ざめ、ぶるぶると体を震わせて今にも倒れそうだ。

 恐ろしいだろうな。殺したはずの人間が現れたんだから。

 こんな結果になったのは、自分たちのせいなのに。

 特に王妃、お前には失望したよ。

 お前のジュリへの期待は、全部グレイに繋がればいいって意味だったのか。それだけだったのか? マトモな王族はお前だけ、そう思っていたのに。

「お前も、そっち側だったんだな。……それとも、途中からそうなったのか。……どっちでもいいけどな、今更だし」

 俺の呟きが誰のことなのか分からなくてもそれでも女王には伝わるものがあったんだろう。眉間にシワを寄せ、国王たちを睨みつける。


「お手並み拝見といこうか、女王」

 俺のふざけた様子の声にも動じず女王は軽く頭を垂れる。

「安心しろ、お前の敵は俺が一人残らず平伏せさせる。殺しは避けたいだろ? もちろん、手に余るのは殺すけどな。まあ、国王は絶対に引き摺り下ろすけど」

 ヒッ!! っと声を上げたのは国王だ。

 こいつはいつになったら成長するんだろう。母親の王としての器に嫉妬して、王位から引きずり下ろしておいて、何一つ成長してねぇんだから話にならねぇなぁ。

 お前なんて殺したら悲劇の王として美化されるかもしれねぇから俺が手を下すことはないよ。

 お前には、背負う業がある。

「とりあえず、この場は任せた」

 すると女王は前進した。それを見て国王と王妃は後退りして、王太子はやっぱり訳が分からない、そんな顔をした。


 ベイフェルア国の真の頂点は、真っ直ぐ、『問題』と向き合った。


「久しいな、どれくらいぶりか覚えているか」

 凛とした声だ。

 人を導く、時には屈伏や服従させることを可能にする通りの良い重みある声だ。

 自分の親である前に、国王に対しての態度とは到底あり得ない、見たことのない言葉遣いと態度でようやく王太子は理解したらしい。目を見開いて固まった。ややあって国王がその問いかけに答えずただ怯えることに気づいて疑問と不信で自然と眉間にシワが寄って、その顔を国王に向ける。

「国王、そして王妃。この責任どうとるつもりなのか答えろ」

 がらりと変わった雰囲気に、誰もが息を飲む。あのアストハルア公爵でさえ。

 その公爵が慌てて頭を垂れた。それが合図のように、次々頭が下を向いていった。瞬く間に、俺の視界には人の頭部が女王に向けられる光景に変わっていた。

【称号:女帝】を授かった王族。

 レッツィが持つ【称号:戦王】に並ぶ希少な【称号】だ。

 何がどうなって、そんな女王をロクに探しもせずに死人扱いしたのか全く理解できないのがこのベイフェルア国だ。


「は、母上! 無礼ですよ!! 私に向かってなんてことを!」

「説明しろ」

「ひっ」

 女王に虚勢など通用するわけないが、あっさりとたった一言で押し返される様は正直見ていられない。

「国王おまえは国主として、この騒ぎどう納める」

 そして女王は、手に握っていた一通の封筒を投げた。

 それを慌てて拾いに前に飛び出してきたアストハルア公爵は、封筒を拾い上げ女王と向かい合うと膝を折り再び深く頭を垂れた。

「面を上げよ。公爵」

「は」

「久しいな……募る話はあるが、今はその時ではないな……それはお前が読み上げよ」

「御意」


 公爵はその封筒を見てすぐ誰からなのか理解した。した上で顔を強ばらせ、出した華やかな折り畳みのメッセージカードを開く。

「……!!」


 ―――此度の事態、到底受け入れ難く許せるものではない。二日以内に弁明してみせろ。期限を過ぎた場合バールスレイド皇国はネルビアと貴国の軍事境界線の停戦協定のなされていない全ての戦闘区域への共同参戦のための協定に合意、直ちに軍事行動を開始する。そして 《ハンドメイド・ジュリ》の経営者としてジュリ・シマダに対する此度の違法かつ悪質な対応に加担した全ての貴族に対し謝罪と賠償を要求する。なおそれに反対・抵抗・逃亡する場合も武力行使にてそれ相応の対応をする―――


 リンファ、恐ぇぇぇぇ……。ネルビアに参戦する理由がジュリのため、ってもうそれ、職権乱用の域を超えちゃってるし、その押花たっぷり、サーモンピンクのメッセージカードに書くことじゃねぇよ!!

 ただ、 《ハンドメイド・ジュリ》関連の経営権を全てリンファがちゃんとした手続きで取得していた事がここでジュリとリンファの手札として最高の役割を果たしたな。ジュリに手を出すってことは、リンファに手を出すってことになるんだから。

 この事実を知ってた人間は極一部。だから皆急に動揺して怯えだす。そりゃそうだ、リンファに喧嘩買ってくださいって言ったようなもんだしな。


「どうする、国王よ。バールスレイド皇国は 《ハンドメイド・ジュリ》どころか礼皇殿下に対しての無礼として見做し戦争しようと言ってきているぞ? 審問会をなかった事にするだけでは許す気はないようだ、ちゃんと説明責任を果たせるのだろうな?」

「わ、私はっ、騙されていただけだ、知らなかっただけだ! そんなの知らなかった!」

 マジか、ここでそれ叫ぶのか。

「そんなことはとうに分かっているしお前の事など聞いていない」

「そ、そんな言い方っ……」

「私が聞いているのは国主として、どう始末を付けるかだ。 《ハンドメイド・ジュリ》の経営権は誰が持っているのかを確かめずジュリ・シマダを連行し強制士官として扱っただけでなく、ククマットに攻め入って資産、他の全てに至るまで壊し奪おうとしたのはお前だ。間違いなく、お前の名で行われた。覆すことが不可能な事実が積み重なり丸見えの状況、さぁ、どうする」

「あ、わた、私は、こういうこと、に、不慣れゆえっ、だから」

「だから? 誰かに処理を、させると?」

 コクコク頷いてるんだけど……。え、マジで? 本気か国王。

「王家の人間ではない者に任せると? つまり、その者に王家の権限を許すと? ではお前は何者か。責任を放棄するお前は、なぜその玉座にいつまでも座っている。国を背負わぬなら即刻そこから降り王位を返上しろ」

「恐れながら女王、陛下は―――」

「王妃、お前もいつまでそこから私を見下ろしている。お前こそさっさとそこから降りろ、下らぬことでお前は今回のことを引っかき回していたらしいではないか」

 このタイミングで王妃が間に割って入ろうとした。これ以上女王に主導権を握られるのはマズイと思ったか、それとも何か考えがあったか。ただそれを当然許すはずがない女王によって遮られた。

 女王の言葉に王妃の瞳が揺れた。なぜそんなことを言われたのか理解出来ないんだろうな。

「ジュリ・シマダを守らなかったこと、必死に王宮の秩序を守ろうとした者たちに相談一つせず勝手なことをし続けたお前がそこにいられる理由を説明しろ」

「私は……私なりに出来ることをしたつもりです、決して守らなかったなど、そんなことは」

「無責任極まりない発言だな」

「え?」

「まずこの場でその虚偽も許しがたいが『つもり』だと? 王妃たる者が『つもり』の一言で済まされると思うな。ましてや王の代権を担うこともあったはずのお前が今さら言える台詞ではない。王の隣に立つ者として許されるものではないぞ」


 空気が張り詰める。

 派閥なんて無意味だ。

 この女王の前では、発言一つで首が飛ぶ。それほど苛烈な女だ。皆、それが分かっている。王妃すら言葉を発することを恐れて口を真一文字に結んだ。

「国王、この瞬間より王権を返上しろ。責任を負えぬ王など要らぬ、即刻この場を退出し暫くの間お前たちは謹慎だ、この騒ぎの沙汰は追って言い渡す。……お前はあまりにも愚かな行いで国を危機に晒した。今回だけでなく、私から王位を奪ったあのときからずっと、何一つ変わらず国を危機に晒し続けたのだ。……お前の愚行、悔いよ、恥よ!!」

 凛とした、女王の声が響いた。

 直後。

(んおっ?! なんじゃそりゃ!)

 声が出そうになって慌てて口元を引き締めた。

(ここで【スキル】かよ!)

 女王が詠唱無しで【スキル】を発動した!!

 しかもそれが【スキル:感情遮断】なんてものだ。どんなものかと詳細を見てみれば、対象者の思考にダイレクトに影響する喜怒哀楽、それを強制的に遮断し無の状態に陥らせるものらしい。これを国王、王妃、そして王太子に使いやがった。

 そのせいでここで反論なり抵抗するだろうと思っていた三人が、女王の指示で動き出した近衛騎士団に囲まれてもただ戸惑い挙動不審にその場でウロウロするだけになっている。感情が抑え込まれて思考もそれに引きずられて、極端な話、無感情で何事にも無関心な状態になっているわけだ。それでも挙動不審なのは心のどこかで抵抗しようとしているから、その一端が見えているってことだろうな。

(……マジか。【スキル:誘導】はこれから派生した【スキル】だったのか)

 なるほど納得、これでベリアス家が確かにベイフェルア王家の濃い血を引いていることは明らかだ。


 そんな【スキル】を発動されたせいで三人はこの場に不釣り合いな落ち着いた表情になって異質な存在になっていた。

「騎士団団長たちに告ぐ。その三人は騎士団の入る塔の部屋に閉じ込めておけ。そして外部との接触を一切出来ぬように徹底しろ。私が良いと言うまで絶対に出すな。私が直接命令を下す。それ以外でお前たちに接触を試みる者たちの名前は全て記録しておけ」

「御意」

 近衛騎士団団長が迷わず返した。

「今すぐいけ。……他の騎士団団長はいるか」

 その呼びかけに近衛騎士団が速やかに三人を囲ったまま移動を始めた。そして三人の騎士団団長が入れ替わるように素早く女王の前に並び頭を垂れる。

「お前たちには王宮内の始末を頼む。少々派手にやり合った場所があるようだし、まだ小賢しい鼠どもが騒ぎに乗じて好き勝手している。手段は任せる、抵抗するなら速やかに片付けろ」

 派手に……ああ、そこはグレイな。チラッと見ればジュリがグレイを見上げてて、グレイが目をそらしている。うん、そうなるよな。で、この場ではっきり『片付けろ』か。復権してすぐ言えるのすげぇよ。

 なんてことを考えているうちに。

 あっと言う間にその場が女王によって支配された。













「あんたの罪も重いぞ」

 わざと軽々しい口調で言えばアストハルア公爵が苦笑する。

「膿を出しきる為に王宮と距離を取ってたのは悪い判断じゃなかったけどさ、ちょっと腰が重すぎたんじゃないか? そのせいでジュリが巻き込まれたんだぞ」

「そうだな。【英雄剣士】の言うとおりだ。どうかこの首一つで収めてくれないか」

「バカヤロ!! そんなことしたら俺がキレたジュリに『グレイヤっちゃって!』ってグレイを差し向けられてヤバいことになるよ!!」

 マジだぞ、冗談じゃないぞ、あの二人なら本気でやるからな。俺の扱い酷いんだからな。

 公爵は苦笑していて。

「……つい、楽しくてな」

「何が?」

「ジュリに関わっていると次から次と未知なることに遭遇して。政治なんてどうでもいいと、何度も思ったよ」

「うわ、ここにもいたよジュリに毒されたヤツが」

 嫌そうな顔をすると隣で女王が静かに笑う。

「お前にもそのような無責任な面があるとは。長い付き合いだが初めて知ったよ公爵」

 すました顔をしたけどちょっと照れ臭そうな公爵は咳払いで誤魔化す。


「まあ、しばらくはこの王宮の後始末に付き合え、お前の所は夫人も子供たちも賢く敏くお前が私にコキ使われても安心して家を任せられるだろう?」

「残念ながらその息子が 《ハンドメイド・ジュリ》で働いておりますから、しばらくはこのままジュリのサポートに尽力するよう言いつけるつもりです。ですから私としては出来る範囲でとだけ先に申し上げておきます。それにこの国から離脱すると宣言いたしましたので」

「口減らずめ、そういうところも相変わらずだな、気に入ってはいるが。落ち着くまではとにかく付き合え、その後は好きにするがいい。引き留めてお前の心証が悪くなるとこちらとしても都合が悪くなる、離脱してもいい関係は保ちたいからな」

 そして女王が颯爽と歩きだす。

「ハルト、あなたも来てくれますか」

「ああ、もちろん」

 俺たちが向かうのは玉座。

 躊躇いのない悠然とした、威厳溢れるその歩く姿に広間の人間が再び頭を垂れた。

「アストハルア公爵、お前も来い」

「御意」

 女王は公爵がこちらに向かってくるのを確認し玉座に腰掛けた。その両サイドに俺とアストハルア公爵が立ち並ぶ。

「皆のもの、よく聞け」


 女王があたりを見渡す。


「此度の件、終息まで私が指名した貴族以外の関与を一切許さん。そして私は各国との交渉に直ちに入る。その交渉如何では、数多の者が罰せられることになろう。しかしそれは当然のこと、誰一人とて反論はおろか意見も私は認めぬ。此度()国王と共に画策し事を起こした者達は覚悟せよ。逃亡は許さぬ、するのならその瞬間、死をもって償うことになると思うがよい。そしてこの私の責任は重い。このような事態に陥ったのは私の当時の甘い考えによるものだ。こうして表舞台に戻った今この瞬間から本当の死を覚悟し臨む。そなたたちも、少しでも身に覚えがあるのであれば、決して逃げるな、目を逸らすな。これは己と、国の存亡がかかった一大事だと心に刻め」


 この言葉で事実上、ラヴィリエ女王が復権した瞬間となった。


 いや、そもそもの話。

 王位継承が正しく行われていなかった時点で復権も何も、単にこの女王が玉座に戻って来ただけなんだけどな。



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― 新着の感想 ―
王宮闘争編を読み返しながらあれこれ自分なりに考察したのですが。 なんというか、某説話のように、目の前にあった蜘蛛の糸はとっくに引き上げられた状態で、なおかつ足元もとっくに崩壊しているのにそれに気づかず…
これで、国の幕引きくらいはできるようになったんですかね。トップが変わったからとなかったことにはならないし、官僚機構や軍事力が失われているのも変わらないから国が終わっているのを保たせることもできないでし…
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