トラップ
「よしよし、エラいぞ太郎」
速見は先の戦闘を終えて一回り身体が大きくなった太郎を撫でる。
太郎は気持ちよさそうに目を細めると尻尾をぶんぶんと振るのだった。
「でもタロウがあんなに強いなんて思わなかったよ・・・ただの狼じゃなかったんだね。ハヤミはタロウの種族を知ってるの?」
マルクの問いかけに速見は首を横に振った。
「残念ながら知らないんだ。俺も今まで普通の狼かと思ってたよ・・・毛並みが白いのは珍しいけどな」
帰ったら太郎の種族についてクレアに問わねばならないと思いながらも速見は普段と変わらぬ愛情を持って太郎を撫で続ける。
関係ないのだ。
太郎が狼だろうと魔物だろうと、今まで心を通わせてきたパートナーだという事実に変わりは無いのだから。
「さて、慣れない暗闇での戦闘で疲れただろうお前達。ちょっと休憩でもして・・・」
そう言いながら振り返った速見は先ほどまで会話をしていた二人がいなくなっている事に気がついた。
「・・・・・・あれ?」
◇
「あれ? ここ・・・どこだ?」
マルクは困惑したようにキョロキョロと周囲を見回した。
先ほどまでは確かに速見と会話をしていた筈だ。しかし気がつくと全く見覚えの無い場所に立っていた。周囲に他の二人の姿は見当たらない。
どうやら大昔の墓地のようだ。
周囲には点々と石造りの墓地が点在している。様式はマルクの生まれ故郷とはずいぶん違うようで墓石に見知らぬ神の像が彫り込まれていた。
近づいて確認してみると男とも女とも知れぬ中性的なその像はピタリとその目が閉じられており何か引き込まれるような怪しい魅力がある。
「さて・・・どうしたものかな」
何故かはわからないが二人と離ればなれになってしまった。
考えられるのは敵の攻撃、もしくはトラップによる転移。チームをバラバラにして個別に叩くつもりだと考えるのが自然だろう。
しかし転移魔法を使いこなせる敵というのはやっかいなものだ。マルクも魔法使いの端くれである。転移の魔法というものがどれだけ高度な技術なのかは知っている。魔法使いとしての力量は明らかに敵の方が上だろう。
腰のグラディウスに手をかけながら周囲を警戒する。
妙だ。
この地に来てしばらく時間が立つのに敵が襲ってくる様子が無い。この場所から離れた方が良いのだろうか、それとも・・・。
そう考えていたマルクの足首を何者かが強い力で掴んだ。
サッと視線を下に向けると先ほどの墓石、その下から地面を突き抜けた一本の腕が万力を込めてマルクの足に掴みかかっていた。
「ゾンビか!?」
素早くグラディウスを抜きその手を切りつけるマルク。
幸いにもその肉は軟らかく、何の抵抗もなく手首を両断する事に成功した。
しかしマズい。
相手がゾンビという事は墓地というこの場所はマズすぎる。
予感は的中した。
周囲の墓場からも低いうめき声が聞こえ、ずるりずるりと腐りかけの死体達が土をかき分けて起き上がってくる。
数えるのも面倒なほどの多量の敵。
しかしここには助けてくれる仲間はいない。自分の力で切り抜けるしかないのだ。
マルクは右手にグラディウス、左手に小盾を構えるとゾンビの群に目がけて駆けていった。
◇




