第七十五話 「月夜の記録」
夜。
五条会本部。
縁側に座る真昼は、静かに夜空を見上げていた。
満月が辺りを優しく照らしている。
後ろから足音が聞こえた。
「真昼さん。」
紫雲だった。
「まだ起きていらしたんですね。」
「少し、風に当たりたくて。」
紫雲は真昼の隣へ腰を下ろす。
二人で月を見上げる。
しばらく言葉はなかった。
だが、その沈黙は心地良い。
やがて紫雲が微笑む。
「学院で過ごした日々が、ずいぶん昔のことのように感じます。」
「そうですね。」
「あの頃は、こんな未来になるなんて思ってもいませんでした。」
真昼は静かに頷いた。
「私もです。」
紫雲は真昼を見る。
「これからも、大変なことはたくさんありますよね。」
「あると思います。」
「それでも。」
紫雲はそっと微笑む。
「隣を歩いてもいいですか。」
真昼は迷うことなく答えた。
「もちろんです。」
「ありがとうございます。」
紫雲は嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、真昼も穏やかに目を細める。
夜風が二人の間を吹き抜ける。
静かで。
穏やかな時間だった。
⸻
数日後。
天女学院。
新入生たちが校門をくぐっていく。
新しい制服。
期待と不安を胸に、それぞれの一歩を踏み出していた。
理事長・春野薫は、その光景を静かに見つめる。
「また新しい一年が始まりますね。」
隣に立つ宮里蘭も微笑む。
「ええ。」
「今年はどんな生徒が入ってくるのでしょう。」
春風が桜を舞い上げる。
学院は変わらない。
卒業する者がいれば、入学する者もいる。
その歴史は続いていく。
⸻
その頃――。
とある屋敷。
庭では、一人の少年が木刀を振っていた。
白い髪。
透き通るような白い肌。
紅い瞳。
何度倒れても。
何度手に血が滲んでも。
少年は立ち上がる。
「まだだ。」
「真昼には……負けない。」
遠くから一人の男がその姿を見ていた。
一ノ瀬雪影。
静かに息子を見つめながら呟く。
「もっと強くなれ、雪音。」
「五条を超えるために。」
少年――一ノ瀬雪音は、再び木刀を握り直す。
まだ誰も知らない。
この少年が。
数年後、天女学院へ入学し。
“白夜叉”と呼ばれることを。
そして。
五条真昼と運命的な出会いを果たすことを。
⸻
第一部 完
『月夜録 ─天女学院編─』
そして――
第二部『月夜録 ─天女学院編Ⅱ─』へ続く。
良ければ2部目もどうぞ
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