第漆章 8 彼の旅2
あ、と。
彼は気づいた。
いや、彼は気づこうとは思わなかった。[
二回も踏みつぶされかけた。
ここまで、ここまで——。
たどり着くその世界の数、彼は、命に触れていた。
一万五十六回目の世界で、無神クロは真っ暗な路地を歩いていた。隣にはゆりと幸が裸足で歩き、他人が見れば誘拐か逃避行ってところだろう。それにしてはクロの装備はボロボロで、びりびりに引き裂かれたブレザーに血に染まったワイシャツに身を包み、弾の入っていない銃を手に持って、その道をヨタヨタと歩いていた。
「く、ろ君……大丈夫?」
「お兄ちゃん……」
何回何十回何百回何千回聞いたことだろうか、二人の心配する声色。聞き慣れてしまって今更、思うことはなかった。辛い? 勿論苦しいとも、でもそれどころではない。
「あの——ひとたちって」
幸は涙目になる。
「大丈夫よ、クロ君がいるから」
それに返答するゆりの目の色も薄く染まっている。何十人という職員、暗殺者に襲われ、もはや本部の連中はひと目などお構いなしだった。
見られたら殺せ。たったの七文字の命令で皆は刀を振るい、銃を乱射する。そこに人の思い、理想、人権も何もかもが消えていた。もともと、日本が行っていたような戦争も、欧州の国がやっていた独裁政治もこのような感じだったのだろうか。
それを考えると鳥肌が止まらない。
「くっはぁ、はぁ、っ⁉」
傷口が開き、血が止まらない。服をちぎり作った簡易的な包帯ではどうにもならなかった。足は縺れ、目の光は薄くなる。とても、とてもではない。
世界が彼を拒んでいた。
『標的007を発見しました。同じく標的二人も一緒です』
『了解、078と009を増援に活かせる、067は引き続き監視を続けろ。合流したのち、合図で開始しろ』
『イエス』
諦めたい。その気もないとは言い切れなかった。
どんなに最強と謳われた暗殺者でも、その重みには耐えきれない。ゲームのように何回もリセットリスタートを繰り返しても結果が変わらなかったのだ。
後悔?
いや、違う。
これは、ただの矜持だ。彼自身のプライドがそれを許してはいない。だからこその、一万回である。ここで成功させれば、一万分の一。決しては目指すべきではない、誤差の部類。
ヨタヨタと歩いたその道は長く、数千キロの時間を歩いていたのだろう。
「もう、意味わからないよっ!」
「ああ、」
「お兄ちゃんも、知らないの⁉」
「っ……」
「クロ君、そろそろ説明してほしいな?」
「……今は、それどころじゃない。逃げてk
「いつなの⁉ 逃げてからっていつなの‼‼」
ゆりは叫んでいた。胸にしまっておいた言葉を問答無用に掻き出していた。表面は荒く、内面は平凡に。それでいて的を得るように。
「いや、それは……」
「私たちも辛いよっ、それに——クロ君一人だけで背負わないでよ‼‼ なんで、どうして? 私たちが何かしてたのなら教えてよ、これってクロ君がしたことなの? 絶対違うよね、私たちが、いや私が……やったことなんだよね⁉」
聞いていて辛かった。
実際、この台詞も一言一句違わずとも聞き慣れたものの一つだったのだ。だからこそ、耳にタコが住んでしまうほどに——それでも、それすら超えて、心に突き刺さる言葉であった。
疲労困憊、満身創痍。
四面楚歌的状況に音を上げてしまいそうなクロはピタリとその場に立ち止まる。
刹那。
「……じゃあ、その理由を僕たちが答えようか?」
空耳——ではない、三人の頭上。つまりは空から降ってきた金髪の少年の声だった。
「く、っそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼‼‼‼」
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ふぁなおです。
さてさて、もうそろそろだろうとお考えの方々、どうでしょう?
人助けって実際こんなにもつらいモノでしょうかね?
では、また次回!!




