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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 5 〉
53/100

53.ショッピングモール



「杏実ちゃん~疲れたよぉ。なんか食べよぉ」

「ん~……そうだよね」


今日は日曜日


 あれから一週間がたった

 杏実の風邪もすっかり良くなって、引っ越しも無事終了した。引っ越しが終わったといっても、杏実の新しい部屋にはまだ段ボールがそのままで放置されている。とはいえ、段ボールの中は本や大切にしていた小物、服ぐらいしかない。フミの家には何でもそろっており、いろいろと持って行っても迷惑になると思い、ほとんどの物は捨ててきたのだ

 8年も使用すれば自然に古くなった日用品も捨てたので、杏実は再び必要な日用品を買いに、大型ショッピングモールに来ていた

 また、今日は境さんが休みの日で、杏実が食事を担当する日なのだ。ついでに食料品も調達した。境さんの料理は和食が中心なので、萌の希望で杏実は主に洋食担当となっている

 食事についてはかなり緊張していたのだが、萌は美味しいと言ってくれている。境さんの味付けは薄いので、そもそも萌は不満だったらしい

 颯人は? と言うと……仕事が忙しいらしく、ほとんど顔を合わせない。夜も遅いので会うこともなく、一応は颯人の分も作るので、ラップをかけておいている。朝見ると、知らぬ間に全部平らげてくれているので、相当口に合わないということもなさそうだ

 もう一人の住人、長女の夏美はフミの言った通り仕事で家を空けているらしく、一度も会っていない



 颯人は二年前までは一人暮らしをしていたらしいのだが、(一応『スクラリ』でも情報は間違っていなかった)海外から帰ってきた際、萌が一人になることも多いとのことで、実家に戻ることになったらしい

 ちなみに萌は三人姉妹の末っ子。次女は都合で家にはいないらしい

 しかも詳細は不明だが、颯人はもともと就職するまではフミの家に住んでいたらしいのだ


 颯人が同居していることには驚いたが、ほとんど顔を合わせないので特に緊張することのない日常でホッとしている

 しかし……同じ空間にいるといううれしさや、安心感は杏実の中で確実に育っている気がした


 今日は朝、萌に「買い物に行こうと思う」と話をしていると、萌が付いていきたいというので、快くOKした

 すると萌は寝ている颯人を起こして、無理やり車を出させたのだ。女性の買い物なので、颯人とは店内では別行動をとっている。今は萌と二人きり

 萌は杏実の腕に自分の腕を絡め、「あっちいこ~」とか「これ萌に似合う?」とかいろいろ話しかけてくれるので、一緒にいるととても楽しかった



 時刻はpm3時を少し過ぎた頃合いだった


「なんか……お茶しながらケーキでも食べよっか」

「うん。やったぁ! 颯人お兄ちゃんも呼ぼぉ~」

 そう言って杏実から腕を抜いて、カバンから携帯を取り出している。その様子を見ながら、本当に妹がいるとすればこんな感じなのだろうか? と思う

 以前の寡黙ながらすり寄ってくるのも可愛かったが、感情を素直に表現する萌もまた可愛い

 初めて会ったときは小学生だった萌が、現在は高校生。はたして自分はその頃どんな風だっただろうか


「すぐ来るって」

 萌はそう言って、ニコッと笑う。携帯をカバンに入れると、再び杏実に腕を絡めてきた


「杏実ちゃん。あっちのカフェ入って待ってよ~」

「うん」

 萌にぐいぐい引っ張られ、通路の向こう側にあるカフェに向かう。可愛いオープンカフェだ

 何を飲もうかな……と考えていた時――――萌が急に立ち止った


 そのまま、カフェの方をじっと見つめている


「萌ちゃん? どうしたの?」

 萌は前方を凝視したまま、動かない。不思議に思って萌の視線を追っていくと、カフェの手前の席に、よく見知った人物が目に入った


 ……平田さん!?


 ギョッとして思わず後ずさる……が腕をつかまれたままなので、後ろに下がることはできなかった

 平田は一人で座っていた。長い足を優雅に組みながら、本を手元に置いて読みふけっている


 しかし、ふと二人の視線を感じたのか、本から顔を上げてこちらを向いた

 そして二人の姿を見た瞬間、あの(・・)王子の笑顔を向ける


―――――ここから早く立ち去らなくては嫌な予感がする

 野性的な(珍しく)勘が働いた

 しかし……萌は? というと……小さな声で「信じらんない……」とつぶやいている


 私だって信じられないよ!

 そうしている間に、平田はさわやかな笑顔を浮かべながらこちらに向かってきた


「萌ちゃん……逃げ……」

 杏実はその場で動かない萌を引っ張りながらその顔を見た。萌は平田に焦点を合わせながら……顔を真っ赤にしていた。例えるなら目が……間違いなくハートになっている


 え? ………ええ!!!

 まさか……いや違う!? そんなわけない!

「萌ちゃん……萌ちゃん!」

 必死で呼びかけるが、萌は気が付いていない

 杏実の抵抗むなしく、平田は二人の前に来ると、足を止めた


「やあ。こんなところで会えるとはね。こんにちは、萌ちゃん」

 平田はそう言って、とっさに杏実の陰に隠れながら平田をじっと見上げている萌に、にこやかに挨拶する


「は……はい! 平田さんは、お買い物ですか?」

「……まあね。たまには人の多いところで一人でぼんやりしてみるのも良いかな……と思ってね。萌ちゃんは買い物?」

「はい。今日は杏実ちゃんと一緒に……」

 萌がそう言うと、腕を組んでいる杏実をうれしそうに見つめた

 そして平田は、まるで今気が付いたように、杏実の方に視線を向ける

 

―――――いつもながら胡散臭いと感じる


 そもそも初めから萌の隣にいたのだから、気が付かないはずがないのだが、その様子はまるで萌しか目に入らなかったかのような振る舞いだ

 平田は萌が、自分に気があるとわかってやっている

 と言うか……杏実にでもわかるのだから、この人に分からぬ筈がない


 杏実が明らかに不審そうな目を平田に向けながら「こんにちは」とあいさつすると、平田は杏実の意図を察したのか「くくっ」と笑った





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