光は、祝福のファンファーレを鳴らして
学院の庭園の片隅。陽の傾きが、長い影を伸ばしていた。
彼女――サクラを想っていた。
ただ愛している。それだけなのに、どうしても届かない。
第2王子という立場は、恋を赦してはくれない。
誰かの視線や噂ひとつが、彼女の居場所を奪ってしまう。
それが怖くて、傍に行けない。
……愛しているからこそ、俺がサクラを傷付ける存在になりたくなかった。
「シオン様」
振り返ると、淡い髪を揺らして、リリー嬢が立っていた。
「お姉さまを……なぜ、一人にするのですか?」
その声は震えていた。
普段の柔らかな口調とは違う、張り詰めたものを孕んでいる。
「傍にいられるのは、あなた様お一人なのですよ。
なのに、なぜ……お姉さまから目を逸らすのですか?」
胸の奥を鋭く突かれたようだった。
わかっている。わかっているのに、どうしようもない。
彼女の前に立つたび、俺は“王子”になってしまう。
“男”ではいられない。
「俺は……彼女を守りたいんだ。
だが、今の俺では……そのための力が、足りない。」
言葉を吐き出した瞬間、リリー嬢の目に涙が滲む。
「お姉様は、シオン様の言葉を待っています。
立場でも、義務でもない……“あなた自身”の言葉を」
その涙が地面に落ちる前に、思わず手を伸ばしてしまった。
小さな肩が震えている。
その姿に、慰めようとした。
ただ、それだけだった。
風の中で、ふと黒い影が視界の端をかすめた。
黒髪。
気のせいかと思った。
だが、胸が不穏にざわめく。
「俺は……サクラを、愛している。」
その名を口にした瞬間、リリーが静かに顔を上げた。
「知っています。お姉様も……ずっと、シオン様を」
彼女の言葉に重なるように、遠くで何かが弾ける音がした――。
パチン、と。
魔力のような微かな音が、空気の中で消える。
「……サクラ?」
振り返る。
だがそこに彼女の姿はない。
冷たい風が吹き抜け、頬を撫でた。
胸が痛い。
なぜ、いつもこうなる。
守りたいだけなのに、手を伸ばすたびに遠ざかってしまう。
「サクラ……君を、失いたくないのに。」
掠れた声が風に溶けた。
まるで、黒髪の少女が光の向こうに消えていくように。




