突然の宣告
「どう...いうこと...?」
「どういうって...言葉通りの意味だけど...って何泣いてんの!?」
そう言われ頬に手を当てると自分でも気づかないうちに涙が溢れていた。
「...っ!」
それを自覚した瞬間心が押しつぶされそうな感覚が襲い心臓の辺りを抑えうずくまった。
頭の中では2年前のあの地獄のような日々が浮かんでは消える。
「ち、違うのよ!?兄さん!お、落ち着いて!ほら、深呼吸!」
慌てたように声を上げたカナが背中をゆっくりとさすってくれる。
「...っ...」
カナに言われるがまま無理矢理空気を吐き出し荒い息を整える。
しばらくして少し落ち着いた。
「大丈夫?」
「あぁ、うん、大丈夫。」
本当はまだドキドキしてるし体の震えも完全には収まっていないのだがこれ以上心配させるわけにはいかないのでなんとかそう答える。
「本当に大丈夫?無理してない?」
カナが心配そうにそうに顔を覗き込んできたので俺は顔を背ける。
「大丈夫、だから。...それで、で...出て行ってってどういうこと?...もしかしてもうこの家に俺は必要ないってそういう...」
その可能性は有り得る。残念なことに...
2年も学校に行かず引きこもって両親が汗水垂らして稼いだ金で飯を食い、ネット通販で好き勝手買い物。
それに俺がいつでも学校に復帰できるようにと学費も今だに払ってくれているのだ。
莫大な金を払っているにも関わらず俺は毎日顔を合わすこともなく自堕落な生活を送っている。
そんな息子に見切りをつけ捨てられた...そういうことか...
どんどんネガティブな考えが頭に浮かんでは消える。
「...いさん、兄さん!」
「...っ!」
カナの声でようやく我に返る。
どうやらまた知らず知らずのうちにトリップしていたらしい。
これじゃあいつまでたっても話が進まない。
頭をもう一度激しく左右に振ってから考えを払ってから話の先を促す。
「ええっと...どこから話せばいいのかな...昨日の夜の事なんだけどあたしが部活帰りに終わった後家に帰ったらに帰ったらリビングのソファに真剣な顔をして父さんと母さんが座ってたのよ。で、よくよく話を聞いてみたら兄さんが毎日安心してのんびり暮らせるようにって兄さんをしばらく初花おばさんのところに預けることにしたんだって。それで兄さんと唯一まともに話せるあたしが伝言役に指名されたってわけ。」
初花おばさんは俺の父親の妹。
俺もよくは知らないがなんでも昔、有名大学で天文学を教えていたらしい。
今は確かここからだいぶ遠い田舎に住んでいたはずだ。
「あ、預けるって...そんないきなり言われても...」
「もう初花おばさんには話をつけてて今週の日曜日の飛行機と電車のチケットをすでに取ってるみたいよ。」
「今週の日曜日って...明後日!?」
急すぎる!?
まだ自分が長年住んできたこの家から出ていくなんてことを納得した訳でもないし、第一心の準備が!?
「いや、あたしも急だとはは思ったんだけどね?でも前々からこのことはだいぶ話し合ってたんだってさ。まあ、いきなり言われて納得出来てないのは分かってるけどさ。あたしもまだ完全に納得してるって訳じゃないし。ま、あたしもあと一週間くらいで夏休みに入って顧問がしばらくいないから部活も休みになるから。そしたらそっちに行くから、ね?」
『ね』って言われても...
困惑する俺を他所にカナは『よし!』と言って立ち上がって俺の方を向いた。
「じゃあ、さっそく荷造りしようか!心配しなくても大丈夫よ兄さん!あたしがちゃんと兄さんのえっちな本の仕分け手伝ってあげるから!」
「それはマジでやめろ!?」
まだ全然納得しきっていないし、話を飲み込めてもいないがとりあえずカナが部屋を荒らすのを止めに入る事を優先した。




