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五十八話「ヘルダとの謁見」


 その後、換金を行い金貨を積み上げた会計皿(キャッシュトレイ)と品質の良い小袋を渡される。


「確認しておくれ」

「あ、ああ……確かに」


 枚数の確認を終えた俺は、金貨を小袋へと入れて『次元収納(アイテムボックス)』へと仕舞った。

 それを確認したラダンは今度は自身が肩に担いでいる『飛竜の逆鱗』をアンナに渡す。


「アンナ。この素材で『竜伐の首飾り』を作ってくれ」

「了解だよ。それにしても見たことのない鱗だね。山岳地帯に翼竜(ワイバーン)の亜種でもいたのかい?」

「ん? いや、こ___」

「ふふん! 聞いて驚くと良いぞい! その素材もか___」

「さ、さあ! 次に行こうぜラダンの爺さん!」

「ん? お、おう。そうだな」

「むぐぐ!」


 俺は慌ててソフィアの口を手で塞ぐ。

 あ、危ねえ。全く何を言おうとしたんだソフィアは!

 ここで飛竜の話なんかしたらどうなるか目に見えている。女王の素材だけであの騒ぎだったんだ。飛竜の素材まで俺が持ち込んだと知れたら、更にややこしいことになるに違いない。


「? まあ、良いさね。とりあえず翼竜の鱗は預かったよ」


 アンナも小首を傾げているだけで深く追求しなかったのでよかった。


「お、おし、じゃあ坊主。そろそろヘルダ様の所へ向かうか」

「ああ、頼む」

「むむぐんっ」


 ここでの用事もすみ、ラダンが先を行く。

 俺の手の中のソフィアも頷くが、次にはニュッと腕が伸びてきた。


「まちな、あんたは居残りだよソフィア」

「へ?」


 首根っこを掴まれたソフィアが宙ぶらりんで不思議そうな声をあげるが、


「仕事がたくさんあるんだよ。しばらく滞在するんだろ? ならその間、工房を手伝いな」

「わ、わしはカイトと一緒に行かんと、いけないんじゃが?」

「そうなのかい?」

「いや、話するだけだから、大丈夫だぞ」

「か、カイトぉ!?」

「せっかく里に戻って来れたんだ。少しは親孝行してやれよ」

「ちょ、カイト? お、おい! 待つのじゃあ!」

「ほら、あんたの恋人だってそう言ってるじゃないかい。なら観念しな」

「か、カイトはそう言うのじゃ……って、待つのじゃ! い、いやじゃああああ!」


 アンナの言葉に頬を染め手を当てるソフィアだが、その隙に工房の中へと連行されていく。


「た、助けるのじゃカイトぉぉぉぉ!」


 そんな声が聞こえたが俺は手を合わせて苦笑する事しかできなかった。


「さあ、行くぞ坊主」

「あ、ああ」


 その言葉に頷き、先を行くラダンの後を追って再び歩く。

 石畳の道をしばらく歩き、ドワーフの店々を横目に歩いていくと前方に一際大きな屋敷が見えてきた。

 他の石造りの建物とは重厚感が違い、木材『堅木樹』が使用されている箇所が散見される。

 門の左右には女性ドワーフの門兵が立ち、周囲には手入れの行き届いた庭があった。


「ここがヘルダ様のお屋敷だ」

「立派な屋敷だな。へえ、木枠をメインに加工して石を敷き詰めてるんだな。石の隙間は……この間言っていた『強化粘土』か?」

「ほぉ……坊主おめえ、建築に詳しいのか?」

「ん? あぁ、前職で建物を建ててたからついな」

「そうだったのか。人族にしとくの勿体ねえな」

「はは……」


 どうしてもこう、洗練されたデザインを見ると感想が口をついて出てしまう。

 職業病だろうか。

 まあ、悪い事じゃないよな。


「ようこそおいで下さいました。ラダン様」

「おう。ヘルダ様に客人を連れてきた。取り次ぎを頼む」

「承知致しました。少々お待ちください」


 ラダンに言われ、屋敷の中へと入っていく門兵。

 少しすると戻ってきて、門扉を開けてくれた。


「お待たせ致しました。ご案内致しますので付いて来て下さい」

「おう」


 門兵の女性に案内され、ラダンと共に屋敷の中へと足を踏み入れる。

 中は外観以上に広く、高い天井を支える太い柱には精巧な彫刻が施されていた。

 壁には歴代の長と思われる肖像画や武器が飾られ、廊下を歩くだけでもこの集落の歴史を感じさせられる。


「凄えな……」

「数千年続いてる大集落だからな」


 そんな風に感想を伝えながら歩いていると、一際大きな扉の前で門兵に待つよう伝えられる。


「ヘルダ様、アリアです。ラダン様とそのお連れ様を連れて参りました」

『入りな』


 門兵の女性アリアがそう伝えると、中から低く落ち着いた女性の声が返ってくる。

 アリアが大扉を開けると、部屋の奥、大きな椅子へ深く腰掛けた一人の女性がラダンと、そして俺を見て口元を緩める。

 褐色の肌に、焦茶と白が混じる長い髪。

 葉巻を片手に紫煙(しえん)をくゆらせ、その琥珀の瞳をゆっくりと細めて頬杖をついた。


「ほぉ、人族の客人かい。こりゃ珍しいねえ」


 そう言って口を開く目の前の女性は、柔らかな笑みを浮かべているはずなのに、不思議と場を支配する気配を身に纏っている。

 なるほど、まさに『長』の風格だ。

 ラダンが片膝をつき、長であるヘルダに首を垂れる。

 俺もそれに習い、首を垂れた。

 すると、長であるヘルダは軽く目を見開き、軽く息を吐きながら肩を揺すった。


「場は弁えているようだね。良いだろう、顔をあげな」


 ヘルダから許可が出たので、顔を上げる。

 良かった。謁見の作法なんかわからないから少し緊張したが、どうやら大丈夫のようだ。


「それでラダン。要件とはなんだい」

「は! 実はこの者、飛竜討伐を成した者のようでして」

「なに? それは本当かい?」

「はい。確認に飛竜の素材も譲って頂いております」


 そこまで言うと長ヘルダは、椅子から立ち上がり俺の前まで歩いてくる。

 そして膝をついてしゃがみ、俺に尋ねてきた。


「青年。名は何というんだい?」

「カイト・クジョウと言います」

「ファミリーネーム? まさか人族の貴族かい?」

「え? あ、いや違うぞ。俺は平民だ……あ、し、失礼しました」


 しまった貴族なんて言われたから、思わず素で答えてしまった。

 俺は慌てて言い直すが、当のヘルダはラダンと目を見合わせ、小さく噴き出している。


「ふふ……なるほどね」


 ヘルダが長の椅子へと戻り、葉巻を口へ運ぶ。

 そして紫煙を吐き出して言った。


「アンタそれが地だね? 人族は気難しい奴が多いから合わせてみたが、どうやらその心配はなさそうだね」


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