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輝き星の舞姫  作者: 若竹
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 盗賊達を次々と始末し、残る残党を追ってウォルフとレオナードは集会場に潜入した。ウォルフとレオナードにとって、盗賊など大した相手では無い。

 二手に分かれて内部に入った時、ウォルフの眼に入ったのは、リリィが集会場の中央で踊る姿だった。

 それは、異様な光景だった。

 集会場の中央で舞う一人の少女。僅かなスペースで踊る少女の周りには、部屋の隅で固まっている村人達と、武器を手に威圧するように立つ盗賊達。

 それら全ての人間が、たった一人のちっぽけな少女、リリィの迫力に満ちた舞に、意識を奪われていた。

 皆、食い入るように少女を見つめている。

 まるで、呼吸すら忘れているかのようだ。

 少女を見るその表情は恍惚として、己が魂を奪われたようだった。


 ――信じられない、なんという事か。

 ウォルフは教会内の光景に驚愕した。

 彼女は盗賊達の意識全てを引きつけている。

 ……時間稼ぎをしていたのだろう、俺とレオナードが助けに来ると信じて。

 リリィや村の自警団のお陰で教会内に逃げ込んだ村人は無事なようだ。ざっと見る限りだが、今のところ教会内に死者や重傷者は見当たらない。

 あんな細い体に、よくもそんな勇気があったものだ。

 彼女の行動とその度胸に感銘する。

 脳裏に、リリィの舞い踊る姿が刻み込まれて行く。

 しかし、これ以上時間を無駄にする事は出来ない。僅かな一瞬でさえ、自警団やリリィの努力を無駄にする気は無かった。

 俺は盗賊達に生じた隙を見逃さなかった。

 出入り口付近に立つ盗賊を仕留めると、こちらに気付いて驚愕の表情を浮かべた手下を一刀の元に仕留め、部屋の壁を背にして立つ金髪の男に向かってナイフを投げる。

 全ては、ほんの僅かな時間で成した。

 頭の片隅で投げナイフの手ごたえを感じながら、取り逃がした盗賊のリーダーに迫る。

 呆けた様な表情を晒していた奴は、俺に気付くと一瞬で状況を理解した。

 混乱すらせずに状況を把握できたのは流石だと言ってやろう。

 だが、既に遅い。


「くそう、謀ったな!」


 奴は咄嗟に逃げ出そうとしたが、反対側からはレオナードが迫っている。

 レオナードの背後には切り捨てられた盗賊が倒れている。最早、奴に退路は無い。全てを理解した盗賊は、予想外の行動を取った。


「この女、こいつらが来るのを知って時間稼ぎをしていたなっ」


 よりによって、奴はリリィ目掛けて凶刀を放った。

 標的をリリィへと変えたのだ。

 こちらに向かってくると考えていた俺は、奴の予想外の行動に対応が僅かに遅れる。

 あと一息分間に合わない。

 刃がリリィ目掛けて振り下ろされる。

 頼む、逃げてくれっ、リリィ!




 ……誰かがわたしを呼んだ。


 わたしは集中を乱されて、ぼんやりと立ち止まった。周囲からは怒号と悲鳴、慌ただしい物音がする。

 一体何が起きているの?

 考えようにも今だ頭ははっきりせず、ぼんやりと霞みがかっている。

 俯いていた顔を上げて辺りを窺おうとすれば、眼の前に醜く歪んだ顔が現れた。

 怪物のように恐ろしい形相の男は灰色の髪を振り乱し、大声で何かを罵っている。

 男は鈍く輝く右腕を振り下ろした。それは、わたしの頭上に落ちてくる。

 ゆっくりと冷たい光が降ってくる。

 それはまるで、時の流れが滞ったかのようにスローで。


 ちりん、ちりりん。

 ぼんやりと白い頭の中に、鐘の音が鳴った。

 ――躍れ! 躍れ!

 雷光のように鋭く、雷鳴のように激しく脳裏を貫く。

 わたしは無意識の内に左腕を振り上げ、上体を逸らしていた。

 空気を切り裂く音と、頭上に落ちてくる鈍い輝き。ぱらぱらと宙を舞う栗色。安物の服が裂け、熱く鋭い衝撃がどんっと体を襲った。




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