表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
RED - DISK04 [side A]  作者: awa
CHAPTER 28 * The Way I Loved You
178/198

○ Cut The Line

 怪訝そうな表情を浮かべたままのパーヴォが帰ったあとすぐ、ダリルとティリーを乗せたタクシーが到着した。ベラが運転手に料金を支払う傍らで、ダリルに支えられながらタクシーを降りたティリーがエフィにすがるようにして、また泣いた。

 木製のベンチに座って事情を聞いたエフィは当然、ティリーを叱った。叱ったが、そんな切羽詰った悩みに気づかなかったことに謝り、一緒になって泣いた。ダリルはひたすら怒っている。

 「あんたらは話さなくていいから」煙草を吸いながら、不機嫌な表情で二人に言った。「つーか来んな。隠れろって意味じゃないけど、そこで座っとけ。ベラも、状況しだいだけど、黙ってていい。あたしが言う」“話す”わけではないらしい。「殴ったらすまん」

 隣にいるティリーを抱き寄せているエフィ、ぎょっとした。「殴るのはダメでしょ」

 「うるせーよ。わかんねーよ」

 「いや、ケーサツきたらどーすんの? ここにこなくても、行かれたらどーすんの?」

 ダリルは声を荒げた。「んなもん知るか!」

 そんな彼女に、さすがにエフィも困っている。「いやいや──ベラ、さすがにそれは、止めてよ」

 ベラは笑った。「私が止めると思ってんの? 先に言っとく。一緒になって殴ったらごめんね」

 「いやいやいやいや」

 「ごめん──」泣きながら、ティリーがまたあやまった。「ほんとごめん──」

 「ティリーは悪くない!」エフィは言いきった。「集会のことは、言いにくかったんでしょ? あたしはデートだし、ダリルはこんなだし、レジーちんにだって、つきあわせちゃ悪いと思ったから言えなかったんでしょ? なら、ティリーは悪くないじゃん!」

 「けど──」

 「ケリーが絡んでて、呼ばれても」とダリルが言う。「あたしは行かんかった。それどころか、ケリーに直接キレてただろーな。ヒトのオトコのチームになにクビ突っ込んでんだって。ヒトのツレになにちょっかい出してんだって」

 エフィはうなった。「ハセンは一応、ケリーのアドレスも知ってるから──実際、社交辞令だろうと、誘ったんだし」

 「そーいう問題じゃねーよ」煙草を地面に落とし、靴底で煙草を揉み消した。ポイ捨て禁止とエフィが怒ったが、ダリルは無視した。「そもそもブラ・ギャンはベラのツレ。ベラつながりであたしはアルと、あんたたちはレジーやパーヴォと知り合った。けどベラはケリーのことが好きじゃない。ケリーだってベラのことが好きじゃない。ってことは、集会に参加したことがあったとしても、ベラにとってもブラ・ギャンにとっても、ケリーはオマケだろ。連絡先知ってるからって、ツレってわけじゃねえ。

 チームのアタマとつきあってんのはあたし。なのにティリーを誘う意味もわかんねえ。レジーに頼めとか、もっとおかしいだろ。レジーはチームのメンバーじゃねえんだから。行きたいときは呼べって、レジーがティリーやあたしに言うのとは違う。ケリーは、ハセンだか誰かだか知らんけど、チームにもっと関わりたくて、けど言ったらあたしがキレると思ったから、ティリーを誘ったんだろ。ぜんぶひっくるめて、ふざけんな、だ」

 勢いに任せて行動するのが基本のダリルがそこまで考えていることに、ベラは関心した。

 そして、ダリルの携帯電話に連絡が入った。ケリーからだ。呼び出したときは明るい口調でも喧嘩腰でもなかったらしいのだが、この電話には、それなりに不機嫌さを出して応じた。駅に着いたところらしく、早くてもまだ二十分はかかると思われるのだが、今は真冬で相当寒く、待ちきれないので、料金はあとで返すからタクシーに乗れとダリルは言った。もちろん払う気などない。



・・・・・・・・・・・・・・・・



 少し待つと、ケリーを乗せたタクシーが到着した。ケリーが自分で料金を払ったことを確認すると、ベラはダリルに続いてケリーのもとへと歩いた。

 見るからに不機嫌そうなダリルの表情に、そしてなにも聞かされてなかったのでその場にベラがいることに、ケリーは二人に近づきながらも少々身構えた。それから奥に、ティリーとエフィらしき二人がいることにも気づいた。

 「どしたの? むこうにいるの、ティリーとエフィ?」

 「てめーに関係ねーだろ」とダリル。

 ケリーは見るからに焦った。「ちょっと、なに? どしたの?」

 ダリルも立ち止まる。「あんた、なにヒトのオトコのチームにちょっかい出してんの?」

 ケリーはかたまった。「え」

 「先週。行ったんだろ? ブラ・ギャンの集会に」

 「それは──」

 「ハセンに誘われて、ティリー誘ったって? しかもレジーまで巻き込もうとしたって? なに考えてんのかマジ意味不明なんだけど」

 「いや──」

 「誘われたのなんかただの社交辞令だって、なんで気づかねーの? どんだけ頭悪いんだよ。ハセンが、っつーかブラ・ギャンの男がマジでお前を相手にすると思ってんの? いてもただの性欲処理か、オンナ欲しくて必死になってるブサイクだけだから。半端なことしかできねー不良モドキだけだから。勘違いしてヒトの周り巻き込んでんじゃねーよ」

 この数ヶ月溜めに溜めた鬱憤を、ダリルは全力でぶつけているようだ。さすがに笑わないものの、彼女の暴走っぷりをベラはおもしろがって聞いている。

 引きすぎているのかケリーがなにも言わないので、ダリルはさらにつっかかった。

 「なに? なんも言えねーの?」煽っても反応はない。泣きも反論もせず、ケリーがかたまったままなので、ダリルがベラに言う。「言い訳すらないらしいわ」

 「じゃあもういいんじゃない? 心の中では、集会にティリーを連れてきたのは私だとか、なんでいきなりそんなこと言うんだとか、いろいろ浮かんでるのかもしれないけど」ケリーと視線を合わせる。「言えないんでしょ。私のことはともかく、ダリルはトモダチでいてくれると思ってたんだもんね。でもほんとは、ダリルのことを怖がってた。このグループはダリルからはじまった。ダリルに嫌われたら、自分の居場所がなくなっちゃう。だから後入りの私を嫌ってた。私の粗を見つけてどうにか追い出そうとしてた。無理だったけど。

 集会だって、ダリルを誘う勇気がなくて、だけどティリーなら平気だろうって思った。ティリーが渋ったら、レジーに会うチャンスだとか言うつもりだったんでしょ。集会に行きさえすれば、あとからダリルに知られたとしても、ティリーと一緒にどうにか言い訳できると思ってた。ティリーがレジーに会いたいだろうと思って、とか?

 計算外だったのは、ティリーが私に電話をしたこと。それどころか、私がアゼルに頼んでティリーを送ったこと。でも、どうやらダリルには伝わらずに済んだ。なぜか私が口止めしたから。それで完全に油断した。これからはダリルがいなくても集会に行ける、レジーがダメでもハセンに頼んでもうひとり迎えをよこしてもらえば、またティリーと一緒に集会に参加できる。チームと関われる。ほんと、“ぜんぶひっくるめてふざけんな”よ」

 ゆるむ口元を隠すため、ダリルはまた煙草を取り出して火をつけた。煙を思いきり──風に阻まれたが──ケリーに向かって吐き出した。

 「あとさ、お前の処女喪失物語とか、うちらの誰も興味ねーから」ケリーは先日、どうやらとうとう処女を喪失したらしく、そんな報告をするわけはないものの、自分から下ネタを振ってきた。「処女でいることが恥なわけでも、処女じゃないことが偉いわけでもねえんだよ。なに焦ってんの? なに経験済みぶってんの? なにを基準にしてんの? うちらがヒト刺しておもしろかったとか言ったら、お前もそれするわけ? なにと戦ってんだよ」

 ほんとだよ、と心の中で同意してしまったので、ベラも口元をゆるめてしまいそうになった。「もういいでしょ。なに言ったって、なんにも言えないんだろうし。早く帰ろ。ティリーとエフィが風邪ひいちゃう」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 タクシーの運転手に頼んでディスカウントショップに立ち寄ってもらい、一万フラムをダリルに渡してとりあえず必要なものとお菓子や飲み物を買うよう言うと、ベラは待たせているタクシーの後部ドアにもたれ、アゼルに電話をかけた。

 「なに」

 「ごめん。ほんとにごめん」

 「なにがだよ」

 「今日、泊まりに行くつもりだった。明日仕事休んで、日曜の昼頃までは一緒にいるつもりだった。けど──だめになった」

 「──なんで」

 アゼルは昔、“期待させるな”と言った。曜日だとか週末だとか日付だとかをきちんと決める約束をしなくなったのは、その影響もあるかもしれない。週末の金曜は、土曜は、といったことを自分の中だけで決めていたとしても、それをアゼルに言わなかったとしても、いつなにが起きるかわからない。

 本来なら、今のように自分で勝手に決めていたことがダメになったとしても、今日は、明日はこうするつもりだったというのも、言わないほうがいいのかもしれない。けれど自分は、言ってしまう。なぜかアゼルには、アゼルにだけは、本当に必要でない限り、嘘をつきたくないと思っている。

 「細かいことは今度話すけど、エフィたちを泊まらせることになっちゃって──だから、明日は仕事に行く。それで、日曜に休む。明日の夜、仕事終わったらそっちに行って、朝学校に行く。いい?」

 少し沈黙があった。「お前、あれはどうなったんだ」

 「あれ?」

 「口説くって話。部屋に呼ぶって話」

 ジャックのことだ。「それは──」

 「実行するまで来るな。連絡もすんな。勝ち負けはどうでもいい。“結果”を持ってこい」

 そう言うと、アゼルは電話を切ってしまった。

 唖然とするベラを、タクシーの向こう側からティリーが呼んだ。痛みのせいで歩くのがきついらしく、買い物を任せて戻ってきたという。

 ベラは彼女と一緒に後部座席に乗った。

 「もしかして、アゼル?」ティリーが訊いた。

 「うん」やはり勝手に決めていた予定など、言うべきではなかった。なんだかんだと理由をつけて引き延ばし、半分は忘れていたが、アゼルはすんなり流してくれる人間ではない。

 「ごめん」

 「いや、いい」これは、自分で撒いた種だ。「それより、よかった? 流れであんたまで連れてきて、泊まるってことになっちゃってるけど」

 「んーん、ありがたい──こっちこそごめん。家、だいじょうぶ?」

 「私はひとり暮らしだって言ってなかったっけ」

 「え」

 そういえば言っていないのだったか。「だからゲストルームがあるわけないし、雑魚寝だけどね。何枚かはブランケットがあるし、エアコンつければどうにかなるでしょ。風邪ひいても自己責任」

 ティリーは少し黙り込んだ。

 「あたしのしたことって、逆ギレかな」

 「どうだろうね。あんたは、泣いただけでなにもしてない気はする。でも、ダリルがキレた理由も、ちゃんとわかる」

 「──ケリーは、もう終わりだよな」

 「そうね。少なくともダリルは自分から話しかけたりしないだろうし、私だってしない。グループができあがっちゃってるこの時期には、キツイかもね」

 今度は彼女、大きなため息をついた。

 「恨まれるかな」

 「害はないでしょ。どうせあと二ヶ月もしないうちにこの学年、終わるし──」

 学校でも学校外でも色々なことがありすぎて、この一年、本当にあっというまだった。もうすぐ、祖母が死んでから、ウェスト・キャッスルを出てから、ブラック・スターでうたいはじめてから、一年になる。

 ベラはティリーに質問した。「けっきょく、レジーのことはどうする気?」

 彼女が無愛想に答える。「訊くなよ。つーか訊かれてもわからんし」

 「典型的な恋愛初心者だよね、あんた」

 「悪かったな」

 「べつに悪くはないけど。でもどうなるにしても、ちゃんと話したほうがいいと思う。バカなことしたっていうのは言わなくていいけど、それでも、好きだっていうのは、結果がどうなろうと、ちゃんと言ったほうがいい」

 ふてくされた表情のダリルがエフィと一緒に戻ってきた。年齢確認をされたらしく、ダダをこねてみても怪しまれ、酒を買えなかったらしい。

 しかたがないのでベラはディックに電話をし、帰り際に酒を差し入れてもらえるよう頼んだ。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 帰る時でいいと言ったのに、まだ帰る気がないらしく、ディックは自分の酒を買うついでにと、ベラの家に酒とつまみを届けてくれた。どうやらベンジーが自分でやると言っていた、トーマたちとサヴァランをコラボさせるために作っていた曲にまで手を出すことにしたらしいのだ。ディックが妙に協力的なものだから、他のバンドたちも影響を受け、てんやわんやで作曲祭りが行われているらしい。

 ティリーとエフィはシャワーを浴び、ダリルも含め、ベラのお金で買ったスウェットに着替えた。いちばんにシャワーを浴びたベラがすぐに瓶ビールを開けたので、みんなそれぞれ酒に手を出した。

 「レジーの鈍感さも、ある意味問題なんだよな」発泡酒片手にダリルが言った。「トモダチでいいとかオンナいらねーとか、無神経にも程がある」

 「なんかねぇ、なんだろうねぇ」エフィはチューハイ二本目を開けたところで、すでに気分のいいふわふわ状態だ。「パーヴォのこと鈍いって言ったり、実際そうだけど、レジーちんは変なとこで鋭いのに、なんかねぇ」

 飲める日らしく、ダリルはまだ余裕。「うまくいきそーだとは思ったんだけどな、最初のほう」

 「最初だけ?」

 彼女はうなった。「なんか──イモウト?」

 「なに?」

 「だから、妹的だよな、と」

 意味を理解したらしく、エフィはあからさまにショックを受けたような顔をした。

 ダリルに同意を求められたので、ベラもどうだったのだろうと考えた。彼には妹と弟がいる。面倒見はいい。恋愛感情があった場合相手の女に対してどういう態度をとるのかというのは知らない。見たことがない。レジーは昔の自分と同じで、“スキってなに?”と言っているタイプだ。

 「そもそも恋愛的か兄妹的かなんて、見分けがつかない気がする」自分とアゼルは違う。ダリルとアルフレッドももちろん違う。エフィとパーヴォも、違うのだろうが。「つきあってないからってわけでもないんだろうけど──」なんなのだろう。よくわからない。わからないことを考えるのは苦手だ。わからないのだから、考えてもしかたがない。しかたがないので考えたくないし、考えないのがいちばんだ。

 「近いのは」ダリルは続けた。「お前とパーヴォだよな。フツーにカップルだけど、見方によっては仲いいツレにも見える。けどそれは、兄貴と妹って感じにも思える」

 理解できないのか酒のせいで考えられないのか、エフィは首をかしげた。

 「確かに、年上だし、色々知ってるし、頼れるし、おもしろいし──」思いついたらしく、急に真剣な表情をした。「包容力?」

 ダリルは笑った。「話が違うわ。パーヴォにそんなもんがあるとか言われても納得できんし」

 「なんでよ!?」

 そして無視する。「で、けっきょくどうすんだ? レジーのこと」

 ひとりソファに膝を抱えて座り、チューハイをちびちび飲みながらひたすらぼーっとしていたティリーは、ただただ前方を見つめていて、けれどなにも見ていないようだ。

 質問を無視されたので、ダリルはティリーの脚を小突いた。

 それでやっとティリーがくちをひらく。「どうって、どうもしねーし」

 ダリルは肩をすくませた。

 「そりゃまぁ、こんな状態でつきあうとか、ありえねーだろうけど。それにしたって、告れよ。っていうか、フラれろよ。じゃないと、あとから後悔するぞ。レジーのことをじゃねぇ。チェーソンのことでもねぇ。“はじめてヤッたときのことを”だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ