分断
速見は周囲を見回して恐らく敵の攻撃によって皆が分断されたのだと悟る。特にマルクに至っては会話の途中だったのだ。このタイミングで消えるのは明らかに不自然、何らかの外部からの干渉を受けた可能性が高い。
しかし二人とも戦闘に関してはなかなかの実力を持っている。敵の奇襲を受けたとしてもただ黙ってやられたとは考えられない。
とすると考えられる可能性としては転移魔法による強制的な移動。しかしそれでも敵が世界を自由に飛び回れるクレア・マグノリアほどの精度で転移を行えるとは考えられない。きっと二人はこの近辺にいる筈だ。
速見はそっと左目を閉じ、全神経を移植された魔王サジタリウスの右目に集中させる。今までこういった使い方をしたことは無いが出来るはずだ・・・千里眼と称されたこの魔眼の性能なら。
まずは自分の周囲半径50メートルに視野を広げる。360度視界を広げた事によって早くも脳に負担がかかり頭痛がしてくるがそんな事に構っている暇なんて無い。
さらに視界を広げる。
100メートル
200メートル
まだ二人は見つからない。ズキズキと脳みそが痛みを訴えてくる。
500メートル
1キロメートル・・・
いない。
脳の処理能力を超えた力を発揮しているためか両目からゆっくりと血が流れていく。
5キロメートル
10キロメートル・・・
「見つけた!」
ようやく見つけたのはここから西へ10キロ離れた墓地のような場所。マルクが一人ゾンビの群と戦っている姿だった。
しかしそこにシャルロッテの姿は無かった。二人はどうやら別々の場所に飛ばされたようだ。
シャルロッテの場所も探そうと再び能力を発動させようとした瞬間、大きく吠えた太郎が無防備な速見の背中に迫っていた襲撃者にかみつく。
サッと立ち上がる速見。
その瞳には最大限の警戒が浮かんでいる。
何せ速見は今まで千里眼で周囲を探索していたのだ。その探査に引っかからずに速見に接近できるという事はただ者では無い。
襲撃者は太郎に噛みつかれ、悲鳴を上げながら身を捻って太郎の身体を引きはがした。太郎は低くうなり声を上げながら襲撃者を睨み付ける。
ソレはあの時洞窟の穴を塞いだ小さな鬼だった。
否、鬼かどうかはまだ判別できない。
人のようなシルエット、人と言うよりは獣のソレに近い鋭い鉤爪と今にも飛びかからんとする肉食獣を思わせる前傾姿勢。
・・・そして額ににょきりと生えた角。
特徴は確かに鬼種のものだ・・・しかし目の前の襲撃者の姿はかつて速見に致命傷を与えた筋骨隆々の鬼種と比べても明らかに小さく、そして貧弱だった。
鬼種の子供・・・或いは何らかの理由で成長しきれなかった奇形。
ひょろりと痩せた目の前の存在が何者かはわからない。しかし見た目には驚異になりえそうにないこの存在が魔王の千里眼をすり抜けて襲撃してきた事は事実なのだ。
(・・・どうだっていいか。どちらにせよ俺は素早く目の前の襲撃者を殺して二人を探さないといけないのだから)
速見は殺意を滾らせて無銘を構えた。
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