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よろしくお願いします。
日曜日の朝、
彼の家でちょっとした事件が起こった。
朝目覚めると、
娘が父親のベッドの横に倒れている。
いや、
娘がどさっと倒れる音に気付いて目が覚めた。
驚いた父親はベッドから降りて、
娘に声をかける。
大丈夫、
と答えた娘は、
お願いがあるのと言う。
ハンバーガーショップに行って、
いつものハンバーガーとオレンジジュースを持ち帰って欲しいと。
父親は、
ならば自分の分も持ち帰り、
一緒に食べようと言った途端、
娘は驚いて立ち上がり、
それは駄目!
と言う。
父親は元気そうな娘の姿に訝しげな顔をした。
その途端に娘は、
人差し指と親指で額を挟み、
お願いよ、
と言って恋に迷える貴婦人よろしく、
およよと床に崩れ落ちる。
しょうがなく彼はハンバーガーショップに行き注文する。
そこへオレンジジュースの君がやってくる。
日曜の朝からおしゃれな服装である。
化粧もしっかりとしている。
彼は最初、
誰だか分からなかったが、
彼女から声をかけられオレンジジュースの一件を思いだし、
改めて謝罪をする。
彼女は、
あの時の娘さんはどうしているのかと、
彼は娘が朝から調子が悪いと言い、
娘の頼みで朝食を持ち帰るつもりであることを告げる。
彼女は、
それは大変ですねと言うが、
彼は、
それがどうも仮病の様なんですと答える。
もしそれが本当なら、
娘さんの分はちゃんと持ち帰り、
朝食をご一緒しませんかと彼女が誘う。
彼は娘の朝からの異常な行動を思い出し、
これは仮病であろうと直感し誘いに乗る。
二人でテーブルを陣取り、
会話が始まる。
彼がどんなに寂しい思いをしているかを、
虚無の旅人で知っている彼女は、
彼の一言一言をしっかりと理解できる。
そんな彼女と話している彼は、
自分が包まれている様な気分になり、
久しぶりに自分から言葉を発する。
彼は彼女のことを知らない。
彼女は彼のことを知っている。
ただし返信の内容は、
彼の娘が届けたロマンス小説の大人の会話であるから、
完全に知っている訳でもない。
今度、
娘さんと一緒に食事でもと誘いかけたのは彼女である。
承知はしたものの彼は急に立ち上がる。
いけない、
こんな時間だ!
と。
ありがとうございました。