王宮闘争 * 監禁中!ですが。再び
ガラス、宝石、そして魔物素材。共に小さいサイズの製造とカット・研磨が現在高い水準で開発ペースも品質維持も安定しているククマット。
してきた、ではなく安定している。これ大事よ、日々細かなものを作る気満々な私にとっては本当に大事なことなのよ。
アクセサリーを自作する人達なら誰でも体感したことがあるだろう感覚の一つとして、作りたい物を想像通り、デザイン通りに仕上げるためにはまずそれを可能とするパーツがある事が前提となるので納得いくものを見つけるまで探すことになる。メインとなるルースを自分で加工する人も中には居るけれどそのためにはそれ相応の道具が必要で全員が手を出せるというわけじゃない。となると、頼るは既製品。この既製品の『サイズの豊富さ』こそ、ハンドメイドをするときの助けとなってくる。だから実店舗なりネットなり、様々な店を見て探す事になるんだけど。
現代日本のハンドメイド用品の取り扱いをするお店、多くない? と思った事ありません?
特にオンラインショップ。専門店に限らず扱っている店も多く、とある留め具パーツを検索したら何十件と出てくる。
そしてここで少々困る事が稀に起こる。
滅多に使わない物を購入しようとする時。
送料無料だけど量が多すぎて絶対無駄にしてしまうしかなり割高、必要数のみを買えるけど送料高過ぎる、他のパーツと一緒に買えば送料無料になるけど取り扱い商品が少なくて欲しいパーツがない、など。
この時頭で軽く送料含む材料費を計算していた時もあるんだけど。
「結局実店舗で必要数を買ったほうが圧倒的に安くなるから作るの我慢して他のを買いに行くときに合わせて買うようになったんだよねぇ、だから『今作りたい!』ってなっても作れないジレンマに悩まされたりしてた」
誰かに話しかける勢いのはっきりとした独り言だったので、上にいるシングさんが一瞬天井開けて顔出した。隣に知らん人いる……。アストハルア家のスパイかな、慣れてきた自分、本当にこれで良いのかと自問自答する日々が続いてますよ。そういえばシングさん、ペリーダ伯爵様にとっ捕まえられてショック受けてたけど立ち直って良かった良かった。あの人も相当奇特な人なので気にしないでほしいわ。
「で、それをお前は解決したいって?」
「いやぁ、現状無理だからやっぱり完成品を作るしかないかな、という考えに至りました」
質問にそう返したら妙な顔をされた。
質問してきたのは、ツィーダム侯爵夫人エリス様。
急にこの人現れたのよ。しかも近衛騎士団団長さんを後ろに従えて。
「アストハルアの三男だけでは足りんだろう、来てやったぞ」
と。
ロイド団長、すっごい憔悴してたのよ、顔に『帰ってほしい』って書いてあるように見えたのは幻覚?
エリス様絶対無茶しましたよね?! 侯爵様怒ってますよ!! と言ったらこの人。
「アイツのことなど知らんな、興味ない。それにヴァリスは私に賛成しているからいざとなればアイツを力尽くで抑え込めと言ってあるから問題ないしクノーマス家が独立宣言したことで王宮内がゴタついている、その処理に手一杯でこちらを気にする暇などないだろう」
「ええ……」
「国内への悪影響を最小限に、なんてことを言っていた。既にボロボロなんだから滅んでいいと思うがなこの国は。それでも貴族としてやらねばと馬鹿らしい貴族の矜持とやらで奔走しているのはアイツの意思だし私は私の考える正義や矜持で動いている、お互い様だ。口出しされる覚えはない」
本当、夫婦仲冷めきってるなぁ、と遠い目になりました。
そして王宮、こんなに簡単に人の出入り許しちゃうくらいに今混乱してるんだね……。
ククマットとクノーマス領は私のわがままと勢いについてきてくれる工房や職人さんが多いというありがたい環境なので現状さほど困ってないわけ。でも他の領となるとツィーダム侯爵家やアストハルア公爵家ですら実情は厳しい面が露呈している。
要するに私の様な人がいない。
何か一つ作るにしてもデザインどころか『どういった物を作るべきか』から始まるため開発時間がククマットとクノーマス領の数倍、数十倍かかる。こういう時【技術と知識】として私の 《ハンドメイド》の経験とそれに必要な物を知っている記憶が如何に重要なのかと度々実感する。自分を偉いとか尊いなんて思ったりしないけど、セラスーン様が私を召喚した理由に納得だよ。
私、ホントに勢いで『作ろう』『やろう』『作ってよ』『やってみてよ』って自分にも他人にも求めるからね (笑)!! 知ってるから言えることだわ、うん納得。
私は目の前のエリス様、そして隣に座るアストハルア公爵様にこんな事を考えてましたと軽くお話した。
「ということで、いつも通りアストハルア家とツィーダム家は巻き込みますのでよろしくお願いします」
「……」
アストハルア公爵様がエリス様のことを騎士団から相談されて慌ててやってきた時の顔は珍しく本気で慌ててて、ごめんなさい、めちゃくちゃウケました。そしてエリス様を追い出すのは無理だと判断していたようで、お小言を言った後は普通にその隣に座って今に至る。
ついでに、監禁されてるくせにお前はまた……って言いそうな目で睨まれた。でも気にしなーい。
そしてざっと描いた絵を二人の前に置く。
「これ、オープンリングと言います。今までのフリーサイズの指輪と違うのは、フリーサイズを可能とするリングのカット部分が手の甲側、つまり見える側に出ていてそれがそのままデザインとなるところです。これによってフリーサイズの指輪の種類が一気に増えますのでそれ作って売りましょうよ」
金属の質、留爪や台座の精密かつ丈夫な作り、そして日々進化するカット・研磨の技術。
なりよりそれらの選択肢の多さ。
パヴェデザインのアクセサリーも本格的な製作が始まっている。
ここで一気に畳み掛けたいわけよ。
世の中が自作も購入もまだまだ手が出せないというなら、出来る奴がもっと幅広く既製品を世に送り出して、アクセサリーがもっと身近な存在になるようにしてやろう! と。
あのね、最近今更実感しているのが日用品や雑貨、小物といったもので可愛い物やキラキラしたものを世に氾濫させるにはこの世界はまだ未熟でかなり困難だということ。
買わないんだよ、手の届く価格で買えるものがあっても『そこにお金はかけられない』っていう気持ちから。
そのせいで寧ろ自分用というよりは誰かのプレゼントとして購入する人がここにきて一気に増えた!!
勿論プレゼントの幅を広げたいという私の気持ちとしては嬉しい事ではあるけれど、『なんか違う!』感が最近出てきた。
うち、ギフトショップ専門店じゃないんだよぉ!!
という日が結構ある。
それを如実にしているのがギフト用袋をお願いしている内職さんの一人当たりの収入と内職さんの雇用の増加。
うちの商品は元々自分へのご褒美として買う人もとても多いので、ラッピングを希望する人は凄く多いんだけど、それにしたってギフト用の袋を作ってくれる内職さんの人数自体を増やさないとヤバいくらい。
要するに、まだまだ『身近』じゃないんだよね。
《ハンドメイド・ジュリ》よりも以前の話、キラキラ、綺麗、可愛い物が庶民には身近じゃない。
特別感から脱していない。
ククマットとクノーマス領ですら、まだ。
「なのでアストハルア公爵領とツィーダム侯爵領はいつも通り巻き込まれて下さい」
各地の大市で同時開催、『アクセサリーショップ』やりましょうぜ!!
専用の移動馬車でもいいですよね、小さな屋台を複数出して屋台ごとに特徴出しても良いですよね、ついでに自宅にあるアクセサリーを手軽にリメイク出来るように革紐やククマット編みに染色済みの紐や開発してきたたくさんのパーツや金具の宣伝かねて売るのもいいんじゃないでしょうか!!
「ちょっと待て。この話はヒタンリ国とクノーマス家にしてあるのか?」
エリス様からの質問。
「全然してません。昨日思いついたことなので」
素直に言ったらエリス様から睨まれた。
「どっちも大丈夫です、もう私はそういうものだと思ってるので多分驚きもせず対応しますから気にしなくていいと思いますよ」
お前が決めるではないと怒られた……。だって本当に怒られたことないんです〜。誰か助けて、この二人説教長いです。
オープンリングの特徴として、中央にメインとなる石やパーツが来ないのでデザインとしてはちょっと変わった部類に入るのかなぁ、と個人的に思う。
でも個性的でありながら覆われないデザインのせいかスッキリとした印象もありいつもと違う気分を出したい時に向いているとも感じる。
何よりフリーサイズというのがいい。すべての指に出来るわけじゃないけれど、それでも『気分で』指輪を付ける指を変えられるという楽しみ方が出来る。
気分で変える、大事な要素よ。
「ガラス、天然石と魔物素材、それぞれで価格と売る場所を分けるべきか?」
公爵様がそう呟く。
「それいいと思いますよ。曖昧な価格設定よりも明確にしてあったほうが買いやすさってあると思いますし」
それを聞いてエリス様がふむ、と息を吐く。
「であれば、天然石には特別感を少し持たせたいな。例えばジュリの店で既に活用されているアクセサリー用の台紙に付けてさらに箱に入れ売るとか」
「是非それはやりましょう、見栄え、大事ですから」
それを聞いて一部最初からリングケースに入れて売る指輪もありだな、と思いつく。
ケースが付くだけで特別感が出せるよね。そしてそれがあってもアクセサリーは普段使いが可能な手軽さ。プレゼントにしてもいいし、自分用にしてもいい、買うときの『目的』の幅が広がる。
そしてある程度フリーサイズとなれば、ルースの色やデザインによって男性向けの物も用意できる。
そこまで話しふと気づく。
「そういえば……手の形をしたディスプレイもないですよね、この世界」
二人の顔がクエスチョンマークだらけになってしまった、ごめんなさい。
「あのですね、所謂マネキンです。手の部分だけの。指輪やブレスレットのためのマネキン」
「お前の世界にはそんなものがあったのか」
「ありましたよ。どこにでもあった、というわけではないですし、どちらかというとブレスレットや手袋の展示に使われる事が多かったですかね。でもあれに飾られているだけでやっぱりパッと目につきやすくて、立体感が出るので付けた時のイメージもしやすいっていう利点があります」
やっぱりさ、こうしてアクセサリーが順調に増えていくならそれを見せるためのディスプレイの仕方も増えていくべきじゃないかと思うわけ。
トルソー、ディスプレイ台、そして装飾。もっと見やすく、分かりやすく、そして興味を引く見せ方も考えていかなきゃね。
私はテーブルの上に綺麗な布を敷き、その中央に自分の指輪を外して置く。その周囲にネックレスチェーンやカットと研磨しただけの魔石や魔物素材を散りばめる。
「ここにドライフラワーも加えたりして、こういう見せ方をうちのお店でも新商品が出る度に窓のところにしてますが、これも加えたら立体感が出るし新商品や人気商品がどれかを見せやすくもなります。そして、ちょっとエリス様触れてもいいですか?」
「ああ、構わんよ」
「腕部分の長さ次第で、実際のドレス等の袖を使いこんな色の服や素材と合わせると素敵ですよ、というのも見せられます」
「あ、なるほど」
エリス様が声に出してそう反応し、公爵様が唸るような息を漏らし頷いた。
コーディネートしてみせるのって、結構大事じゃない?
やっぱりさぁ、誰かを真似るとか、参考にするってオシャレの基本だと思うのよ。特に今まで身につけたことがないものはね。
そんな話をしていたら。
「公爵閣下ぁぁぁぁ、お戻りいただけませんかぁぁぁ。もう夜ですよぉ!!」
「「「あ」」」
この部屋を訪ねて来た人がいますがどうしますかと扉前の兵士さんに言われてその人を招き入れたら公爵様のこの王宮内での部下だった。
色々とやらなければならないことが停滞しているらしい。全部公爵様の決裁待ちだった。
外はすっかり暗くなり、お月様が顔を出していた。
室内は午後に曇り空になり早々にランプを灯していたからそのおかげで煌々と照らされていたので気づかなかった!!
公爵様は飄々としているけれど流石にエリス様がバツの悪そうな顔をしている。
「ゆっくりしすぎたな、私も流石に戻るよ」
そう言ってそそくさと出ていって。
「まあ、あまり気にするな。すべてが停滞している今の王宮内ではは些末なことだ。私が戻ったところでどうにもならん」
いや、それあなたが言わないでくださいよ、とツッコミしたいのを我慢して、扉から顔を出して見送った。
……監禁中だよ、これでも。
ジュリの久しぶりの企画提案の回でした。
王宮闘争編が長引いておりますが、本来のジュリはこんな感じですよね。




