九話 彼は不幸にも試練中に別の敵と出会ってしまったようです
サブタイトルがこの回の全て。
今回は長めです。
あ、タイトルを若干変えました。
※6/1~6/4まで、私事により投稿できません。
翌日早朝、悠木達転移者一同は揃って王城の裏門にいた。
そこには何台かの馬車があり、それに乗って目的地の前まで行くのだそうだ。
「では、それぞれの組で馬車に乗り込んでください。担当する場所は馬車の従者が知っています」
王女の指示に従って、悠木達は乗り込んでいく。
そしてその馬車はカタカタと音を立てながら、目的地へと進んでいった。
悠木が組み込まれたグループは、まぁ言ってしまえば『余り物』だ。
四つの箇所の内、一つが比較的小さな勢力であり、そこを担当する。
他が十四人なのに対し、何故か五人で行く羽目になっている。
これが『不運』なのか『幸運』なのかは分からない。
因みにメンバーは、
別クラスの佐藤悠木。
ボッチで孤高を気取っている両手剣を持った野崎蓮。
重度のオタク気質であるが故に若干周囲から孤立している魔術師の二宮弘彦。
大人しそうで、柔和な笑みを浮かべる、人の良さそうな針谷行人。
弱気で臆病な、弓を武器にした石川卓也。
というメンバーである。
なんだか厄介払いの様な組み合わせだ。
もしかしたらこの中で唯一『普通』である針谷行人が一番の『不運』かもしれない。
勿論、日常的に会話を交わすことなどないメンバーであり、そんなで馬車の中で会話なんてある筈もない。
悠木も空気を読んで、喋りたいのを我慢して黙っていた。
何方かと言えば悠木はお喋りな質なのだ。
悠木達が連れてこられたのは、王城より離れた場所にある背の高い木々が生えた森であった。
背の高い木々のせいで、常に薄暗い森が悠木達を出迎えた。
「……では、私はここまでですね。……この森の奥に住まう小鬼を討伐出来たらここに戻って来て下さい」
従者はそう言うと、馬車を降りた悠木達に向けて頭を下げた。
悠木達は互いを窺うように見合うと、居心地悪そうに森の奥に入って行った。
「……スゲェな」
森を行く最中、背の高い木々を見上げて、悠木は思わずそう口に出していた。
「そうだね。……僕達が住んでたのは都会だったし、こんな光景殆ど接してきてないもんね」
それに対して、針谷行人が困った様な笑顔を浮かべて答えてくれた。
どうやら行人も、コミュニケーションが苦手な訳ではないようだった。
その後ろを歩く石川卓也も、コクリコクリと首を縦に振り、同意した。
野崎蓮はただ黙って悠木達の数歩前を歩いていた。
「……むぅ。異世界の森とはいえ、余り日本と変わらないものですな」
二宮弘彦も、周囲を興味深そうに見ていたが、異世界と故郷の差が余り目に見えなかった為、少しばかり気落ちした様子で言った。
こんなんだが、クラスからハブられる様な事にはなっていない。
まるでゲームに出てくるオタクキャラのような喋り方だが、それに対して何か言う程悠木も性格が悪い訳ではなかった。
……まぁ何か言う程優しくもないのだが。
小鬼を――と言うか魔物を――探す際に、必要なのは主に魔術師の使う索敵魔術だ。
故に、この中で唯一の魔術師である二宮弘彦に頼る他ない。
弘彦は手を眼にあてながら、杖を天に突きあげる。
「行きますぞぉ! ――我が魔の力よ! 闇に潜むモノの在処を教え給え! 【索敵】!」
因みに、魔術の詠唱は基本的には必要ない。
詠唱が必要なのは古代魔術と言われる類の古い魔術であったり、特殊な魔術だけだ。
つまり、ただの彼の趣味である。
「……ふむ、ふむふむ。……ふむぅ~? ――此方ですな!」
そう言ってさらに奥の方を指さす二宮。
その指示に従って、悠木達は奥へと向かっていった。
森の奥を進んでいた悠木達は草木の奥に、緑色の肌をした、アニメ等で良く見る小鬼が何体もそこにいた。
「手に入れるのは耳、だよな?」
悠木の確認に、野崎蓮以外の皆が頷き、動こうとしたが、
「面倒臭ぇ……勝手にやらせて貰うぜ」
野崎蓮が、両手剣を肩に担ぎ、急に飛び出していった。
野崎蓮は地面に着地すると、両手剣を横に振り回した。
「ゴギャア!!」
と言う声を上げながら、逃げ惑う小鬼を、重い両手剣を軽々と操り、次々に葬っていく。
その光景は思わず悠木が、
「これ、俺達いらねんじゃね?」
と言ってしまうのも仕方のない事だった。
ものの数分でそこにいた小鬼を全滅させた野崎蓮は、
「……ハッ」
と鼻で笑うと、森の奥へと消えて行った。
「えっと……大丈夫かな?」
「だがしかし、ここにいた小鬼は全滅致しましたぞ?」
「まぁ、なぁ」
「……うん」
消えた野崎蓮のことを心配する皆だが、悠木はしっかりと見ていた。
馬車に乗る前に、別の馬車に乗る女子の一人と言葉少なに、だが親しそうに話す野崎蓮の姿を。
女子の方も、嬉しそうに話していた。
「多分心配で行ったんだろうなぁ……」
勿論、誰かに話すなど野暮なことはしない。
ただ察しの良い自分を『優しいなぁ俺』と心の中で称賛しただけで、一人で行動する野崎蓮のことなど心配もしていないのだ。
悠木の「青春をしているなぁ」という呟きは、青空に虚しく消えて行った。
取り敢えずは小鬼達から耳を剥ぎ取り、それを袋に詰めて帰ろうとした。
――と、
ガサガサと草木を掻き分ける音が複数聞こえて来て、其方に眼を向ける。
そこにいたのは小鬼ではなく、その体格の三倍以上の図体を持った――
「……鬼?」
悠木は後で知ったが、知能を持つ”ヴァリオラ”の鬼種を”鬼”。
”マリオン”の鬼は”鬼”と呼ぶらしい。
だが、今はそんなことを知る由もない。
額に二本の角を生やした赤い肌の鬼が、三体そこにいた。
どうやら先程の戦闘音を聞きつけたのだろう。
先程まで見たゴブリンなど比ではない程の圧倒的な存在感と威圧感。
眼はギラギラと輝き、此方を睨んでいる。
手には成人男性程の長さと太さの棍棒を持っている。
それを見てビビったのだろう。
ずっと後ろに控えていた石川卓也が、
「ひっ……ひぃああああああああああああああ!!」
悲鳴を上げながら来た道を体面を取り繕うともせず、全速力で逃げ出した。
武器すら放り捨てた石川卓也の後ろを、
「ま、待ってくだされ~」
そう言って二宮弘彦も駆けだす。
それを見て自分達もと顔を見合わせた悠木と針谷行人だったが、
「ゴァ!!」
そう声を上げて、戦闘の鬼が手に持った棍棒を悠木に向けて振り下ろしてきた。
「――危ない!」
ガキン!
「――っ!!」
振り下ろされた棍棒を旋根を顔の上で交差させて何とか受け止める。
本来であれば受け止めた腕の骨が砕ける程の威力なのだろうが、身体が異常に頑丈な悠木はそれを何とか防ぎ切った。
「佐藤君!!」
針谷行人の心配そうな声が聞こえるが、それを気にしている暇はない。
鬼は一体だけではないのだ。
「――くぉ!!」
ブン、と音を立てて振られた棍棒を、右腕のトンファーで防ぐ。
分かり易く言えば、大型車に体当たりされている様なモノである。
悠木じゃなければとっくに死んでいる。
「……に、逃げろ! 俺はどうにか逃げるから、後の二人を頼む!」
「わ、わかったっ!」
針谷行人は悠木の言葉に頷き、ゴメン、と言って逃げ出した二人の後を追っていく。
それを見送り、その姿が消えてから、
「のぉおおおおおおお!! 死ぬ! 確実に死ぬ! 重い! めっちゃ重い!」
取り敢えず泣き言を言った。
まだまだ全然余裕があるらしい。
ブックマークや感想が作者の栄養です。
すくすくと育ててあげましょう。
……ブックマーク宜しくお願いします(土下座)