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第肆章 6 超能力者

 6 超能力者



 一方、ナナは未だに目標の顔すらも視認できていなかった。

「っく⁉」

 明らかに強い。

こんな強い目標にあったのは初めての経験でナナも少しだけ困惑していた。

 敵の投擲が圧倒的に速い、勿論彼自身も最高速度でかかれば余裕のスパンだったが、ここは廊下。身動きがとりずらい。壁を蹴っては体を捻ってを繰り返しながら、連射されるそのナイフをかわす。

「……っ」

 初めての苦戦。

 2Mにも満たない廊下を右往左往、行き場のない場所で彼は動く。

 右脚に着けたホルダーから愛銃「ベレッタ92FS」を瞬時に取り出し、浮遊した状態で二発。たった二発を天井へ撃ち込んだ。

 すると、彼が着地する瞬間。

 ネジによって支えられていた防火壁が自由落下した。まるでトンカチでコンクリートを叩きつけた時のような衝撃が体へ流れたが彼は気にも留めず、着地後わずか1秒、衝撃で拉げた防火壁を12時の方向に蹴り上げる。

 ビィィィィンン‼‼

 折曲がった轟音が耳に届くとともに、音速を凌ぐ速度で廊下の先へ跳び込んだ。

「‼」

 すかさずバトルナイフを取り出して、目標の間合いへ入った。


 


 と、思った刹那。

 自分の足がピタッと固まった。

 動かない、自分の両足首より先が全くと言っていいほど動かなかった。

 何が起こるか分からない。

初めての動揺が少しずつ、彼を侵食していく。

 止まったというより、静止した。静止したというより、固まった。

 パキパキパキと、水が固まる音がする。

「な、に」

 思わず前方へバランスを崩して倒れ込む、体を支えようと左手を着け……冷たい。

 そう、ナナの目線の先には、水が広がっていた。文字通り、水が彼の足元から固まっていった。

 困惑するナナの前方で笑い声が聞こえる。

「はははぁ!」

 聞き覚えのない声が近づいてくる、左手を地に着け跪く彼はその危機を自覚した。

「クハはハハハハハh‼‼‼‼‼」

 響く男の声。

 低くない高音の男の声がナナの手前まで来たと同時に、その男は口を開いた。


「過冷却」


 ナナもどこかで聞いたことがある言葉だった。

「高校生だったかな? B3のエース『漆黒の光』君?」

「……な、んだ」

 指先から広がっていく冷たさで声が震え、自分の体から発される汗という名の蒸気が煙のように舞い上がる。

「高校生なら……確か習うよな? 過冷却って言葉」

「そういう、ことか……」

 ナナは震える声で理解した。

 融点0度を下回った温度で液体として存在する水が、小さな衝撃を加えると同時に氷に状態変化するという変化の名称。

「どう? 僕の作戦、完璧じゃない?」

「だ、まれ」

 にやにやと振るえる男の声は不気味なものだった。

「だって、君は絶対反撃するじゃないか。一度も負けを経験したことないんでしょ?」

「それが、な、んな、だ」

「いやいや、思考が読みやすいんだよねぇ。一発で仕留められるような場所から行かなきゃすれば殺されることはない。僕の読み勝ちだね」

 一体何なのか? 顔も良く分からない男に勝ち越されるナナは傍から見れば惨めなものかもしれない。だが、ナナにはプライドという物がなかった。最後に勝てればそれでいい。常に全力の彼はありとあらゆるものを過程とする人間。

「そうか、じゃあ早く殺すべきだったな」

 言葉と同時。

 跪く彼の背中から肩甲骨、すべての部位をぐるりと回転させて左手と両足に向かって思い切り体重を落とし込むと、彼の手足に纏わり付いた氷が粉々に砕けた。

「じゃあ、死ねよ」

 彼は銃を眉間に向けるが、目の前に立つ不思議な仮面をつけた男は動かなかった。


 パアァン‼‼


 構わずもう一発。

 だが、しかし、目の前に立つ男は倒れることはなかった。というよりも、そこには存在しなかった。

「おいおい、うしろ」

「なんだ」

 死なない男に今更驚かないナナは肝が据わっている。そんな不思議な状況の中男の声に耳を傾けると男はこう言った。


「ねえねえ、超能力って知っているかい?」

「は?」

 ナナの背後で放った質問は中学生が言うような内容だった。自分は子供じゃない、そんな話をして気を逸らそうとでもしているのかと判断して愛銃に手を掛ける。

 だが、すぐに彼は続けてこう言った。


「僕は、超能力者なんだ」


「は?」

 連続で馬鹿にするような発言。さすがのナナも振り向いて、ベレッタ92FSの銃口をもう一度、男の眉間へ突き付ける。

「君は同じ反応しかしないねぇ」

「お前がそんなことを聞いて一体どうしたい?」

「まあいいさ、そんなに殺したいなら殺せばいい、僕はいずれ君に会うのだからな」

「何を言ってるんだ?」

 仮面の奥の表情は見えない。

 むしろ、彼が人間という保証もなかった。先ほどの身のこなし、ゼロ距離からの弾速すらも凌ぐ速さでナナの背後に回ったのだ。ナナ自身、一発で仕留められなかった目標ないし人間とは出会ったことがない。その経験が呼びかける警鐘という名の不安が身体を巡っていく。

「何も、事実を言ったまでだ。君にね」

「俺に?」

「そう、君に」

 未だ、銃口を突き付けながらナナは問う。

「それを僕に言う理由はなんだ?」

「理由? やっぱりかい、君が知っていると思って僕は話しかけたのさ」

 俺が、知っている?

 この発言も理解できないものだった。知っていることを前提で話しかけ、ましてはたったその一言のためにカーネーションの構成員を抹殺する、それが異常だった。自分のような暗殺者はやっても犯罪にはならないが、それ以外は違う。それに加えて、男の動きを見たから分かることがある。この男なら組織ごと破壊するのは余裕なのだろう、まず、ナナ自信をここまで圧倒する相手なのだ。そのくらい容易くできなければ話にならない。

「まあ、その感じだと何も知らないみたいだね、君は」

「お前、俺を……知っているのか?」

 ナナは疑問だった。

 おそらく、すべての言動からして、この仮面男は「カーネーション」の構成員の一人ではなさそうだった。あまりにも不愉快な高音な声が男自身の不完全さを物語っている。このような楽しさ優先的な思想のおかしい人間は組織に入れるはずがない。だからこその疑問を正面からぶつけて、すぐに彼は言った。

「ああ、知ってるさ。国家機密組織「PARALLEL」管轄の秘密保持部隊B3所属のNo,007『漆黒の光』さんだよね?」

 完璧だった。

「お前、ここの人間に聞いたのか?」

「ん? なぜそんなことをする必要がある?」

「じゃあ、お前の得たその情報は外部に漏らすわけにはいかない。この状況もすべて消すために、俺はお前を殺す。ただそれだけだ」

「はぁ、まったく。僕の話を聞きたいんじゃないのかい?」

「聞くのもいいが、その間に俺を殺すんじゃないのか?」

「まさか、君こそ殺したいんじゃないのかい? さあ、早く殺したまえよ、僕を」

 その言葉は本心なのか、それとも誘い、罠と言っていいのかが分からない。自分と同等に近い相手を前にして、判断が決まらなかった。

「じゃあ、そんなに迷うなら」

「?」

「昔の話でも、しようじゃないか?」

 不快で、不可思議な、それでいて優しい声が静寂な廊下に響き渡った。

 

 今回はナナvs未知の敵 でした!

 この敵は一体誰なのか、もはやカーネーション壊滅作戦は消え、新たな敵との戦いに!?


 どうでしたでしょうか?

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