クダンロード④
全盛期は過ぎたのではないか。
そんな懸念があっても、クダンロードは悲願のGⅠ制覇を目指し、明け7歳も現役を続けた。
大阪杯は4着。
まだやれる。そう思わせてくれた。
しかし、宝塚記念は7着。
オールカマーは5着。
天皇賞(秋)は8着。
春から秋へ、成績は明らかに落ちていた。
◇◇◇
「お集まりいただきありがとうございます。今日はロードの今後について決めたいと思います」
木場厩舎に、俺と彩夏さん、それにクダンロードを担当する中山さんが集まっていた。
議題は次走。
ただし、もう一つ選択肢がある。
「馬は元気です。ただ、以前より調教で走らなくなりました。馬体のハリも落ちている気がします。
メニューを変えたり、馬具も色々試してみましたが、良い頃には戻っていません」
中山さんの報告を聞き、木場先生が口を開いた。
「引退……を考える時なのかもしれません」
たしかに、そうなのかもしれない。
でも、俺は今年に入ってのレースを思い返していた。
予想紙の印は薄いのに、クダンロードの単勝は妙に売れていた。
「馬は元気で、脚元にも問題はないんですよね?」
「はい。そこは問題ありません」
中山さんも頷いた。
「でしたら有馬記念に行きたいと思います。そして引退させます。
それと、有馬記念が引退レースになることを、マスコミを通して発表したいです。ファンの方々にも、お別れの挨拶をしたいので」
「九段レーシングもSNSのアカウントを持っても良いかもしれませんね」
「ああ。日頃から継続して何かを発信するのは難しいと思うけれど、こういう節目にファンの方々へ感謝を伝えられるのは良いかもしれない」
あとは引退後のことだ。
木場先生に話を振る。
「戦績を考えれば、種牡馬入りの話が来る可能性はあります。ただ、血統面を考えると何とも言えません」
「話がなければ、乗馬として引き取ってもらえるところを探したいです」
「わかりました。そちらも伝手を当たっておきます。ロードは人気者ですから、引き取り手は見つかると思います」
「よろしくお願いします」
一度話を終えかけてから、付け加える。
「あっ、脚元や体調に問題が出たら言ってください。その時は残念ですが、このまま引退とします」
「承知しました、オーナー」
一瞬、反応が遅れた。
木場先生にそう呼ばれたのは、初めてだった。
話し合いを終えて厩舎を出ようとすると、陽菜ちゃんに声をかけられた。
「陸さん、今日このあと時間ある?」
「あるよ。この間言っていた店、行く?」
◇◇◇
結局、種牡馬入りの話はまとまらなかった。
そして迎えた有馬記念。
クダンロードは11着だった。
最後までGⅠには届かなかった。
それでも、レースを終えて戻ってくるクダンロードには、大きな声援が送られていた。
重賞を勝ち、GⅠでも何度も上位に来た。
ずっと九段レーシングを支えてくれた馬だ。
俺にとっては、自分の目を信じる後押しにもなった。
「お疲れさま」
戻ってきたクダンロードに拍手を送った。
その後、クダンロードは乗馬として引き取られ、第二の馬生へ旅立っていった。
もう勝ち負けを気にする必要はない。
元気でやってくれれば、それでいい。




