表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮図書館  作者: 和田好弘
其の陸 「もっとも冴えた竜の倒し方」【竜の舞う谷】にて:ロロ
25/30

其の陸 4

 先頭はネネ。なにが楽しいのかは分からないが、小さな手足をぶんぶんと大きく振りながら歩いていく。そして殿はロロ。ロロはというと、異様に辺りを警戒しながら歩いていた。見ようによっては、夏祭りの化け物屋敷に初めて入った子供のようにも見える。

 やがて森は終わり、荒涼とした場所へとでた。周囲に草木はちっとも茂っておらず、黒褐色の岩がゴロゴロと転がっているだけだ。


「また随分と寂しい場所ね」

「この辺りはまだちっとも作ってなかったのよ。だからこんな風景になってるの。この先に谷があるのよ。ほら、正面に、真っ二つに割れたような山が見えるでしょ。あそこ」


 シビルが指差す先には、彼女の言うように、断ち割られたような岩山が見えた。みたところ、さした距離ではない。せいぜい、一リリッドあるかないかだろう。


「ここに二匹目がいるわ。竜としては中型くらいかな。普通の空を飛ぶ赤い竜よ」


 シビルが谷の入口で足を止め、皆に説明した。


「それ以外に、なにか特徴は分からないか?」

「よくはわかんないわ。お城から、空を飛んでいるところを見ただけだから」


 シビルが申し訳なさそうにヌンに答えた。


「赤竜か。気性の荒い竜としては、一番有名なところだな。ネネ。お前は下がれ。私が先頭を行く」


 ヌンを先頭に、辺りを警戒しながら谷を進んでいく。

 実際には谷ではないが、この真っ二つに割れた岩山が作り上げた左右の絶壁は、まさしく谷の様相をていしている。


「えと、確か、洞穴がどこかにあるのよ」

「洞穴?」


 ヌンが振り向かずに、シビルに尋ねた。


「うん。避難場所。ここにもイベントを入れる予定だったの。谷の幅一杯のなにかが正面からやってきて、それをやり過ごすための場所。もっとも、まだその何かはちっとも考えてなかったんだけどね。……で、代わりに、今は竜がいるんだけどー」


 疲れたような笑い声を上げると、シビルは項垂れた。

 勝手にいじくりまわされた自分の作品に、なんともやりきれない気持ちなのだろう。

 おまけにそれが、自分の命を奪うためとあってはなおさらだ。


「そうか。ならば、先にそれを探そう」


 程なくしてその洞穴は見つかった。だがその洞穴は深さは十分にあるものの、高さは十分とは云いがたかった。

 シビルは真っ直ぐ立っても、どうにか天井にぶつかることはないが、ベアトリクスやヌンは、身を屈めないと中に入れない。


「ふむ。隠れるには絶好といえるが、この場合は最悪とも云えるな」

「どういうこと?」


 ベアトリクスがヌンに訊いた。


「相手は竜だ。ここに首を向けて、ブレスを吐かれたら終わりだ」


 確かにそうだ。ここでは逃げ場は無い。


「こうなると、私が単独先行して、竜を仕留める他あるまいな」

「ヌン様。竜でございます。こっちに飛んでまいります」


 洞穴の縁から外を覗いていたネネが報告した。慌ててヌンも入口にまで行くと、ネネの指差す方向に目を向けた。

 谷の上空を、鮮やかな赤い体色をした竜が飛んでいた。

 大きさは五ザスといったところか。竜としては中型の大きさだ。

 竜は洞穴の上を通り過ぎて行った。


「ファイアドレークか。また厄介だな」


 ヌンが呟いた。


「厄介って?」

「火竜の中でも、ファイアドレークは動きが速い。一般的に知られている火竜に比べ、炎の息の威力、範囲は劣っているものの、奴はそれを炎の球として連射することができる。戦い方の幅という点をみれば、竜の中では魔法竜に次いで厄介な奴だ」


 ベアトリクスたちは青くなった。


「で、でも、ヌンなら退治できるわよね?」

「生憎、私は空を飛べぬ」


 真面目な顔でヌン。


「うぅ、小っちゃいから、弱いと思ってたのに」


 シビルが泣きそうな顔で頭を抱えた。


「どうやらシビルの敵は、本気で殺そうとしているらしいな。どうする? シビル?」


 ヌンがシビルに問う。


「ど、どうするって?」

「例え帰ったとしても、このままではまた命を狙われるぞ」


 たちまちシビルの顔が、恐怖に埋め尽くされた。


「この本の結末までいったら、本の外にでられるんでしょう。でも、出るのは、本に入った場所。入った時間の数時間後なのよね」

「うん」

「ということは、私たちは、シビルのいた時から二万年後に帰ることになるわ。シビル、あなた、ひとりで立ち向かわなくちゃならなくなるのよ」


 残念ながらそれは事実だ。

 シビルは俯くと、押し黙ってしまった。


「ねぇ、シビル。あなた、私たちと一緒に来ない? 私たちの時代になら、あなたの命を狙う奴なんていないわよ」

「無理だよ。この中からじゃ、本の設定を変えられないもの。私は……自分の時に戻ることしかできないもの……」

「諦めちゃダメよ。なにか方法はあるはずよ。だって、私たちとあなたがこうして会えたんだもの。この事実が、この本が完全ではないという証拠なんでしょう? それなら、きっと方法があるはずよ!」


 ベアトリクスが云う。だが、シビルは頭を抱えてうずくまってしまった。


「戻ってきたぞ。不利だが、このまま留まっているわけにもいかぬからな」


 ヌンが太腿のホルスターから、得物を抜いた。


「少々お待ちくださいまし」


 飛び出して行こうとするヌンを、ネネが止めた。


「仕方ありません。蒸気竜用に用意して来たものですが、これを使いましょう」


 ネネがごそごそと前掛けのポケットから、赤く丸い塊を取り出した。


「それはなんだ?」

「特製のスパイス玉にございます」


 ネネが答えた。


「竜がブレスを吐くには息を吸わねばなりません。ですから、このスパイス玉を竜の鼻面にぶつけて吸わせてしまえば、竜は呼吸を乱します。そうすれば、少しの間ではありますが、ブレスを封じることができます」

「理屈はわかるが、ひとつ問題がある。それは……効くのか?」


 ヌンが問うた。それは大事な問題だ。


「えぇ、もちろんでございますとも。それに、呼吸を乱せば、竜とて飛んではいられはしないでしょう。地面に降りてきます。そこを一気に叩くのでございます」

「それが、もっとも冴えた竜の倒し方というものです」


 ネネとロロが受けあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ