王宮闘争 * ハルト、また行ってみる。
昨日2月2日にアーススタールナ様より『ハンドメイド・ジュリ』発売致しました!!
電子書籍版にもSSございますので、本は置き場に困るという方はそちらを是非ご検討下さると幸いです。
あ、そして本日文字数多めでございます。
―――神界―――
「神も間違ったりするんだなぁってしみじみ思ったよ、そしてなんでだ? って疑問」
俺の言葉にライブライトが目を丸くする。
「ん? なんだよ、なんでそんなに驚くんだよ」
「何の話をしている」
「えぇぇぇ、なにそのすっとぼけた感じ」
「……」
今度はしかめっ面。
「お前わかってやってるだろ、それ」
次に不愉快そうに目を細めた。
『それ』。
俺はずっと気になってた。
この世界の人間は神によって生み出された。世界の発展というゲームの盤上に必要な駒として追加された要素の一つに過ぎない。
自分達の欠片を使って生み出したエルフと人魚。数の少なさを補うためとその欠片を持つ者たちに近い能力を与えられた獣人。
それでもまだ、世界を発展させるには足りなかった。
だから人間をそこに追加した。
神の力を使えず脆弱な肉体を持つ反面、エルフ、人魚、獣人とは違う多様性を生み出しやすい人間を。
数と多様性は確保できた。
しかし脆弱。
だから神はこの世界に『魔力』『魔素』という神の力とは似て非なる力も与えた。
曰く、その力は神の力に遠く及ばず。
曰く、その力は神の力を劣化させたもの。
それでも間違いない。
それは純然たる力。
地球に存在する物とは比べ物にならない可能性を秘めた『エネルギー』。
俺だけじゃない。【彼方からの使い】として召喚された奴らは皆、この世界の歪さに遅かれ早かれ気づいてきた。エネルギーが一人歩きしている世界だと。
地球は長い年月を掛けて火を水を風を、そしてそれらが属する自然を研究し解明し原子、電子、さらに小さな世界にまで目を向け、歴史と試行錯誤によって発展し、人の営みに必要不可欠な存在になった。
ところがこの世界の神々が生み出した魔力や魔素といったエネルギーは……。
「常々考えてたわけだ。なんで魔素と魔力を先に世界に落とし込んでおかなかったんだって。自然界に存在する火や水と同じくなんで先にそれを馴染ませておかなかったのか。ついでに言えば、途中からぶっこんだそれを獣人や人間に使える状態にさせたのか、物凄い疑問なわけ。『直ぐに使えるエネルギー』が最初からあったらさ『そういうもの』だからって追求しなくなるよな。だから、魔法は使えてもその原理や真理を知らずに根本にある『魔力とは』っていう疑問について考えない。当たり前にあるから当たり前に使う。それで終わる。それで困らないから追及もしない。……で、お前らは困ったわけだ、いや、正確にはこう考えた。『ここまでしても発展しない、どうすればいいんだ?』って」
おー、おー、怖い顔になってるぜ?
「で、もっと余計なことをした。突然出てきた魔法付与だよ。あれの発祥が分かっていないって時点でおかしいんだよ。普通なら人間が、誰かが考えました、生み出しました! って声を大にして言うことなのに、誰も知らない。余所者の俺たちからしたら『そんなの神様がやったに決まってる』って直ぐに思いつく。でも違うだろ、この世界は。その証拠に、古代文明では初期に生み出された今の魔法の原型が体内の魔力消費を必要とせずに自然界に存在する魔力の素といわれる魔素を人為的に魔力に変換させて利用できるんじゃないかって所まで技術は進歩しかけた。けど、人間の覇権争いで奪い奪われが激しくなって、その古代文明ごと一度、全部消えたよな」
ライブライトは真っ直ぐ俺を見ている。喋って欲しくなさそうな顔してるよ。
「……そしてこの時も、お前たちはやらかしてたんだよな。全てが消えてしまうのは惜しい、だから少しだけ復元して残そうって。で、使い勝手のいい、既に活用法としてほぼ完成していた魔法を残した。種類も質もなにもかも違えど、地球は古代文明の解明は人間が自力でやってる。莫大な金と途方もない時間を掛けて、最新技術を駆使してなお謎が多い古代文明を、今でも地道に、全てを解明しようと、歴史を知ろうと世界中でいつも誰かがやってる。神が介入せずにな。……ここまで言えば、すっとぼけたりしないよな?」
ライブライトは無になった。
そこに感情はない。能面のような、角度によってどんな感情にも捉えられるのとも違う不思議な無の表情と言えばいいかもしれないな。
「お前ら、失敗したんだよ」
この世界の歪さの原因。
それは今目の前に存在する全能を司るこの世界の至高の神率いる全ての神による『世界への介入』が引き起こしたもの。
「エルフと人魚どころか、獣人にだって純粋に戦いを挑んで勝てる人間なんて数えるほどしかしいないのに、なんであんなに傲慢で万能感に囚われた人間が多いのか。そりゃそうだよ、なんかよくわからないけど魔法が使える、魔素のことをなんとなく知ってるっていう半端な力と知識を何の代償もなく貰えてるんだから。勘違いもするよ、『俺は選ばれた人間だ!』『神は人のために存在する』ってな。望めば何でも与えてくれるのが神だと思い込むことになった」
この世界の間違いも失敗も、元凶は俺の目の前に。
「もし失敗を繰り返したくないなら、人間みたいな感情を持っちゃいけねぇよな。良くも悪くも神は平等であるべきだろ。でもお前らは気まぐれ、思し召しを盾にして不平等だ。その典型的な例がセラスーンとジュリのような、たった一人の人間への寵愛と執着。この世界ならグレイセル・クノーマス。あいつはジュリが絡んだことにだけ、過度に『喜怒哀楽』を表に出す。でもいいんだ、あいつはちょっと突き抜けてても人間だから。所詮寿命が来たら必ず終わりを迎える生き物だから。世の中に与える刺激なんて微々たるものだろうから。……神は、どうなんだろうな、と俺は思う。『喜怒哀楽』があるのは、世界の発展の妨げじゃないか? いちいち感情を顕にしながら何かと理由を付けて手を出して介入を繰り返す。そんな事を繰り返したから最も脆弱な人間を最も傲慢かつ下品な欲まみれにしたんじゃねぇの?」
ライブライトはしばし無言を貫いて。
でもある時ふと肩の力を抜いて、ため息を漏らした。
「いつから気付いていた」
「わりと初めから」
「……」
「当たり前だろ、魔法とか魔素なんて便利な物が存在しているのになんで俺たちが何度も召喚されてんだ、って疑問しか生まれねぇわ」
「そうか」
「だからな? 最初の疑問に戻る。お前らのその感情、最初からあるものなのか、それとも後付けなのか」
「……」
「邪魔だろ、感情なんて。喜怒哀楽に振り回されてるから失敗するんだろ? でもゲームを『楽しむ』なら感情は必要か。……いつ、どの世界を見本にしたのか、それとも独自の世界を目指したかったのか、どっちにしても一から作るならとことん楽しみたいよな、それこそ……ジュリみたいに」
俺は自然と笑みを浮かべた。わざとらしくではなく、本当に自然と。
「一喜一憂しながら一から考えて完成させる。その達成感は、似てるよな。単なるスケールの違いで、お前ら神とジュリは同じことをしてるんだ。決定的に違うのは、楽な道を選んでいるかどうかだ。……ジュリは失敗ありきで物作りしてるって言ってるけど、あいつの失敗は許される範囲だ。でもお前たちのは」
「ハルト、もういい」
ライブライトが静かに俺を制した。
その時。
空間が歪む。
「あら、そこで謝罪したり認めたりしないのは貴方らしいわね」
セラスーンだった。
何もない空間から生まれ出るように、するりと光の筋と共に俺達の前に現れる。
その光景はいつものと変わらない。けど、その姿は異様だった。
(なんだ? まるで……)
具現化したその姿は、薄っすらと何かが絡みついて見えた。ぼんやりと輝くそれは鎖に見える。
全身を太い鎖で覆われ、顔の半分も隠れている。それでも本人は気にしていないらしい。
「私は私の失敗を理解しているし、認めているからジュリを召喚したわ」
「ジュリに『発展』を担わせるためにか」
「そう、彼女の地球での人生を奪ってでも私は彼女が良かった。彼女なら出来ると思った、私の力は、彼女を通せば正しく『発展』に落とし込めると信じていた。ジュリが私を恨み憎んでも構わない、それでいい、それだけの事をしたのは私だわ。それでも私はジュリに託したかったのよ、私の望む『発展』の一部を」
「ま、それは大成功だし大正解だったわけだ。誰かさんと違ってな」
俺とセラスーンの視線を受けて、ライブライトは鋭い視線を返してきた。
「多分、お前は最近も失敗した。それは俺を召喚した後、俺に興味でもうひとつの【称号】を与えたこと、その時点で世界最強の【彼方からの使い】を生み出しているのに、さらに俺を成長型にしてしまったこと。……お前のその興味や執着を否定する気はない。でもな、そこに感情はいらなかった。喜怒哀楽は、入れちゃいけなかった。お前の力は次元が違い過ぎる。でも人間の俺はその力の一端を与えられた。……この世界の奴らはだから『また』期待した、望んだ、特に王侯貴族たちヒエラルキーのトップにいる奴らは選民意識のせいで余計に『神は人に最強に至る力を与えることもある』って願って期待して、それが当たり前だと思って来たのを輪をかけて過信させた。それが巡り巡って、ジュリに災いとして降り掛かったんだよ、あいつは弱いから【称号】【スキル】魔力もないから簡単に支配出来ると思われた。あいつから、神の力を奪えるもしくは利用できると思わせたのは……お前だよ」
「ご機嫌だな」
「ええ」
「ライブライトの『審判』と『決定』に、たとえ最高神四柱でも、否を言えないんだっけか」
「そうね、私たちはあの至高の神から生まれているから。最後の最後に、決して逆らえない。貴方もそれは既に体験済みでしょ。『覇王』誕生を止められなかったのだから」
「まあね。それで? お前のその姿もあいつの影響か?」
「【選択の自由】を薄く、広く、そして深くね、事前に張り巡らせて勝手に発動するようにしていたのがバレちゃって」
「は?」
「あの城ではランダムに情報が『反転』するようにしていたの。 《紛い物》が自滅しやすいように。そうすればジュリが【思想の変革】を起こしやすくなるもの。何よりジュリがいることで【選択の自由】が自然と発動しやすくなってる、ふふっ、踊らされる人間は、面白いわね?」
「おいおい」
反転って、つまり。真実が嘘になったり、嘘が真実になったりって、ことだろ?
「一歩でも王宮の外に出ればいいのよ、自然と【選択の自由】の影響は弱まるし消えるから。でも出ない者が殆ど。面白いわね、あそこなら偉くなった気分になれるから、かしら?」
セラスーンは愉快げに目を細めた。
「笑うことかよ? 大丈夫なのか?」
「さあ? あそこにいるかどうか、それを決めるのは人間の勝手だわ。反転を繰り返す情報に踊らされて人生を狂わせるのも、慎重に考えて自分の意思で正しい人生を歩むのも、本人次第だもの。私の知ったことではなくてよ」
やっぱり、こいつも神だ。
こういう、なんて言えばいいんだろうな、興味がありそうで実は無関心、目が捉えているのは人間とはまるで違う光景。
そして自分に絡まる鎖のことすら、興味がないのか全く気にしている様子がない。俺の視線に気づいてセラスーンは腕を上げて見せた。鎖が心なしかギリッとしまったように感じる。
「そしてジュリへの干渉が度を越した、と判断されてしまったのよ。だから鎖を二重にされてしまったわ。だって仕方ないじゃない、私のジュリを人間ごときが叩くなんて。それを笑うなんて。殺さなかっただけでも感謝してほしいのよ」
「……あれ、魔力をどうしたんだ」
「どう、とは? 奪っただけよ? 生命維持に必要な魔力は残してあげたわ、優しいでしょ?」
「……」
「ジュリは魔力がなくてもちゃんと生きているわ、あの人間たちだってなくても生きられるのではなくて? 大した罰ではないのにライブライトは大げさなのよ」
俺は、やっぱりため息をついた。
「ふふ……あなたの存在がライブライトにとっては誤算だった」
急に、俺の顔をじっと見つめているなと思ったらそんな事を言い出した。
「俺が?」
「いつでも楽しければいい、その一点に集約されていた筈の感情が、あなたを見つけて変化した。本当ならあなたを召喚するはずだった、あなたを守護するはずだった神から奪い取るだけの興味を持ってしまったのよ。未だかつてそんなことは起きなかったのに、ライブライト自らが育ててしまったの。あの時点で、私たち全ての神はあなたの言う神に必要ない感情を育ててしまった」
その言葉に俺は考えを整理する。
セラスーンの言葉から察するに、ライブライト含めこの世界の神は元々感情を持っていたんだろう。ただし、それは俺達が思う以上に少なく偏っていた。『神の思し召し』『天啓』『気まぐれ』そういう世界の発展に必要な、憂いや期待に繋がる、ほんの僅かな感情だろう。
でもそれが激変した瞬間があった。
「原因、俺かよ」
セラスーンが実に面白そうに軽やかな声で笑う。
「あなたのせいではないわ、そこは履き違えては駄目よ。この世界をあなたは知らなかった、つまりその時点であなたの存在はこの世界にはなかったしあなたの存在を私たちも認識していなかった、それは『無』なのよ、無の中に存在は勿論原因や根拠などを求めてはならないわ。それに感情が全く無かったわけではないのよ、いつかは似た問題は起きていたわ」
「……たしかに、な」
「もしもそれでもそこに『原因』を見出すとしたら。それはあなたを見つけた神と、それに興味を持った神がいて、奪われることを黙って認めた神にある。二柱の神の行いそのものにあるのよ。ジュリによる【思想の変革】だって、もっと穏やかに起こすことは可能だった。でもあなたを通して神の存在が人間に近くはっきりとした存在だと勘違いさせてしまったことでより大きな波となった。それが二柱によって引き起こされたことは覆しようがない事実よ」
そこまで話して、今まで確認したことのないことを聞いてみたくなった
「俺を見つけた神って、誰なんだ?」
「ソマよ」
「【命の神】は、人間に干渉しないんじゃないのか?」
「そうね、本来は。でも見つけたの、あなたをね。そしてそれがライブライトに興味を持たせてしまった」
「結局、そのあたりも感情に左右されてたってことだ」
「そうね」
「やっぱり神に必要以上の感情は」
「私は良かったわ」
「……」
「かつてとは比べものにならない押し寄せるような感情。ジュリを見つけて得た喜怒哀楽は、悠久の時の中で最初で最後の、真の幸福だから」
「へえ、そう」
「恨んでくれていいのよ」
「俺が? お前を?」
「ええ。だって私たちはライブライトであり、ライブライトは私たちであるから。さっきも言ったけれど恨まれても憎まれても、構わないのよ。今更無かったことにはしないわ、望んであなた達を召喚したのだから。私たちの喜びがそこにあるのだから」
「ふん」
俺は鼻で笑ってやった。
「結局お前らは間違いを犯す。なのに、笑うんだな。こっちの気持ちなんてお構い無しに。……やっぱいらねぇよ神に感情なんて。碌なことしねぇ」
去り際、セラスーンが俺を引き止めて言った。
「ジュリの加工した物へ付与ができなくなったのは私のせいではないわ。あれは私を除いた神々の決定なの。あの 《紛い物》たちの手元にジュリの加工した付与品はふさわしくないと判断されたわ」
「ああ、なるほど」
「ジュリに伝えて、一時的なことだから何も心配はない、と。この鎖もジュリが開放されたその時に外れるわ。そうしたらまた以前のように意思疎通が出来るから、と」
「了解」
よく見れば、鎖の一部が欠けている。
(ぶちギレした時に破壊したな、あれ)
そこまでしてジュリに干渉したいのかよ。神の寵愛、ほんとマジでいらねぇわとしみじみ思った。




