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パラレルワールド ~齢17歳の暗殺者は世界に叛旗を翻す~  作者: ふぁなお
第漆章「幾千万ノ死」
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第漆章 12 終焉と破壊

 12 終焉と破壊


 彼は日本に——いや、世界に反旗を翻す。


 皆、一つ忘れていたことがある。それは彼が忘れていたものなんかよりもちっぽけで阿呆臭いものである。だからと言って、別に簡単な美学の話でもない。紺屋の白袴なんていうお人よしになる必要があるとか、そう言った格好の良いお話でもない。


 では、何か?


 人は道具ではない。


 ただそれだけである。


「三人もろとも殺せええええええええええええええ‼‼」


 憎悪を被った言葉だった。その場で囲んでいた暗殺者が全員、一気に飛び出した。動けない女の子二人、枯れ果てた少年が一人、無力の三人に向けて二十四に及ぶ刃が陽炎のように揺らめいた。


 この場で終局。とても現実味ある下級国民の末路だろう。この異常さに違和感を覚えることはできても、この異常さにモノを言うことはできないだろう。


 現実はいつも非情だ。


 ありふれた常識である、残酷な現実のために人類は奮い立ち発展してきた。発展したが故にまたも不平等が生まれ、そしてまた理想を求め——その繰り返し。


 そんな世界を、愛おしく彼女は思っていた。家族で分かち合えるだけで満足だから我慢しようとも思っていたそうだ。家族さえ戻れば、ただそれだけで十分だと。


 じゃあ彼はどうしたい?


『また守れなかったって、そこで座り横たわり、地を見つめて泣きつくすだけでいいのか?』


「……っ、僕は忘れていたんだね、まったく飛んだ馬鹿だった」


 それは、枯れ果てた無神クロの言葉だった。泣き崩れ、地を這って、一万もの死を超えたとても無力な暗殺者。


「っな⁉」

「え⁉」

「なに⁉」


 途端に、周囲の異変が静止した。

 そして、彼女の首元を捉えた刀はひび割れて飛散する。二人の涙に紛れて刀の破片は崩れゆき、犇めき合っていた心臓の音も徐々に薄れてなくなりゆく。


「ありがとう。僕は無知だったんだ、結局……人と寄り添い合おうとしなかったんだ」


 彼女の胸の中で彼は呟いた。首後ろに回した右手で刀を握りつぶして辺りの異様も何もかもを薙ぎ払っていく。


 そこで、苛立ちを含んだ顔でこの世界の無神クロは続けて投げかけた。


「お前にこの世界で生きる意味はない、一万回も失敗したのだろう——もう無理だ、諦めろ」


 その言葉を聞き入れてなお、彼は彼女を抱きしめたままだった。


「諦めろ、か。そうだね、ゆりたちの死を学んで、自らも死んで、ようやくこの地にたどり着いて」


「周りが見えないのか? 無力極まりないお前たちに俺たちは二十四だぞ。ここで幕引きだ、もう意味はない。何より殺しておいてそこでやめるなど言語道断だ、勝手の過ぎる話だ。人間、いや世界はそれを許さないだろう」


「周り……確かに、絶体絶命だね。これは厳しい……けど」

「さっさと死ぬんだ」

「でも、そんなものが、二人が死んでもいい理由にはならないよ。もう僕は死んでも諦めない。いや、ここからはもう二度と死なない。二人を救って——それで、君は世界が許さないと言ったね?」

「……」

「じゃあ僕は、そんな世界もついでに壊してみせるよ」


 彼は右腕を平行に振るった。

 刹那、空気が真横に移動し、層の断裂が起き、五人の首が宙に舞う。まるで手品だった、理が分からない。次の番には、その腕を真上に振り上げた。唐突にその首が鉄に、残った体はアルミの粉末へと姿を変える。指を鳴らすと、凄まじい火花とともにそれらは光り輝いた。


 テルミット反応、高校の授業でも習う単純な化学反応である。


 傲慢な光の量に、4000℃に膨れ上がった熱量が周りにいる人間をどんどんと溶かしていく。飛び散った血肉は跡形もなく、その姿を闇の様な隅へと変貌させていく。


 今度は左腕を振るった。

 空気は凝縮し、途端にその構成を変えていった。どういうわけなのかその特性を硫化水素へと、最後には濃硫酸を作り上げていく。その隣では圧縮された空気の元素が独自な結合を繰り返し液体の水が形成され、指を鳴らした瞬間。


 それらは重なり合った。


「っ⁉」


 気づいた頃にはもう遅く、その二つの液体は衝突した瞬間から爆発した。硫酸が周りに飛び散り、今度は残酷に人の身を溶かしていく。臓物の構造はこんなものだったのかと断面図を見せていき、シンプルかつ非情な光景に残り一五名の暗殺者は足を止めていた。


 彼は立ち上がってこう言った。


「あのさ、君たちは神について、どう考える? 僕はね、神なんていないと思うんだよ。もしもいるのだとすれば、それは傍観者。神とは、もともとあった世界に対して、傍観してるだけの無能力者だと思うんだよ」

「この場で、言葉遊びか?」

「いや、ね。思ったことを言ったまでだよ、君たちが僕を阻むのなら、神の力など借りずに僕の思いで突破しよう」

「覚醒したからといい気になるなよ、制御も出来ていないのに、無駄に生を語るなっ‼‼‼」


 二人はぶつかった。


 同じ声、同じ容姿、同じ目の色をしていた。一つだけ違うところを述べよと言われたら、それは心の在り方なのだろう。


 目を閉じて、空気を吸って、手に取るような互角の戦いは始まった。



 さあさあ、これにて6章も終了です。

 次回、終章。

 お楽しみに!

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