蝶々が五匹
最後の話まで読んで頂きありがとうございます(*^-^*)v
(ちょっと暴力あります)
「っ…うぁ…そこはもうダメだ…」
タイガ王子の喘ぎ声が響く部屋の扉の向こう側では侍女たちが聞き耳を立て、事が順調に運んでいるか確認をしていた。
あの純粋で真面目な第三王子も大人になったものだと心の奥でしみじみと関心しながら、安全を確認したうえでその場を離れて行った。
部屋の中では上気した顔で悶えるタイガ皇太子に対し、かなりシラケている表情のイリーナがいた。
さかのぼる事30分前
イリーナはタイガ王子と二人きりになったので事情を説明しようとすると、タイガ王子は自分の口の前で人差し指を立てた。
静かにって事?
イリーナがキョトンとしていると耳元に顔を寄せ小声で話し出した。
「まだ扉の向こうで侍女たちが聞き耳を立てている。」
「え!そうなんですか…あの…」
「話はロイから聞いている、ここは演技か何かして侍女たちを帰らせないと…」
「演技って…あ、わたくし、いい方法知ってます!」
そういうとイリーナはタイガ王子にベットに横になるようお願いして、タイガ王子の足の裏を指で押した出した。
そう、足つぼである。
若いからそんなに痛がらないかもしれないと思ったが、タイガ王子はお疲れの様子でかなり凝っていた。
タイガ王子も最初は声を我慢していたが凝っている所を親指で少し強く押すと体をのけぞって悶え出した。
「あああ!無理無理!!」
「ここが良いのですね、もっと良くして上げましょう」
ぐりぐりぐりー
こんなやり取りを約一時間して、タイガ王子はグッタリとなった。
イリーナにはわからないがタイガ王子は扉の向こう側に侍女がいなくなった事を確信したらしく、イリーナはクロスが誘拐された事や薬の事ジル・サクラガの事をすべて話した。
「本当に申し訳ない。我が国の事に巻き込んでしまって…今ロイが全力で対処している。私は時間を稼いでほしいと言われているんだ。」
「時間を?」
「ああ、3時間ぐらいは稼いでほしいと言われている。まぁその間、イリーナに何かしたら許さないとも言われているがな…主君に言うぐらいだ、よほど本気なのだろうなぁ」
ベットで横になっているタイガ王子の言葉にイリーナは少し頬を赤くして顔がにやけた。
ロイが自分の事を想ってくれている。
ただ、それだけが嬉しくてたまらなかった。
タイガ王子はそんなイリーナの様子を見て小さくため息をつく。
「あーあ、せっかく好みの女性に出会えたと思ったのに…でもまぁ、ああなるんだったら仕方ないよな」
「ああなる?」
「ロイ隣国から帰って全く女性に近づかなくなったんだ。ホモ噂が出るぐらい女性を避けるようになって周りが心配したもんさ。まさか、あそこまで落ち込むとは思っていなかったので私も少し責任を感じていたんだ」
やれやれといった表情のタイガ王子にイリーナも少し申し訳ない気持ちになった。
「さて、あと二時間何して過ごそうか。絵本でも読んでもらおうかな?」
「タイガ王子、それでしたら面白いお話をわたくしがしましょうか?」
イリーナはクスリと含み笑いをして、本当の自分をゆっくりとタイガ王子に話した。
世の中の噂している自分と本当の自分の違いや虚勢や嘘で自分を作り上げてきた事、その事で誤解をされたりした事や本当の自分がどれだけダメ人間かという事。
その話をしている自分が自分を隠さず愛せる人が出来た事も…
タイガ王子は始めは信じていなかったが、だんだんと話が進むにつれて驚き、感動していた。
「そうか…虚勢と嘘で異性をあんなにも思い通りに…凄い…そうか…」
「本当の自分をわかって欲しいと思う相手に出会った時は嘘を付かない事です。いい教訓でした」
「それを見極めるのも難しそうだな」
「ええ、タイガ皇太子様にもいつか素敵な人が現れますよ」
イリーナの屈託ない笑顔にタイガ王子もつられて笑顔になる。
そんな微笑ましい時間は過ぎるのが早く、離宮に入って約3時間が経った。
そろそろ事が終わる頃だと侍女たちも扉の向こう側で準備をして待っていたので、タイガ王子はベットを乱し伽が事無く終えた演出をする。
そして、イリーナがジルから預かった書類にタイガ王子はサインを入れてイリーナに手渡した。
イリーナはその書類を受け取って良いのは悩んでいるとタイガ王子はイリーナの耳元で小声で話した。
「これはロイの指示だ。大丈夫持って行け」
イリーナは静かに頷き書類を受け取った。
タイガ王子はそれを確認すると扉を開けて部屋を出て行く。
その後、侍女たちが部屋に入りイリーナは体を清められ馬車で屋敷に送られる事になった。
馬車の中でタイガ王子のサインが入った書類を眺めクロスの身を案じていると外が何やら騒がしくなる。
馬車の窓から外を覗こうとすると急に馬車が停まった。
何が起こったのかと外を覗くと数人の黒ずくめの兵士が馬車運転手と護衛の兵士数人を倒し馬車の扉を乱暴に開ける。
「来い!!」
ぐっと腕を掴まれイリーナは抵抗するが馬車から引きずり降ろされ近くに止めてあった別の馬車にむりやり押し込められた。
黒ずくめの兵士の一人も一緒に乗り込みと馬車が乱暴に動き出す。
イリーナは馬車の中で両手を後ろに縛られ目隠しをされて持っていた書類を奪われてしまった。
暫くして、馬車が停まりイリーナは何も見えないまま馬車から強引に降ろされる。
兵士に歩けと腕を掴まれ、抵抗しても無駄だと感じ素直に言う事を聞く事にした。
イリーナは土を歩く音から固い床を歩く音に変わり、どこかの屋敷に入ったのだと気が付く。
扉が開く音が数回してどこかの部屋に入るとイリーナを掴かんでいた手が離れ兵士が去る音がした。。
視界が真っ暗だが誰かがいる気配がしてイリーナはそれが誰なのか想像した。
頬に何かが触れビクッと怯えるとゆっくりと目隠しを外される。
一瞬眩しくて目を細めたが目の前に不敵な笑みを浮かべるジルがいるのが判るとイリーナは鋭くジルを睨んだ。
「そんなに睨まないで下さい。美しい顔が台無しですよ」
イリーナはジルを警戒しつつ周りに目をやると古びた廃墟の屋敷らしく部屋にはジルしかいない。
きっとさっきの黒ずくめの兵士は扉の向こう側にいるのだろう。
ジルはイリーナが持っていた書類に目を通し何かを確認した上で満足そうな表情を浮かべ近くのテーブルの上に置いてあったアタッシュケースの中に大事にしまった。
「いやーご苦労さまです。本当、貴女はいい仕事をしてくれました」
「これで満足でしょ、クロスを返して」
「まぁお待ち下さい。どうです?これからも私に協力をしていただけませんか?貴女の望むもの何でも差し上げますよ。地位に宝石にハーレムだって作って差し上げます!ただ…たまに私のお願いを聞いて頂ければの話しですが」
上機嫌に笑うジルにイリーナは虫唾が走り何も答えず睨みつけたままだった。
「貴方のその美貌と魅力があれば皇太子は思いのまま…私と手を組みもっと美味しい蜜を吸いませんか?」
そういうとジルはイリーナの左頬を右手で撫でてイリーナの顎をゆっくりと持ち上げる。
だんだんと近づくジルの顔にイリーナは逃げようとしたがジルの反対の手で腰を引き寄せられた。
このままではキスをされてしまう!
イリーナは精一杯体を逸らしてジルの唇から逃れようとしたがその距離は徐々に近づく。
嫌だ!ロイ以外は…絶対嫌だ!!
両手が後ろで縛られているが足は何もされてなかったのでイリーナは夢中で右足を思いっきり蹴り上げた。
するとジルの股間にその足はヒットして苦痛な浮かべ後ろに下がりかがみ込んだ。
イリーナは今のうちに逃げないとと扉に向かうが両手を縛られいるので開ける事が出来ない。
焦って他にどうにかならないかと周りを見ると物凄い形相のジルがイリーナの元に駆け寄り左頬を叩いた。
その衝撃でイリーナは床に倒れ込むとジルがその上にまたがるように座った。
「いい気になるなよ、娼婦の分際で!私に逆らえばお前の執事がどうなるのか解っているのか!?」
その言葉にイリーナは身を竦めて固まった。
ヒリヒリと痛む左頬と床に打ち付けた右肩の痛みよりもクロスの事が無事なのか、それだけが心配だった。
イリーナはゆっくりとジルを見上げ再び鋭く睨みつけた。
「クロスは…私の執事は無事なんでしょうね?」
「ああ、お前が俺の言う事をちゃーんと聞くならな」
暫く睨みあいイリーナはジルの言葉の意味を考え、睨むのを止めて視線を外し体の力を抜いた。
それを見たジルはにやりと笑いイリーナの服に両手をかける。
ロイ様…ごめんなさい…
イリーナが諦めた瞬間、まるで爆撃でもあったような勢いですぐ側の扉が吹き飛び、次の瞬間、長く白い棒がジルの横顔に直撃してジルは数メートル吹っ飛ぶ。
イリーナは何が起こったのわからず長い白い棒をよく見るとそれはロイの白いズボンを履いた足でいつもの柔らかい表情とは想像もつかない程の恐ろしい表情…鬼の形相というものになっていた。
そんなロイの後ろから数人の兵が部屋になだれ込み、気絶しているであろうジルをとり押さえる。
「イリーナ!!大丈夫か!!あぁ…」
イリーナは上半身をなんとか起こしているとロイがつかさず補助をしてイリーナの赤く腫れた左頬を固く大きな手で優しく包む。
「大丈夫よ、これくらい…」
「なんてことだ…蹴りではなく剣で貫けはよかった…」
真顔で恐ろしい事を言っているロイにイリーナは少し青ざめて苦笑いをした。
ロイの部下の兵士たちが気絶してるジルを部屋から連行していると壊れた扉の向こう側に黒ずくめの兵士たちが床に倒れているのが見えた。
イリーナはそんな兵士たちを見てハッとクロスが無事か気になった。
「ロイ様、クロスは…」
「大丈夫、陛下とイリーナが時間を稼いでいる間に計画通り保護できたよ。本当に申し訳なかった…」
深々と頭を下げるロイにイリーナは首を横に振りクロスが無事な事が判り安堵して小さく微笑んだ。
ロイは部下の兵士たちに先に行くように指示を出してイリーナの元に戻ってきた。
イリーナは両手を後ろに縛られたままでいい加減肩が痛くなってきたのでロイに外してもらえるようお願いした。
するとロイはイリーナの背後に立ち、耳元で囁く。
「イリーナ…確かゲルの本に興味がありましたね」
ゲルの本…それは文芸からSMの小説に華麗に転身した作家の本。
ロイはイリーナの腕を縛っている縄を外そうとはせず、妖艶なイリーナの首筋に口づけを落とす。
イリーナはくすぐったいのと恥ずかしいのと身の危険を感じ顔を真っ赤にして固まった。
「ロ、ロイ様!!ふざけてないで縄を解いて下さい!!もう肩が痛いです!!」
そんなテンパっているイリーナにロイはクスリと笑い腕を縛っている縄をほどいた。
イリーナの手首にはくっきり縄の跡がついて痛々しかったがその手首をロイの大きな手が包み込みイリーナに優しく微笑みかける。
イリーナはそのぬくもりに安堵と幸せを感じロイに微笑み返した。
後日聞いた話、ロイはイリーナから助けを求められたその日のうちに自分の部下と隠密をつかいクロスの場所を把握していた。
ジルがクロスから離れて行動する機会を待っていたらしい。
徹底的ゆるぎない証拠と確実にクロスを助けるタイミングを計って、イリーナがタイガ王子と伽を行っている間にジルがクロスから離れイリーナの元に行くことを予測して、クロスからジルが離れている間にクロスを救出した。
本当はその後即座にジルを確保する作戦だったが、尾行していたジルを途中見失ってしまいイリーナを囮に使うしかなかったらしい。
イリーナは少しやせたクロスを見て目に涙を浮かべ抱き付いた。
クロスとの感動の再会をして、早々に自国に戻ったが事情の報告を受けていた両親にこっ酷く叱られ、アマリアにも叱られ泣いて感謝された。
そして、その数日後…
親友アマリアと執事クロスの結婚式の日
花が咲き乱れ、晴れやかな空が広がる
最高の結婚式の中で、ひと際美しく妖艶に舞う蝶がいた。
その蝶が一厘の黒い薔薇で羽根を休める。
イリーナとロイは仲睦ましく手を繋ぎ最高の笑顔で祝福を上げていた。
END
終わりましたー!若干、無理やり終わらせた感がなくもないのですが…すーっと終われる感じがこんな感じだったもので…許して下さい(+_+)
誤字脱字変な日本語多々あったと思いますが、最後まで読んで頂きありがとうございます!