第十二話 「食堂」
セルフィ先輩に連れられて食堂へ向かって行く。
寮から石畳で繋がっている食堂の道。
石の基礎に嵬然の背景にも引けを取らない木造の建物。
殆どが石造りであるこの街の、この学園の建物を嘲笑うかのようなその特別感を感じさせる。
三階建にもなる建物に蔦や木々が纏わりつき、どこまでが建物なのかすら判断もすることが出来ない。
両開きの扉の隙間からは食事の音が漏れている。
そこを少し開けて入って行く。
「一階は1〜3生と付き添いと言うか、同部屋の先輩の8〜10年生が座る。4〜7年が二階と三階を使うことになっている。つっても暗黙の了解的なもんで、厳格な決まりはない」
「なるほど、ちなみにここの利用可能時間は?」
「深夜以外は基本いつでもだな」
「分かりました」
左右に大きな階段。
正面には多くの長机と疎らに座る上級生と年少のペア。
そして幾つかのグループ。
「あのグループは何なんですか?」
「ああ、あれは背の高い人が多いのが8、9年生、低いのが多いのが2、3年生だろうな」
「同部屋の人と一緒に食べるんじゃないんですか?」
「そんなルールはないぞ。とりあえ・・・」
先輩が言葉を続けようとしたとき、後ろから声が掛かった。
「セルフィ!」
背後からの声に振り返る。
女性の先輩とその後ろに引っ付いた小さな見知った女の子だった。
人見知りはどこ行ったんやろ。
何があったらあの人見知りのタムシンがこの人にこんな一瞬で懐くんやろ。
まあ後で聞けばええか。
「ナーリアさん……」
「タムシンやん。一緒に食べよ」
後ろからぴょこっと顔を出したなタムシンが小さく告げる。
適当な回答を返す。
あ、でも。
先輩と話しながら食べるつもりやったのに流れで言ってもうた。
まだルールとかちゃんと聞いてないのに。
後で部屋帰ってからもう一回聞き直せばええか。
「二人は知り合いなのか?」
「はい、ここまでの馬車が一緒やったから知り合いなんです」
「じゃあ二人で食べるといい」
「アタシはコイツと食べるから」
「分かりました」
軽く食堂の使い方の説明を受け、先輩方と別れた。
「じゃあ並ぼか」
「はい」
対して並んでいるわけでもない列に二人で並ぶ。
ビュッフェテーブルに並べられた数々の料理やデザートを取るため並ぶ。
トレーを構え、どんどん進んでいく列にラクダかのように、着いて行く生徒たち。
勿論俺もそのレールからは外れない。
いつの間にかだいぶ後ろになってたタムシンを列に残し、席を探した。
席に座って待っている俺の目が見開いた。
小柄で弱そうな女の子がニコニコと晴れやかそうな顔をして、山盛りに料理が積まれたトレーを運んでいる。
周囲の人々も多くが二度見ならぬ三度見、そのまま視線を留めている。
何やあれ。
盛り過ぎやろ。
あの体に入んのかよ。
そんな思考を気にもせず、此方へと多分な視線を背中に浴びながら歩いて来る。
俺が考えてるだけで、言葉にも出してないからそらそうか。
「ナーリアさーん」
「タムシン、こっちこっち」
「はーい」
一つ右の席に寄ってタムシンを迎え入れる。
座りかけて視線に気づいたタムシンに視線は突き刺さる。
さっきとは打って変わってそれに気づいた小動物は逃げ場を探すように、周囲を四望する。
オドオドと席について、肩を窄める。
「多くないん?その量」
「そ、そ、そ、そうですか?」
「でも、その量食べれんの?」
「は、はい」
「そうでっか」
貴族の子女としてはどう何やその量を普通に食うのは。
てかマジでどんだけ食うねん。
考えても無駄か。
タムシンの気まずそうな雰囲気に気づいたのか、止まっていた列は再度加速し、会話も聞こえるようになった。
「じゃあ頂きます」
「頂きます」
合掌し食べ始める。
「美味しいです」
「せやな。これ実質無料みたいなもんなんやろ、神やん」
「そうですね。学園というのはすごいです」
日本でも真似した方がええんちゃうか。
国によって認められた学校、学園などの教育機関への支援によって、教育には一切と言ってええぐらい金が掛からんこの国の制度。
まぁここで言っても無駄やし、俺にはもう無関係な話かも知れんけど。
「どうかしたんですか?」
「あ、いや何でもないで」
「てか、食べんの早ない」
「そうですか?」
「もう半分ぐらいないなってんねんから早いやろ」
「美味しいですから、どんどん進んじゃいます」
「はしが止まらんのはええことや。因みにこれが多いのはなんでなん?」
「大好きなんです、スラ漬け」
「スラ漬け?何なんそれ」
「スライムのスライスをオイルで漬けた料理で、こうやってパンに乗せるのがとっても美味しいんですよ」
スライムか。
素晴らしくファンタジーな感じでええやん。
魔物も食うのが普通とはいえ、銀狼だろうが各種野菜だろうが対して前世で食ってきたもんと差は感じひんかった。
けど、スライムに似たようなもんなんて多分食ったことないやろ。
どんなんなんやろ。
「へー、美味しそうやん。私に一口くれへん?」
「ダメですよ。これはワタシのものですから。また今度にしたら良いじゃないですか」
「しゃあないからそうするか」
オイル漬け美味そうやな。
でも漬けもんやったら糠漬けとか、浅漬けとかの方がええな。
沢庵とかもええよな。
「漬けもんか……。糠漬けとか美味いよな」
なんで考えてたら声が漏れてたらしい。
それも日本語で。
「何か言いましたか?」
「あ、えっと、いや」
「教えて下さいよ、なんて言ったんですか?」
「漬けもん食べたいなって」
「お漬物ですか?どこかにあるんじゃないですか?」
「ホンマに?探そかな」
あるんかな。
ぶっちゃけ渋すぎると思うねんけど。
それに和過ぎると思うねんけど。
いや、言い方的にそんなもんは想像してないんかも。
知らんかったら想像できるわけないんやからそらそうか。
そんな料理まずまずこの世界に無いかもしれんし。
「因みになんでお漬物が好きなんですか?」
前世で・・・ってのは言わんのがお約束やし、バレたらなんか面倒そうやから言わんとこ。
「昔よく食べてたからかな」
「昔?まだ三歳ですよね?」
「あ、えっと、うん。当然昔って言っても去年とかやで」
セーフセーフ。
そうこう話しているうちにもご飯は胃の中へと消えていく。
そろそろご飯も終わりかというところで、後ろからとある声が聞こえた。
背後の黒い影は行動を開始する。
空き始めたビュッフェテーブルを料理を取りながらせっせか通り抜ける。
その足は一瞬止まり、周覧したかと思えば、一直線に目的地へと向かった。
その足は留まることを知らない。
だが、ある点にて運動は終焉を迎えた。
「ナーリア!タムシン!」
「あ、マルチダちゃん。えっとこんばんは」
「あ、えっと、その、あの、こここんばんは」
「二人とも一緒に食べてズルいー」
「いや、だってまた明日って言われたし、何より居らんかったし。しょうがないやん」
「ごめんなさい」
そうこうして話しながらマルチダが食べ終わるのを待った。
新天地に着いたことで潰えていた話の種が次々と湧いてくる。
暫くしてマルチダも食べ終わり、初めての夕食は終わりを迎えた。
――
「あ、セルフィ先輩そろそろ戻りますか?」
一人で立つセルフィ先輩を見つけ、そう声を掛ける。
そういやあのタムシンと同室の先輩は?
「ナーリアか。おう、そうするか」
「あ、あ、あの、えっとセルフィさん、パリシアさんは?」
「あー、アイツは多分あっちに居るぞ」
「あ、ありがとう、ご、ございます」
マルチダとタムシンが先輩の指差す方向へと歩いて行く。
その背中に声を残す。
「二人ともまた明日―」
二人は俺の声に振り返り、「はーい」と返事をして、踵を返した。
――
二人と別れた後、俺はセルフィ先輩と共に、部屋へ向かって歩いていた。
「明日はあの二人と何かするのか?」
「はい。えっと学校施設を見て回ろうかなって思ってて。セルフィ先輩はどうするんですか?何か予定が?」
「アタシはちょっと予定があってな」
「何の予定なんですか?」
「いや、ちょっとな」
「教えて下さいよ」
「ナーリアにはまだ早い」
もしかして、ソウイウコト?
まぁ、12?13?ならそんなもんか。
特にこの世界やと、少なくとも日本よりかは結婚年齢も低そうやし。
日本でも中学生なら付き合ってる奴なんかゆうておったし。
話しながら向かえば、少し長いこの道も短く感じる。
夕日が何にも遮られず、廊下に窓から差し込んで来る。
少し前を歩く先輩の輪郭が真っ赤に染まり、その背中に漆黒を生み出す。
鍵を取り出してドアを開けて、俺を待つ先輩。
先輩が開けて待っているドアを抜け、部屋に入る。
ーー
「おやすみなさい」
「おう、おやすみ、ナーリア」
ベッドの階下に寝ているであろうセルフィ先輩に声を掛け、学園での初めての夜を過ごした。
今日は長い一日やったな。
そういや、アモディオ兄弟には学園入ってからは会っとらんな。
まぁ食堂には居ったんかもしれんし、何より二人とは違って男子寮やから当然か。
てか、そういや、結局あんまセルフィ先輩とは話されへんかったな。
これから毎日おんなじとこで寝食すんねんからまぁええか。
彼氏なんかな。
明日の予定って。
どうでもええか。
とりあえずは関係ない話やろうし。
――
目が覚める。
ここは当然学園の寮のベッドの上。
先輩はまだ寝てるようやし、静かにしとこ。
そういや、多分先輩のなあのハンマーってどんなんなんやろ。
ベッドから降り、ハンマーを立て掛けている玄関に摺り足で進んでいく。
そろりそろりみたいな?
持てるかな?
手を添え、上へと力を込める。
フン!
フーーーン!
あかんな。
全くもって動く気がせえへん。
体格差がめっちゃあるからしょうがないか。
まぁ四歳未満の俺と中学生ぐらいの先輩やもんな。
当然の話ではある。
筋トレしよかな。
でも、したら背伸びひんって聞いたことあるけどあれってホンマなんかな。
携帯がありゃあ調べれんのに。
もしくはAIでも居れば聞けるのに。
無いもんはないねんけどな。
ワンチャン魔法で作られへんかな。
知識チートなら携帯も自作したりすんのかもしれんけど、俺にはそんな知識あるわけ無いし。
あるんなんて、専門家からすれば基礎の基礎だけやろうしな。
基礎、基礎。
テコでなんとかならんかな。
持ち上げるだけなら。
転かして、持ち手の先の方を下に、上の方を上に持ち上げれば持ち上がらんかな。
とりあえず転かしてみよ。
待て、これ直せんのか?
まぁえっか。
ゆっくりゆっくり。
ドン!
鳴ってもうた。
先輩の方を見るが、起きてくる様子はない。
下階の人ごめんなさい。
そう心の中で謝りながら手を合わせる。
じゃあやってみっか。
せーのっフン、フン、フーーーーン。
もう限界。
数センチ上げんのが限界やな。
手と腕痛い。
「ナーリア、何してるんだ?」
その声にさっと転かしたハンマーを体で隠す。
先輩の目線的に見えへんやろ。
「あ、えっと、な、なんもしてないっすよ」
「なんか話し方変じゃないか?」
「いや?そんなことなくないっすか?いつも通りやで」
「そうか。まあいいか。それで何故にアタシのハンマーに跨っているんだ?倒れているし」
バレテーラ。
怒ってはなさそうやな。
言い訳が聞いた?
「どれぐらい重いんかなって思って。持ち上がらへんかなってやってたんです」
「重いだろ。アタシのハンマーは」
「そうですね。と言うかこれがセルフィ先輩の武器なんですか?」
「そうだ。アタシは魔法がからっきしでな。殆ど使えないんだ。それこそ生活でも若干困るぐらいにな」
「……そうなんですね」
なんかごめんなさい。
心の中で謝ったナーリアであった。
「でも、セルフィ先輩がこれを振り回すこと考えたらカッコいいじゃないですか」
「そうか?ありがとな」
先輩がハンマーを元に戻し、ベッドに腰掛ける。
俺もそれに釣られるようにして椅子に座る。
その時、あの鐘が鳴る。
そう1の鐘が鳴った。
「本当にすまんな。今日はパリシアとえっとタムシンちゃんだったか、と一緒に食堂へ行ってくれ。アタシはそろそろ出る」
「予定があるならしょうがないですよ」
今後、このような投稿頻度になる可能性が高いです。
今回はGWを使うことで更新が出来ましたが、一ヶ月に一度の更新となってしまいました。
今後も更新は続ける予定ですが、とてもスローペースになることをご容赦ください。




