第漆章 2 なぜ、君は隣にいるのですか?
2 なぜ、君は隣にいるのですか?
ひらひらと、一冊のノートが棚から落ちる。
どこからか吹いた夏風に乗って、そのノートはゆっくりと落ちていく。
――ゆっくりではない、むしろ早かったのかもしれない。ただ、クロ自身が落ち着いて眺めていただけ、数時間のように感じられる景色はとても優美だった。
一生に一度、味わえるかどうかの奇跡の、軌跡の瞬間。
あの人の何かすら感じているかもしれない。気持ちがいい? まさか――自責の念が積もりに積もって、もはや数百年と生きても償えるわけのないこの罪。閻魔様がいるのならば、彼が舌を抜かれることが確定事項。嘘の嘘のそのまた嘘の頂上で、積み重なった死の上に立つ少年。
彼は、ようやく拾い上げる。
名前は、『日記帳その一〇』 紛れもない、疑いはない、彼女の字であった。丸くて、可愛さのある優しい字。心が、胸が、捻じれていく。
一ページを開くと、こんなことが書かれてあった。
『4月24日~お花見~』
今日はクロ君と幸と私と、咲ちゃんと孝介君と五人で円山公園に行きました。今年の桜は早くて、GW前に満開になるなんて思ってもいませんでした。とっても綺麗です。梅と桜の甘酸っぱい香りが私の鼻腔を刺激します。そんな美しいお花の下でみんなの笑顔が輝きます。クロ君はいつも不愛想ですが、どこかにこやかな感じがします。皆の幸せそうな笑顔を見ると、私の心も満たされます。すっごく楽しい、すっごく嬉しい。いつもありがとう。
『6月23日~定期テスト前日~』
定期テスト前にこんなこと書いてる私は余裕感がありますが、全くです。日本史が全く終わりません。坂本龍馬が何でしょうか? なんて、馬鹿している暇はありません。クロ君はまたバイト行っていますが、勉強してなそうで心配です。そんなにお店の店員さん足りないのかな? でも、クロ君っていっつも平均点は必ず取るんです。ずるい! 私はいつも頑張っているのに!
ああ、なんて楽しそうな日々なのだろう。一通り読み終えると時計は二周していた。
幸の溢れる毎日を眺めて、彼は泣いていた。
涙一粒の重さが、体に大きな影響を与えていく。重くて、曖昧で、熱い。涙で前が見えなくなるということはこれであった。
彼女の日々にずっと居てやれなかったことにとてつもないほどの懺悔の念が溢れ出す。
すると、残り一ページ。
荒々しい湿っている字が見えた瞬間。
『無神ゆりは無神クロを愛しています。』
——文字通り、彼の胸は張り裂けた。
破れ、千切れ、崩れて、びりびりにはち切れる。
でも、不思議と痛みはなかった。痛点がなくなったのか、神経すらも疑ってしまう。体が暖かい。そして、冷たい。目の前に、幻想が見える。温かく、そして冷たい。思いで?
——否。
これは、創造だった。
彼女は俺の目を見る。
『クロ君、久しぶり』
「あ、っ」
『まあ、一週間ぶりかな? なんか、時間が経つって――意外と早いんだね』
「ぁ、な」
言葉が出ない、この贖罪を果たしたい――のに。
『なに? どうしたのぉ、そんな切ない顔して』
「ご、」
『ねね、もっと笑って……っよ』
違う、そうじゃないんだ、この罪を償わせてほしいんだ。君の慰めは要らない。違うんだ、駄目——————でも、体は相反する。
俺は、僕は、彼女に縋りついた。ぐちゃぐちゃに抱きしめて、骨の髄まで感じられるように、僕は細い足にしがみつく。
『そんな、泣かないで……』
だって、辛いんだよ。この罪の重さが予想なんてできるわけもないくらい、今まで聞こえなかった声も、あの人たちの屍が脳裏に映って仕方がない。今にも崩れるその塔の頂で、僕は一人立っている。孤独が悲しい、隷属してきた人生がこんなにも苦しいモノなんて知らなかった。
彼女が、彼女が、君が、もう幻想でも何でもいい。
もういっそ――虚像でも。
『痛いよ……力、強いよ?』
ごめんなさい。
『そんなに抱きしめて……意外とクロ君って子供だったんだね』
ごめんなさい。
『そうだね、私が生きている間に――もっと遊びに行きたかったね、学校祭も、花火大会も、誕生会も、いっぱいあったのにね、ごめんね、君より先に』
違うんだ、僕が失わせたんだ、僕がこの手で壊したんだ。結局最初も最後も僕がやったことなんだ。
『泣きじゃくってて可愛いけど、君は男の子でしょ?』
そんな概念、僕にはない。
『私ももっと、君に教えてあげたかったけど、できなくてごめんね』
悪いのは僕なんだ。
どう取り作ってろっても、やったのは僕なんだ。
『君と生きていたかった』
聞きたくはなかったそのセリフ、死ぬかな。
そう思って僕は銃を持つ。
でも、彼女は許さなかった。
『ダメ、それはダメ』
え?
『死んで何があるの? 死んだら何を償えるの?』
この罪も、何より君にも。
『そんなことはね、愚か者がすることなんだよ。生きて生きて、償いなさい』
そんなことなんて。
『ダメですっ。生きなさい――それに、クロ君は知っているでしょ? 私、甘える子は嫌いですっ!』
甘えていないよ、それになんだよ? 知らないよ何も。
『まあ、その答えはすぐそこにあるよ――じゃあ、もう行くね、君と久々に会えてよかった』
知らないよ! 待ってよ、まだ僕はっ!
『人生は、強く生きろっ‼』
消えないで、待って、もっと居て‼
彼女は徐々に消えていく、さっきまで掴んでいた彼女の脚も耳に響く声もすべて薄れてなくなっていく。
瞼を閉じ、そして開ける。
そこにはノートの最後のページ。
『他の世界の私に向けて、この言葉を送ります。永遠の幸せを、可哀想な少年に。』
他の世界の私に向けて、この言葉を、送ります……?
電撃が、脳天を直撃する。
まさか、そんな、もしかしたら。
見えたものは雲の上に浮かんでいた希望。
タイムマシン。
WA研究機関の、あの小部屋の奥にある金属の塊。
そうだ。
あの時、僕は見たんだ。あれを、あの姿を。
『TRIAL PRODUCT 06 MADE BY TURUMIGROUP PASSWORD:sytm6m6n68』
この暗号を。
ああ、そうか。
僕の希望は、まだ一つだけ。
そう思った僕は暗闇を抜け出していた。
お待たせしました……。
遅れてすみません。
課題が多くてですね、はい、すみません。
お知らせ
あの僕の活動拠点をカクヨムに変えようかなと思いまして……こちらにもあげていきますが、編集加えたのはカクヨムで書いていきます。大幅に変わるところが多々あるので……もしも僕のファンの方がいるのであればカクヨムでも同じ名前で活動しているのでそちらまでどうぞ……。
ブクマしている人たちとかも、ね。よろしければでいいので。




