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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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王宮闘争 * 居場所

やっと、やっとここまできた……泣

あと二十話程で王宮闘争編終わる予定です。

まだ続くんかい!!

……作者自分でツッコむほど、長いです。

 



「ジュリ!!!」

 叫びにも似た、私を呼ぶ声。


 視界に捉えた瞬間、涙が一気に込み上げてたちまち視界が歪んだ。

 気の緩み、それをこれほど実感したことはないと思う。一気に自分が崩れて行く様が手に取るように分かった。緊張感を強いられていたのをずっと自覚していてもそれは仕方ないことだったし覚悟もしていたからそれ自体を苦痛とは思わなかった。

 でも今この瞬間、二度とこんな思いしたくない、そう強く思った。

 ガラガラと音を立てて崩れていく。

 虚勢を張っていただけだと気づいて。

 その姿を一目見ただけで、私はいつもの脆いダメな自分に戻っていく。

 守られることに馴染んだ自分に。


 せっかくこの目に映したのに、ぼやけて歪んで、はっきり見えない。

 それでも。

 勝手に足が、動いてた。無様にもつれてよろめいて、転びそうになって。それでも走ってた。


「ジュリ、ジュリ、ジュリ!!!」

 名前を呼ばれて、涙が溢れた。

「グレ、イ。グレイ、だぁ」

「ジュリ」

 グレイも、駆けよってきて。

 そして、そんな彼に両手を伸ばした。

 すがるように、伸ばした。

 私の腕が彼の体にしがみつく前に、引き寄せられて力強く抱き締められた。

 きつく、きつく、きつく。締め付けるように、息が出来なくなるくらいに。身体が軋むほどに。


「無事で、よかった。よかった、ジュリ」

 心地よい、聞きなれた声が掠れている。耳元に落とされたその声に、身体が震えた。

 嬉しくて、嬉しくて、全身が喜びに震えて立っていられない。

「うん、大丈夫……大丈夫だったよ」

 苦しくて、声が詰まる。それでも振り絞る。

「迎えに来る、って、信じてた。グレイのこと、信じてたから、大丈夫だったよ」

 情けない声だったけれど、びっくりするくらい弱い声だったけれど。それでも、グレイの耳には届けられた。

「信じてた」

「ああ」

「いつでも、信じてる」

「ああ」

「来てくれて、ありがと」

 また、グレイの私を抱く腕の力が強まった。


「もう、二度と離れない」

「うん、もうヤダ」

「離さないからな」

「うん」

「絶対に、もう離さない」


 人目を憚らず、抱き締め合った。指が食い込んで痛むほど、私はグレイの背中の服を掴んだ。


「……帰ろう」

「うん」


 その一言が、とても幸せだった。

 帰る場所があることが、これほど幸福に思えるなんて今まで考えたこともなかった。

 ああ、この腕に帰れる。

 帰る場所がある。

 私は、この男が好きだ。

 側に居ることが、好きだ。

 替えなんて存在しない。

 私には、この男だけ。

 グレイセル・クノーマス。

 この男だけが私の拠り所であり、帰る場所。


 だから、迷わない。


 鉄臭い血の臭い。視界に入るのは誰のものかわからない、赤い血の染み。


 殺したんだろう。何人も。ここにたどり着くまでに、この男からみたら天と地の力の差がある人であっても迷わず、躊躇わず、殺したんだろう。

 私のために。

 私を連れて帰るために。

 それが大罪だとしても。

 私のために。

 私が怯えず生きられる場所を得るために、この男は自ら手を血で染める。世界中を敵にする。


 ならば私は、それを全て赦す。

 赦して、共に生きるだけ。


 世界中を敵にできる男に惚れたのは私。

 共に在ると望んだのは私。

 そんな男と生きるために必要なら私も世界を敵に回す。

 もう、恐れない。

 屈しない。

 決して。


「グレイ、苦し」

「……ああ、大丈夫か?」

「平気。帰る前に、済ませたいことがあるんだけど、いい?」

「……大丈夫か? 私が出来ることは?」

 そっと体を離してくれたグレイの手は、背中から腕を伝い、そして私の手を握ってくれる。

「隣にいて。それが力になるから」

 涙を手で拭って、真っ直ぐグレイを見上げる。心を立て直して、震える足を『情けない!』と心で叱咤する。

 グレイがそんな私の目を見つめる。

「分かった」

 そう言って、そっと私の手を離す。私の足が震えているのを知っていて、離す。

「ジュリ、好きなようにしてくれ。何があっても必ず守る、支える」

 私が望んだから。一人で立ちたいと望んだから。支えるのは崩れそうになったときでいいと、私に好きにさせてくれる。

 これがどれ程私の力となるのか、後で話そう。この男に伝えよう。


 私はあなたに生かされていると。あなたがいるから、生きていると。


 離れた体。私は途端に落ち着いた凪いだ心で自分とグレイを見る。グレイの浴びた返り血が、私にも移っていた。手にも、腕にも、この男が奪った命の名残が。涙をぬぐった手にも。だとしたら顔にも付いている。

「いやなんでこんなに血塗れなの」

 冷静になるとこの状態が非常におかしいことに気付くわけで。

「流れで?」

「そこ疑問形にするのよくないよ」

「……説明すると長くなるが」

「あ、じゃあ今省略、帰ったら」

「ああそうだな」

 場違いな会話をして、一瞬沈黙して、そして二人で静かに笑った。

 これが、私達なのだと理解した。


 血塗れの姿になった私を見て、どこからか悲鳴を上げた声が聞こえたけれど、どうでもよかった。

 これで心が凪いでいる女なんて。

 ここにいる人たちには、私は狂っているように見えるだろう。

 それでいい。

 この視線も、私が背負うもの

 この血も、私が背負うもの。

 この男と共に背負うもの。


 覚悟を決めた。


 私は。


 グレイセル・クノーマスと共に生きる。『この世界で生きていく』。












 グレイは動揺と混乱が入り乱れるその光景を眺めながらスラ……と剣を抜いた。

 刹那、人々の声が消え去った。代わりに息を飲み込む音、後退りする音が聞こえる。グレイの視線は一度私に戻って、そしてある一点に向かった。私がこれから誰に向かい合うのか分かっている。

「ジュリ」

「うん?」

「ウィルハード公爵閣下だけではない。私が思いつく限り、ジュリの『味方』と会ってきた。お前の後ろには、たくさんの味方がいる」

「……うん」

「恐れるな」

「うん」


 頷いて、深呼吸をして。

 躊躇わずに。

 向き合う。


「国王陛下」


 この人に感情が抱けない。なにも。もう、何も感じない。初めは少なからずあった憐れみすらもうない。放っておけば勝手に自滅するのは分かりきっているから、このまま私がここを去っても問題ない。相手にするのも馬鹿らしく感じる程度の存在。


 でも私は、この人を許してはならない。


「どうでしたか? 私を権力とたくさんの嘘で無理矢理ここに監禁した感想は」

 私の発言に、周囲がざわついた。

 私たちに向けられていた全ての視線が国王に一斉に向けられた。

「【彼方からの使い】の力は、王家の為ではないと、ご理解頂けましたか?」

 国王は、私とグレイ、たくさんの人たちの視線から身じろぎした後目を逸らす。微かに考え込むような仕草をしたけれど、それは明らかに『逃げ』だった。ここで国王は何も答えられない。下手に喋ったらそれはあらゆる憶測を呼ぶし墓穴を掘る。

「この力は、決して誰かの所有物となるための力ではありません。【スキル】も【称号】も魔力もない私が与えられた力は、とても広域に影響を与える。しかも長く、根付く影響力。そんな【変革する力】と【技術と知識】は、【スキル】と【称号】に匹敵するのかもしれません。そう思ったから、あなたは私を得ようとした。けれど、私がそれを望まなかった。絶対に、許さなかった」

 そして、私はポケットからここで作らされたペンダントトップを、見覚えのある一人の男に向かって投げつけた。


「わっ?! え、なんですか?」

「やってみて。魔法付与」

「え?」

「あなた、出来るよね? それは補助系魔法と相性がいい素材」

「あ、えっと、え?」

「いいからやってみて」

「は、はい!」

 魔導院に所属する若くして出世したものの、今の研究室の人たちとは色々と合わないことが多く別部署に飛ばされてしまった後、レオン氏がすくい上げて助手にしたんですよと紹介してくれた魔導師は、私に言われるがまま、その場で魔法付与を試みる。

「あ」

「どうした?」

「……だ、だめだ」

「おい?」

 男がひどく焦った顔になり、その周囲はそんな男を囲みだした。

「出来ない」

「は?」

「やっぱり! 魔法付与できないっ」


「ジュリ、あれは?」

「私が突然帰れることになった理由」

「……本当の話だったのか」

「私が扱えば性質として魔法付与が出来ない素材を除けば、全ての物が魔法付与できて、その効果が向上するでしょ、でもね……ここで作ったものは、一つも付与出来ない」

 加えて私が魔導師に渡した物は魔法付与の経験が浅い魔導師でも高確率で魔法付与が可能だと言われる魔物素材であることも説明した。

 視線を逸らすことなく、それでもグレイの驚きはその肩の揺れで私にははっきりわかった。

「本当に付与出来なくなったの。そのせいで魔導師三人が城を追い出されたって。結局呼び戻されることになったらしいけど、その三人はこの城でもトップクラスの実力者って聞いてる。その人たちが魔法付与に向いている素材にすら付与出来なかったって」

「……恩恵が、働いていないのか」

「だと思う。 そして、セラスーン様がこの王宮で呼び掛けると一切反応しないの。存在は感じてるの、守ってくれてるって。でも、声は聞こえない。明らかに異常事態だよね」


 動揺する魔導師や貴族たちに、私は近づくために歩き出す。それに合わせて、グレイも隣を悠然と歩き出すと、小さな悲鳴が至る所で起こって、魔導師達の周りからは波が引くように人が逃げていく。

「出来ないでしょ?」

「どうして、なんですか? ……誰もこの事、解明できなくて」

「私も最初驚いたの、こんなこと初めてで。そのせいで、叩かれもした。そのあとも試して貰ったけど、ダメだった。何を使っても魔法付与が出来ないものしか出来なくなって。あなたたち魔導師が悪いわけじゃないのよ、それ。神様たちの意思じゃないかな」

「……え?」

「作らなくていい、作るな、そういうことだと思う。ここにいる限り、私が作るものに恩恵は生まれない。私は人を殺すために使われる装飾品を作るために 《ハンドメイド》をしてるわけじゃないの。買ってくれた人がどう使うかは勝手にしてもらっていい。けれど、戦争のために、人を殺すために使われると分かっていて作ったのは今回が初めてなのよ」

「けれど、あなたは、『覇王』の時……」

「ああ……じゃあ聞くけど、あの時グレイとハルトは人を殺した?」

「え……」

「神の領域に達するなんて言われる魔物から、人の命も生活も守る決意をした二人のために、力になりたいと私が思うのは当たり前でしょ。あのときは必要だった、だから頑張って作った。でもね、もしグレイが戦場に立つ時、そのためには私は作らない。たとえそれでグレイが傷ついても、人を殺すために戦場に行くこの男に私は付与品としての物は作らない。その信念は曲げない、決して、曲げないと誓っているの。自分に、神様に」


 そして、改めて、私は国王に向き直った。

「色々と知ったから、帰すことにしたんですよね? そして、国や組織で裏から手を貸してくれていたところが関係を切って来たんじゃないですか?」

 国王と王妃が『なんでそれを!』って顔をした。気づいてないのあんたら二人だけ、こっち側は皆知ってるよと声を張り上げそうになるのを我慢する。

「私はそこに興味はありません。とにかく、私をここに留めておくと不都合な事が起こると今更知ったんですよね、だから帰れって言い出した」

 ついでに言えば、隠し財産の確認とか、逃げる準備とか、かなりバカバカしい理由も含まれてる気がしてる。

「はー……」

 ペンダントトップを握り絞めたままの魔導師の隣、別の魔導師らしき男が腰を抜かして崩れるように床に座り込む。

「神の裁きを、回避できた、のか……?」

「そんなわけあるか」

 未だ甘く軽い考えしか出来ていないその呟きにイラッとしてつい言葉が荒くなった。

「え?」

「神様が動いて下さった方が、幸せな場合もあるの。私を通して行われる【選択の自由】はね。でも、この男は違う」


 伝わる。

 底知れぬ怒りが。

 静かだからこそ、伝わる。

 グレイから溢れる、無尽蔵の怒り。

 ハルトに言われていた。

 この男の唯一のストッパーが私だと。

 私が生きている限りは大丈夫。

 けれど、もし。

 私が誰かの手によって殺されたなら。


 狂気と憎悪。


 それだけがグレイを支配する。

 そうなれば止められるのはおそらくハルトだけ。しかも殺すしかなくなる、と。

 私がこの男の理性であり、命であり、そして、半身。

 失えば、バランスを崩し、二度と元には戻れなくなる男。

「私がもし、本当に戦犯者として罪が確定していたら……万が一、本当に幽閉されたら、いまここに生きている人は一人もいなかった。タイミングが少しでもズレていたら、味方以外今誰も生きてない」

 世界を滅ぼす。

 それが出来る。

 そしてジワジワと感じる奇妙な熱。

 セラスーン様だ。

 直感。

 あのお方が、見ている。

 私の体を通して今この場を隅々まで、全てを見ている。

 グレイとセラスーン様。どっちがストッパーを外しても、人間にとってはロクな結果にはならない。

「グレイ、大丈夫だから」

 私のそのたった一言にグレイの殺気が弾け飛ぶ。

「ここは、ここを最後に終わらせるのは私たちじゃない。私は、あくまでその引導を渡すだけ。私は『きっかけ』にすぎない。この先は―――」


「はいはーい!! 皆さんご注目!!」


 誰だ、この空気をぶち壊すのは!!


 あ。


 ハルトだった……。


 そしてもう一人。


 カッカッカッと歩くその足音はおそらくそれなりに高さのあるヒールを履いている。背筋が伸び肩の揺れもなく硬質な芯を感じるけれど流麗で洗練されたその歩く姿は威厳の塊でありながらも上品さがにじむ。

 白髪と顔のシワからそれなりに歳を重ねているはずなのにその顔つきと眼力は恐ろしく生命力に溢れていて。

「あれが、元、女王陛下……」

「ああ。……だが、もう『元』ではない」

「そう、やっぱり、そうなるよね」


 暗殺未遂の果て、十年以上の眠りから覚めた人。


 ラヴィリエ女王陛下。


 その人がついに現れた。





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― 新着の感想 ―
もう、だれか止めをさしてあげてって思います。もうどうしようもないし。 ハルトさんと元女王さんのコンビに任せるのが一番穏当に片づけてくれるんでしょうかね。他だとちょっとだけ凄惨な感じになっていきそうです
 あと二十話って短いですよ!  シリアスとシリアスの間の休符、ハルト(笑)
おはようございます。 ジュリさんは、ずっと帰りたい気持ち、理不尽な状況に怒りなどがあったかと思うのですが、 グレイセルと結びついたときでもなく、結婚したときでもなく、この場で、心が定まったと言うか、…
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