クダンアイズー俺が見出した天皇賞馬ー
――5年前。
『クダンアイズ先頭!クダンアイズ先頭!残り200!』
後ろから馬が迫ってくる。
いや、来ない。
クダンアイズの脚色は衰えない。ゴール板が近づくほど、後続との差が開いていく。
『1馬身!2馬身!クダンアイズだ!堂々押し切った!落合拓也とクダンアイズ!天皇賞制覇!』
「よっしゃあ!」
立ち上がった勢いのまま、拳を突き上げた。
勝った。クダンアイズが勝った。
俺が爺ちゃんに買えと言った馬が、天皇賞を勝った。
初めてクダンアイズを見たのは、俺がまだ高校生だった頃だ。
セリ会場に並ぶ馬の中で、あの鹿毛の馬だけは、一目で違うとわかった。
俺には昔から、強い馬ほど瞳が輝いて見える。
理由は知らない。
ただ、クダンアイズの瞳の輝きは、それまで見た馬の中でも別格だった。
だから爺ちゃんに頼み込んだ。
「爺ちゃん、この馬にしよう。絶対に走るから、買って欲しい」
1300万円で落札されたクダンアイズは、ダービーで2着、菊花賞で3着。
そして6歳の春、とうとう天皇賞(春)を勝った。
俺の目は間違っていなかった。
◇◇◇
口取り式に並んだ俺は、得意満面だった。
天皇賞を制したばかりの馬が、俺の目の前にいる。
「陸」
隣の爺ちゃんがクダンアイズを見上げた。
「お前が買えと言った馬だ。胸を張れ」
「言っただろ。この馬は絶対に走るって」
「褒めた途端にそれか」
爺ちゃんは眉を上げたが、口元には笑みが残っていた。
「1300万で買った馬が天皇賞馬ですか。陸君、大したものですね」
「次のセリも陸君に選んでもらったらどうです?」
周りの大人たちまで俺を持ち上げてくる。
悪い気はしない。
というより、最高だった。
自分には大した取り柄なんてない。ずっとそう思っていた。
そんな俺にも、誰にも負けないものがあった。
人生で一番、誇らしい日だった。
口取り写真のため、カメラがこちらを向いた。
クダンアイズの隣で、俺は勝手に未来を思い描いていた。
いつか俺自身が爺ちゃんみたいに馬主になったらどうなるんだろう。
セリへ行って、誰も強さに気づいていない馬を俺が見つける。
その馬が重賞を勝って、GⅠを勝って、今日みたいな口取りに何度も並ぶ。
走る馬さえ見抜ければ、馬主なんて簡単だ。
20歳の俺は、本気でそう思っていた。




