表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

六話「スノー」


 俺は弾かれるように大広間を飛び出した。

 声のした方へ全力で駆ける。


 嫌な予感しかしなかったが__案の定だった。


「にゃあああああっ!」


 白い小さな影が、半泣きになって通路を駆け回っている。

 その後方から追っているのは、蜘蛛型の石像モンスターだった。


 金属質な脚を高速で動かし、壁を這うように迫っている。


「何やってんだあの子!?」


 思わず叫ぶ。

 だが理由を考えている暇はない。


 蜘蛛石像が跳躍した瞬間、俺は横から突っ込んだ。


「邪魔だッ!」


 全力の蹴りを叩き込む。

 鈍い衝撃音と共に蜘蛛石像が吹き飛び、壁へ激突した。


 その隙に白い少女を抱き上げる。


「んにゃ!? にゃにゃああああっ!?」

「暴れんなって!」


 警戒心が抜け切っていないのか、少女は俺の腕の中で必死にもがいた。

 顔を引っ掻かれる。

 地味に痛い。


 だが構っている余裕は無かった。

 背後から、重く鈍い足音が響いていたからだ。


 ゴォン。


 ゴォン。


 石の巨人が床を揺らしながら迫って来る。

 振り返らなくても分かる。


 あの【魔導石像 Lv 50】だ。


「最悪だろ……!」


 蜘蛛石像だけならまだどうにかなった。


 だが、あいつは駄目だ。

 格が違う。

 追いつかれた時点でゲームオーバー確定である。


 俺は少女を抱えたまま全力疾走した。

 通路を抜け、罠床を飛び越え、入口を目指して駆ける。


「にゃっ! にゃにゃおっ!」

「ちょ、おま__前見えねぇ!」


 少女が突然、俺の顔へしがみついてきた。

 どうやら後ろの石像を見て完全にパニックになったらしい。

 恐怖で震えているのは分かる。


 分かるが。


「視界塞ぐな! 死ぬ! 死ぬから!」


 ふわふわの白毛が顔面に押し付けられる。

 前が見えない。

 だが止まれば終わる。


 背後では蜘蛛石像たちが金属音を響かせながら迫り、『魔導石像』の足音が徐々に近付いていた。


 出口はまだか。


 まだかーー!


 次の瞬間。

 視界の先に、外光が見えた。


「抜けろぉぉぉッ!!」


 最後は半ば飛び込むように、俺は塔の外へ転がり出た。

 そのまま地面を数回転がる。


 荒い呼吸。

 焼けるような肺。


 だが__追撃は来ない。


 恐る恐る振り返る。

 塔の入口手前で、『魔導石像』たちは停止していた。

 赤い瞳だけがこちらを睨みつけている。


 しばらくして、その光も静かに消えた。


「はぁ……はぁっ……」

「にゃぁぅぅぅぅ……」


 俺と少女は揃って地面へ大の字になった。

 危なかった。


 本当に危なかった。


 あと少し遅れていたら終わっていた気がする。


「再挑戦は……もっと強くなってからだな……」


 息を整えながら呟く。

 あれは今のレベルで挑む相手じゃない。

 生身で五百キロの鉄骨を担げと言われるようなものだ。


 無理ゲーにも程がある。

 しばらく休んだ後、俺は身体を起こした。


 少女ももぞもぞと起き上がる。


「怪我はないか?」

「にゃぁ……」


 今度は逃げなかった。

 むしろ少しだけ、こちらへ身体を寄せてくる。


 どうやら助けたことで警戒が薄れたらしい。

 とはいえ、いきなり撫でるのはまだ早い気がした。


 野良猫相手に距離感を間違えると嫌われる。

 俺は何となくそんな気分で、苦笑する。


「それにしても……あの箱、何入ってたんだろうな」


 思い出すのは、大広間の豪奢な長箱だ。

 ゲーム的に考えて、ああいうのは高確率で当たり。


 魔剣。

 魔導書。

 レア装備。


 あるいは金塊山盛り。


「……欲しかったなぁ」


 男なら誰だって気になる。

 だが、命あっての探索だ。


 場所は『マップ』に記録した。

 また後で挑めばいい。


「……にしても、何で俺だけ入れたんだ?」


 少女は最初、塔へ入れなかった。


 条件持ちなのか。

 それとも別の理由か。


 考え込んでいると、不意に太腿へ小さな前脚が乗った。


「ん?」

「にゃあ〜……にゃあ〜」


 見下ろす。

 少女が何かを訴えるようにこちらを見上げていた。


 直後。


 ぐぅ〜、と可愛らしい音が鳴る。


「……腹減ったのか」

「にゃぅ〜……」


 耳がぺたんと寝る。

 どうやら図星らしい。


 言われてみれば、俺も小腹が空いていた。


「飯にするか」

「にゃっ!」


 一瞬で元気になる。

 分かりやすい。


 俺は周囲から石と木片を集め、簡易の囲炉裏を作った。

 火を起こし、『次元収納』から魚を取り出す。


「お、まだ新鮮なままだな」

「にゃあ!」


 魚は昨日と変わらず元気に跳ねていた。

 保存状態まで維持される辺り、『次元収納』はかなり便利だ。


 俺は魚へ串を通し、囲炉裏の傍へ立てる。

 ライターで火を点けると、ぱちぱちと小気味良い音が鳴り始めた。


 香ばしい匂いが漂う。


「にゃんにゃんにゃん!」

「まだだって」


 少女は待ち切れないのか、魚へ飛びつこうとしていた。

 それを制しつつ、俺はふと『鑑定眼』を使う。


 そして、初めて知った。


「……あれ。キミ、女の子だったのか」

「にゃぁ?」


 首を傾げる少女。

 種族名は『妖精猫(フェアリーキャット)』。


 獣人ではなく魔物寄りの存在らしい。


 身長は三十センチ程度。

 二・五頭身。


 顔立ちは人間寄りだが、身体は完全に猫。

 基本は四足歩行だが、時折二足で立つようだ。


「子供かと思ったら、もう成人済みなのか……」


 しかも名前欄が空白だった。


「名前、付けてもいいか?」

「にゃあ?」


 少女__妖精猫が小首を傾げる。


 真っ白な毛並み。

 雪みたいな色。


「……スノー、とかどうだ?」

「にゃんっ!」


 ぱっと両手を上げた。

 どうやら気に入ったらしい。


「よし。じゃあ今日からスノーな」


 その瞬間だった。

 視界に半透明のウィンドウが表示される。



 ◇


 ※命名により『スノー』が使い魔となりました。

 ※使い魔はペットのような存在です。

 ※愛情を持って接しましょう。


 ◇



「…………」


 俺は数秒黙った。


「……なんか使い魔になったんだが?」

「んにょあ?」


 当の本人__本猫は、まるで気にした様子もなく焼き魚へ齧り付いている。

 尻尾をぱたぱた揺らしながら、幸せそうに頬張る姿を見て。


「……まあ、いっか」


 深く考えるのをやめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ