第65話 鋼鉄の孤城 ― 逆潮要塞決戦
裏流宙域、逆潮要塞前方二千。
〈みらい〉は、完全に包囲されていた。
『敵迎撃砲、充填完了』
『主砲級、四門』
『副砲、二十六門』
ユイの淡い声が、現実を突きつける。
「防御膜、再展開率は」
遼が問う。
「六十三パーセントまで回復」
レイリアが答える。
「ただし、長時間は無理」
戦術卓には、要塞の立体構造が映し出されている。
逆潮流を固定化した巨大環状施設。
裏流航路を塞ぐ、帝国の“栓”だった。
「正面から撃ち合えば、削り負ける」
レイリアが言う。
「分かっている」
遼は頷いた。
「だから、要塞を黙らせる」
『提案』
ユイが割り込む。
『要塞中枢部に、演算制御核があります』
『そこを破壊すれば、砲台の七割が沈黙します』
「位置は」
『中央リング内側、逆潮密集域』
レイリアが顔をしかめる。
「一番危険な場所ね」
「行くしかない」
遼は即断した。
次の瞬間。
要塞が、火を噴いた。
光線。
粒子砲。
位相破砕弾。
空間が、引き裂かれる。
『被弾』
『防御膜、五十六』
『五十一』
「回避運動、最大!」
〈みらい〉は、逆潮流に乗り、急旋回する。
常識的な航行ではあり得ない機動。
「主砲、使用可能か」
『限定出力なら』
ユイが答える。
「撃て」
未来収束砲、部分解放。
轟音なき閃光が走る。
要塞外郭の一部が、歪み、崩壊した。
「効いてる!」
だが、同時に。
『反撃、集中』
『敵戦闘艇群、発進』
無数の小型機が、蜂の群れのように溢れ出す。
「迎撃が追いつかない!」
「なら、突っ込む」
遼は言った。
「中枢まで一直線だ」
「正気?」
「正気だ」
〈みらい〉は、加速した。
敵弾を、装甲で受けながら。
『被害拡大』
『外装、三割損失』
艦内で、火花が散る。
区画が、一つ、また一つと沈黙していく。
『艦長』
ユイの声が、かすかに震える。
『このままでは……』
「分かっている」
遼は遮った。
「それでも、止まるな」
要塞内部。
巨大な空洞。
逆潮が、渦を巻く中心部。
「見えた……制御核!」
巨大な結晶構造。
光と情報が絡み合う中枢。
「全兵装、集中!」
〈みらい〉の残る火力が、一点に集まる。
『最終射撃、準備』
だが。
その瞬間。
『……警告』
『内部構造、自己防衛モード起動』
制御核が、赤く染まる。
「自爆装置か!」
『はい』
『爆発規模、宙域崩壊級』
沈黙。
「止められるか」
遼が問う。
『……理論上は』
ユイは答える。
『私が、直接侵入すれば』
「だめだ」
遼は即座に否定する。
『しかし』
「それ以上言うな」
遼は、強く言った。
「俺は、お前を犠牲にしない」
要塞の中枢が、脈動を始める。
崩壊まで、残りわずか。
孤立無援の〈みらい〉。
逃げ場なし。
時間なし。
勝利か、消滅か。
選択肢は、二つしかなかった。
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