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無気力高校生の異世界救済  作者: SUZUKING
第二章 旅立ちと始まり
59/68

番外編 とある戦乙女達の逃避行

長くなった……番外編

 少し昔の事を思い出す、クリエスティア冒険者ギルドの受付嬢四姉妹の長女……マリア・ウィンデアは元々はハガン帝国の将の一人だった。


「あの頃の事を考えると……今の生活が嘘みたいね」

「んー? マリア姉何か言った?」


 ここ最近は救世主と呼ばれる人達……特に気だるげな男の子関係で忙しかったが、今は何とか一段落して落ち着いている。


「何でも無いわ、さて引き継ぎして帰りましょうかイリス」

「あーい、久しぶりに姉妹全員揃うからな!」


 マリアは思い出す、忌々し帝国から逃げることを成功した日の事を……




─────────────────────────────




 優太達が転移してくる時から数年前……


 鉄と鉄のぶつかり合う音、喧騒の中その場所は辺り一面に血の匂いが漂っている。


「た、助けて! がぁっ」

「潔く死ね」


 マリアは帝国の支配に抵抗する小国の一つ“クレイラン王国”との戦争の副将として参加していた。

 もっとも、既に戦争と呼べるような物では無くなっているが……


「クククッ、最早攻め落とすのも時間の問題であるな」

「……」


 凄惨な光景にマリアは顔をしかめる。

 この戦争の指揮を取っている男の名前はヘンドリクス・バーナード現状のハガン帝国の最強の将軍だった。


「流石はヘンドリクス様、貴方様の軍略でクレイランは機能を失いましたからな」

「……」


 取り巻きの一人がヘンドリクスを褒め称えて居るが、マリアはヘンドリクスの極悪非道な所業を思い出し更に顔を苛立たせていた。



 ヘンドリクスが行った軍略とはまさに悪辣の一言だった。

 帝国の密偵組織の中には、魔法による変装を得意とする部隊がある。

 彼等の役割は情報の取得、対象の暗殺、敵国内での妨害工作等がある。


「姫様、少しお休み下さい」

「いいえ、お父様もお兄様も大変なのですもの私が休む訳にはいきません」


 クレイラン王国の姫であるレイシア・クレイランは自身だけが休む訳には行かないと他国への根回し等を積極的に行っていた。

 しかし、どの国も自分かわいさから協力を断っている。

 更に、不幸は続く何時来るのかわからない帝国の魔の手はクレイラン王国に既に到達していた。


「いえ、何としてでも休んで貰います」

「ふぅ、しつこいですよ………ぐぅっ!」


 レイシアが言い返そうと振り向いた時だった。

 レイシアに付いていた侍女がレイシアの腹部に深々と短刀を突き刺していた。


「あ……アリサ……な……なにを?」

「休んで頂こうと思いまして……………永遠に」


 痛みで息も絶え絶えのレイシアに、侍女は厭らしい笑みを浮かべて更に短刀を深く押し込む。


「うっ……」

「ふふふ、帝国の為に貴女には布石になって貰います……もっとも、既に聞こえてはいないでしょうけどね」


 侍女は、そう言うと侍女の服を脱ぎ捨て黒い装束へと姿を変え。

 レイシアの遺体を城内で最も人の通りが多い場所へと……………投げ捨てた。


 ドサッ


 重たい物が落ちる音、それに気が付き慌ただしく行き交っていた兵士の一人がレイシアの遺体に近付き。


「な、な、ひ、姫様!!?」


 その声が皮切りに城内は騒然とし、次第に大きな混乱に変わっていく。

 窓辺には黒装束の女は既に居ない。




「へ、陛下! 陛下!」

「何だ! 騒がしいぞ!」


 混乱の中、一人の兵士が玉の間へと入り、そこにいた中老の男性と女性に焦燥を隠さずに話し始める。

 そんな兵士に、男性……クレイラン王国国王ゼルガ・クレイランは玉座から立ち上がり兵士を諫める。


「陛下、レイシア姫が何者かに暗殺されました!」

「な、何だと…………」


 兵士の言葉に、ゼルガは力無く玉座に崩れ落ちる。

 それを悲壮な表情の妻、エリーナ・クレイランも茫然自失となっている。


「……すまぬ……レイシアの元へと案内してくれ」


 しばらく、俯いていたゼルガは報告に来た兵士にそう告げる。

 しかし、兵士は動かない。


「なにをしている…………ぅ?」


 動かない兵士を不審に思っていると、ゼルガは腹部に強烈な熱を感じた。

 視線を下に向けると腹部から槍の先端が突き抜けていた。


「がっ、い、ったいなにが? え、エリーナ」


 槍は引き抜かれ、ゼルガは妻の名前を呼ぶがその声に返ってくる声は無い。

 既に、エリーナは首を貫かれて息絶えていた。


「陛下、レイシア姫の元へと行かれる必要は有りません……陛下も奥方様もここで終わりですから」

「ま、さか……帝国はす、既に……」


 さっきまでの焦燥の表情は既に無く、兵士は歪に口を曲げて嗤っている。

 二人を貫いた衛兵二人も兵士も侍女も長い間この国に奉仕していた……否、奉仕する演技を続けて来たのだ全ては帝国の為に……


「魔方陣を起爆させろ」

『御意』


 こうしてクレイラン王国は蹂躙されて行った、内部から恐ろしく早い速度で……




 思い浮かべるだけで反吐が出る。

 マリアは嫌な表情を隠そうともしなかった。

 そんな時だった……


「見つけたぞおぉぉぉ!!」

「ほう、これはこれは」


 強烈な殺気と怨嗟の咆哮。

 しかし、それらを受けて尚不敵に嗤うヘンドリクスは殺気の元凶に好奇の視線を向ける。


「お前さえ、お前達さえ来なければ! 何故だ! 一方的に属国になれなどと呑める訳がないだろう!」

「受け入れ無ければ死ぬのみだ……貴様の家族の様になぁ」


 当然の憤りだ無理矢理戦争に参加させ、属国の国民さえ道具の様に使い捨てる帝国に付き従うなど到底受け入れられる筈がない。

 ヘンドリクスの言葉に、クレイラン王国の王子アンセム・クレイランは怒りに顔を歪ませて構えていた両手剣でヘンドリクスに斬りかかる。


「将軍!」

「いい、下がれ」


 ガキンッ


 ヘンドリクスは腰に携えたロングソードを引き抜き、涼しい顔でアンセムの一撃を受ける。


「ヘンドリクス! ここでお前を斬る!」

「やれるものやってみるがいい……最も貴様の様な愚直な男では無理だが……なっ!」


 ヘンドリクスはアンセムの両手剣を弾くと、隙のできた胴に前蹴りを入れる。


「ぐぅっ」

「クククッそんな事では仇など取れぬぞ!」


 蹴り飛ばされたアンセムは受け身を取ると、そのまま地面を蹴って高速でヘンドリクスに詰めようとするが途端に異変が起こる。


(やっぱり、ヘンドリクスが正面からまともに戦う筈が無い……)


 アンセムの顔が苦痛に歪む。

 そして、バランスを崩して地面を転がる。


「うぅっ、が!」

「んんー? どうかしたのか? 突然転ぶとは!」


 そんなアンセムの様子をヘンドリクスが大袈裟に語り掛ける。

 それを見てアンセムは忌々しそう言葉を漏らす。


「何をした……卑怯者め!!」

「ふっ、死に行く貴様に冥土の土産に教えてやろう我が〈愚者の愚策〉の力を……不可視の妨害、不可避の罠だ」


〈愚者の愚策〉……目に見えない障害物と必ず標的に絡み付く罠を仕掛ける、細かい指定は出来ず敵味方関係無く巻き込む様は正に愚策。


 ヘンドリクスの言葉にアンセムは立ち上がり再び両手剣を構え走り出す。


「うおおぉぉぉぉ!!!」

「もうよい、飽いた……」


 ヘンドリクスが呟いた途端、アンセムに無数の衝撃が襲いかかり。

 その激流に乗り、ヘンドリクスの一閃がアンセムの首を斬る。


「かっ、あっ……」

「ククク、他愛もない……」


 最早動く事も叶わないアンセムは……そのままヘンドリクスの凶刃にてとどめを差された。

 こうして、侵略戦争と呼ばれる蹂躙劇は幕を閉じた。




─────────────────────────────




 マリアにとっても心良い物とは言えない戦争が終わった。

 不機嫌な顔を隠そうともせずに、部下の兵士を連れて歩いている。

 マリア自身も元々は小国の貴族の生まれで、平和に暮らしていた。

 しかし、突然帝国が暮らしていた小国を侵略し、その時にマリア達の両親も命を落とした。


「失礼致します。マリア、お呼びだしに応じて参上致しました……」

「入れ」


 マリアは部下達を帰して一人で豪華な両開き扉を開けて中に入る。

 マリアは小国に居た時に父親の仕事を手伝っており、その頃には各国から「小国には過ぎた豪傑の戦乙女ヴァルキリー」と言わしめる程だった。


「良く来たな、マリアよ」

「……ご用件は何でしょうか?」


 部屋に入れば、この国の王であるサウザード・ハガンとその傍らにはヘンドリクスが控えている。

 マリアはサウザードの言葉に返さず用件を聞く。

 しかし、マリアの不躾な態度にも動じないサウザードは不敵な笑みを浮かべて話し始める。


「単刀直入に言おう、この度のクレイランの侵略の手引きをした者達が居る……その者達にクレイランを任せる事になる」

「それと私何の関係が?」


 マリアがそう問い掛けるとサウザードとヘンドリクスは不気味な笑みを浮かべて居る。

 その姿を見て、マリアは嫌な予感を感じる。


「その者達へと送り出す嫁に、お前の姉妹達を出す……これは決定事項で覆る事はない」

「……な!?」


 マリアが何故、仇とも言えるハガン帝国に仕えているのかと言われれば9割がた妹達の為だ……今守るものが脅かされている状況にマリアは黙っては居られない。


「何故です!? この国へと仕える条件はあの娘達に手を出さない事だった筈では!?」

「貴様が言って居たのは軍事利用の事であろう? これは唯の政略結婚だ命を脅かす物でもあるまい?」


 ヘンドリクスの言葉にマリアは唇を噛み締める。

 確かに、ただの政略結婚ならば問題無いのかもしれない……しかし、この男の言う政略結婚は捨てる事前提……油断させて切り捨てる事が目的であるため断固として認める事は出来ない。


「ククク、先方も名高い〈戦乙女の四姉妹〉の一人を娶れると上機嫌であったぞ」

「……」

「話しは以上だ……妹達に話を通しておけ」


 サウザードの言葉に、マリアは無言で立ち上がり扉から出ていく。

 それを見送ったサウザードはヘンドリクスに命令を下す。


「ヘンドリクス……マリアを見張れ、亡命を企てたなら姉妹ごと……消せ!」

「はっ! 仰せのままに……」




─────────────────────────────




「ふざけんじゃないわよ!!」


 玉の間から出てきたマリアは足早に女性用の寮へと向かっていた。

 そして自分達、四姉妹の部屋へと着くと直ぐ様妹達に指示を出す。


「あ、お姉ちゃんお帰り☆」

「ただいまリア、直ぐに武器を持って出る準備をして! イリスとサーシャにも伝えて!」


 帰って早々のマリアの言葉に焦りながらもリアは「分かった☆」と頷くと残り二人の姉妹の元へと走っていく。

 そして、直ぐにイリスとサーシャも各々の短剣、剣と盾を携えてマリアの元へと集まる。


「マリア姉、どうしたんだよ? いきなり物騒な格好させてさぁ」

「説明は後よ、直ぐにこの国を出るわよ……リア! 魔法通信でギルドに繋いで、話しは通してあるから直ぐに動いて貰えるわ」

「り、了解……返事が来たら直ぐに伝えるね☆」


 リアの言葉を聞いて直ぐ様行動を会社する。


「イリス、寮から出たら先行して状況を報告して危なくなったら戻って来て、リアは魔法で皆に補助魔法を掛けて、サーシャはリアを守って上げて……一気に駆け抜けるわよ……」

「おやおや、マリア殿一体何処へ行かれるおつもりか?」


 扉から出ると突然声を掛けられる。

 そこに居たのは40代程の男性で剣呑な雰囲気を身に纏っている。


「リースフェルトさん、ただの見回りですわ……お気に為さらないで……」

「それはそれは……殊勝な心掛け……」


 ズバァン


 リースフェルトが言い終わる前にマリアが斬り飛ばす。


「斬衝……! イリス行きなさい、リアは直ぐに魔法を!」

「了解!」

「軽やかな羽のように駆ける、〈フェザースライド〉☆」


 マリアは目敏くリースフェルトが剣に手を掛けるのに気付き、先制して攻撃した。

 リースフェルトが飛ばされて出来た風穴からイリスが飛び出していき、同時にリアが全員に魔法を掛けて揃って駆け出した。




 マリア達が去った女子寮にヘンドリクスが辿り着くと、虫の息のリースフェルトがヘンドリクスに手を伸ばす。

 しかし、ヘンドリクスは一瞥するとそのままロングソードで止めを差した。


「行け、ギルドに合流されたら厄介だ」

「御意」


 仲間が斬り捨てられる光景に何の感情も無い、負けた時点で不要物で命令を遂行するだけ……兵士達に求められるものは勝利のみ。




 マリア達はリアの魔法での強化を受けて猛スピードで城内を駆け抜けて居る。

 まっすぐ、城の裏門に続く道が見えて来た為更にスピードを上げる。


「止まれ!!」

「見つけたぞ! 裏切り者め!!」


 しかし、裏門へと続く道には帝国の兵士達が殺気を放ちながらマリア達の行く手を阻む。

 それを見たマリア達は止まるどころかスピードを上げて兵士達に接敵する。


「邪魔よ!」

「押し切ります!」


 マリアの豪剣とサーシャのシールドバッシュで先頭に居た兵士が吹き飛ぶが、数が多い。


「マリア隊長方に道を開け!!」

「な!? 貴方達!」


 突然の号令と共に、マリアの部隊の兵士達が突然現れ裏門を守る兵士達とぶつかり合う。

 まさかの出来事に思わずマリアは声を上げる。


「何をしているの!? こんな事をしたら貴方達が……」

「マリア隊長! 絶対にここから逃げ切って下さい……俺達が抑えておきます!」

「俺達はこの国に仕えてた訳じゃないです。マリア隊長だからついて行って居たんです……俺達の働きを無駄にしないで下さい!」


 元部下達の言葉にマリアは唇を噛む。


「これは隊長からの最後の命令よ……“最後まで足掻きなさい”……二人共、行くわよ」

「……はい」

「うん」


 マリアは部下達に最後の命令を告げると、リアとサーシャを連れて裏門へと向かっていく。

 三人を見送ると、マリアの部下達は兵士達を睨みながら話し始める。


「だってさ……」

「言われなくても足掻いてやるさ……“死ぬまでな”」

「隊長も人が悪いなぁ……ハッキリと言わないなんてさ……」


 それは“生きろ”と命じられたのだろう……だが部下達は敢えてその命令を歪めて受け止める。


「貴様等……帝国を裏切るのか!!」

「殺せ!!!!」


 部下達は武器を構える。

 門が砕け散る音を背に背負って、命の限り足掻くのだった。




 マリア達が門を砕き去っていった裏門は既に静かになっている。

 その場にやってきたヘンドリクスと一人の老人にマリアの部下達はほとんど既に倒れて居る。


「化け物め……」

「ふぉっふぉっふぉっ、なんじゃ騒いどるから何かと思ったら籠の鳥が逃げ出したのじゃな」

「ククク、ご老人は帰って頂いて結構ですぞ……この仕事は我が賜ったもの故」


 ヘンドリクスの言葉に老人は「つれないのぉ」と呟くと杖をくるくる回すと巨大な火球を作り出し。

 目の前のマリアの部下に叩きつける。


 ジュッ


 瞬間、声を上げる事も出来ず跡形も無く消し飛んだ。

 それを一瞥すると老人はもと来た道を引き返していく。


「じゃあのぅ儂は寝る……後、お前さん受難の相が出ておるぞー」

「……ふん、くえんじいさんだ」


 ヘンドリクスはそう呟くと、壊れた裏門を出て駆け出す。

 凶暴な笑みを浮かべて、まるで狩りへと出向くかのように……




─────────────────────────────




 裏門から城下町へ出ると、リアからギルドからの返信が来たことを告げられる。

 それとほぼ同時にイリスからも報告が来た。


「お姉ちゃん! ギルドからは既に迎えを出してくれているみたいだよ☆」

『マリア姉! こっちでギルドの職員と合流……そのまま進めば遭遇できるぜ! 引き続き先行して様子を見る!』

「了解……一気にいくわよ! サーシャ、リア!」


 マリアの言葉に二人は頷くと、スピード更に数段上げる。

 背後からのプレッシャーは既に気付いている。

 暫く進むと猛スピードのマリア達に追随する存在が現れる。


「ギルド職員です……皆様をリルティア王国へと導く様に仰せつかっております」

「……更にスピードを上げるつもりだけれど、大丈夫かしら?」

「問題ありません……」


 既に常人ならざるスピードから更に上げる、その宣言にもギルド職員は頷く。

 案内の元、城下町を駆け抜けて行く。




 城下町の外へと続く門に辿り着いた。

 すると、イリスから連絡が入る。


『マリア姉! そのままスピードを落とさないで来てくれ!』

「マリア様、イリス様とその他のギルド職員がおそらく門を制圧している筈です」

「分かったわ、サーシャ! リア!」


 サーシャとリアも頷くとそのまま門を通過して城下町の外へと抜けたのだった。




 城下町の門の通過の報告を受けたヘンドリクスは笑っていた。

 全ては目論み通り、ヘンドリクスの中にあるのはどれほど絶望させるかしかない。


「精々足掻けマリア……ククク」


 ヘンドリクスもまた常人ならざるスピードで走り抜けていく。




─────────────────────────




 走って走って走り続ける。

 本来ならば全速力で走り続ける事など不可能だが、リアの魔法〈フェザースライド〉により可能になっている。


〈フェザースライド〉……対象の走る際の負荷を羽のように軽くし、風の魔力を纏う事で走るスピードを劇的に上昇させる。


 その為、本来ならば馬車等の移動手段を用いても国境までは2~3日掛かる。

 しかし、最高速のマリア達は馬車よりも数段速い為、既にマリア達には国境の門が見え初めていた。


「お姉ちゃん! 見えてきたよ! 国境だよ☆」

『マリア姉! 門は抑えてある急いでくれ!』

「よし、一気にぬけ…………ハッ!」


 ゾゾゾッ


 違和感は足に感じた倦怠感だった。

 嫌な予感と寒気を感じ、マリアは直ぐ様後ろを振り返り、リアとサーシャを庇うように大剣を振るう。


 ガキン


 響く金属音……そこにはロングソードを振り下ろすヘンドリクスが居た。


「流石は豪剣の戦乙女ヴァルキリー……そう易々とは斬れぬか!」

「サーシャ、リア! 直ぐに門まで走りなさい!」

「そんな! それでは姉さんが!」

「行きなさい!!」


 躊躇うサーシャにマリアは怒鳴るように促すとそのままヘンドリクスと向き合う。

 そんなマリアにヘンドリクスは厭らしく嗤うと揺さぶる様にマリアに話し掛ける。


「美しい姉妹愛で有るなぁ……しかし、貴様の妹達は貴様と良く似ておるからな、見捨てろと言われて見捨てれるのか見物だなぁ」


 ヘンドリクスの言葉にマリアはサーシャ達に視線を向ける。

 すると、そこには今にも泣き出しそうな顔で中々進めないで居るサーシャ達が見えた。

 その時だった。


「我相手に余所見とは余裕だなぁ……マリア!!」

「な!? しまっ……」


 直ぐ目の前にまで間合いを詰めたヘンドリクスがマリアにロングソードを振り上げており、マリアは覚悟を決めた。


 ガキン!


 しかし、マリアは斬られなかった。

 マリアとヘンドリクスの間に盾を構えたサーシャがおり、更にマリアの後方にてリアがサーシャを魔法でサポートしていた。


「あ、貴女達!!」

「やっぱり姉さんを置いてなんて行けません!」

「そうだよ! 皆で行こうよ! もう、もう家族が居なくなるのはいやだよ!!」


 突然の出来事にマリアは呆気に取られるが、ヘンドリクスは少し苛立つ様にロングソードに力を入れた。


「ちっ、良いだろう……ならば姉妹諸とも剣の錆びにしてやる!!」

「くっ」

「きゃっ」


 ヘンドリクスは力任せにロングソードを振り抜く。

 しかし、そこで予期せぬ事が起きた。


「なに!?」


 予期せぬ事、それはロングソードを振り抜きサーシャ達を弾き飛ばしたまでは良かった。

 しかし、明らか様に飛びすぎなのだ、人3人が纏まって一直線に国境の門まで吹き飛ばされるのは流石のヘンドリクスも予想できなかった。


「あー、そうだった☆」

「ど、どうしたの? リア」


 吹き飛びながらリアが思い出したと声を上げると、戸惑いながらもマリアが質問する。

 すると、リアは言いづらそうに話し始める。


「えっと、〈フェザースライド〉って実はちょっと欠陥が有ってね……走る時の負荷を凄く軽く出来るんだけどね、掛けた対象者も羽の様に軽くなるんだ☆」

「それだと、ヘンドリクスの攻撃を受けれないじゃない?」

「正確には羽の様に吹き飛ばされ易くなるの……そんな場面なんて滅多に無いから調整しなかったんだけど……と言うか結果おうらい☆」


 リアの言葉にマリアは頭を抱えてしまうが、結果的マリア達は国境を越えてリルティア王国へと入ったのだった。




 ヘンドリクスは信じられなかった、読み間違えたイレギュラーな出来事、魔力の戦乙女ヴァルキリーの既存魔法の改良に寄る予期不能の動作により標的をまんまとリルティアへと逃したのだ。


「へ、ヘンドリクス様! いかがなさいますか!?」


 部下の言葉にヘンドリクスは無言で歩き始める。


「いけません! ヘンドリクス様! 国境を越えては!」


 部下は必死に止めるがヘンドリクスは止まらない。

 そして、ヘンドリクスは国境を踏み抜いた。




 マリア達は国境を越えて背中から地面に着地して、暫くしてようやく止まると3人の元へとイリスが駆け寄ってくる。


「皆! 良かった無事だったんだな!」

「うん、イリスも無事で良かった☆」


 リアは直ぐに立ち上がると、駆け寄ってきたイリスを抱きしめる。

 しかし、そんな二人にマリアは直ぐに注意を呼び掛ける。


「まだ油断出来ないわ! あいつの執念深さを…………!」


 マリアの言葉が終わる前に、国境の門からとてつもないプレッシャーが4人に襲い掛かる。

 ゆっくりとヘンドリクスが国境を越えてマリア達へと近付いてくる。


(くっ、ダメ……動けない)

「ね、姉さん」

「お姉ちゃん」

「マリア姉」


 マリアが3人を守るようにヘンドリクスに立ち塞がる、その時だった。

 凄まじいスピードで此方へと近寄って来る強大な魔力の塊を感じ取る。


「……! この魔力は……まさか!」


 ヘンドリクスも感じ取ったのか、魔力が近付いてくる方向へと視線向けると、一人の男が巨大な剣を担いで猛スピードで走り込んで来るなり。


 ガキイィィィィン!


 豪快に剣を振り下ろした。

 しかし、ヘンドリクスも負けじとロングソードで受け止め忌々しげに男の名前を呼ぶ。


「来たか……! 英雄、ジーク・ドランド!」

「はっはっはっ! 久しいなヘンドリクス! 相も変わらず小賢しくやっておるみたいだな!」


 ヘンドリクスの言葉に、ジークは豪気に笑うとヘンドリクスを挑発するように言葉を返す。

 そんな、ジークにヘンドリクスは苛立ちを隠さずに距離を取り、固有能力でジークに攻撃をする。


「愚者の愚策!」

「はっ! その程度は屁でもないぞ!」


 しかし、ヘンドリクスの不可視の砲撃も罠もジークには通じない。

 その光景にヘンドリクスは怨みがましく声を上げる。


「ふざけるなぁ! 固有能力も持たぬ出来損ないの分際でぇぇぇぇ!」

「ふっ! 固有能力に頼りきりの貴様には分かるまい……努力に寄る能力の上昇は固有能力にも優るとも劣らない強みであると!」


 ジークはそう言うと、剣を両手で構えて魔力を込め、剣気を乗せ、全身全霊でヘンドリクスへと斬りかかる。

 対するヘンドリクスも全力の力を込めた愚者の愚策を発動させて迎え撃つ。


「うおおおおおおお!!〈フルブレイド〉!!」

「愚者の愚策〈竜落としの計〉!」


〈フルブレイド〉……特殊な鉱石で作られた巨大な剣、魔力が通り易く、所有者の闘気を力へと具現化する事が出来る。

〈竜落としの計〉……愚者の愚策唯一の破壊攻撃、竜の炎すら巻き取り圧倒的破壊力に変える。


 両者の全力の一撃がぶつかり合い、激しい衝撃が周りを揺らす。


「くっ、なんて威力なの……? 皆は無事!?」

「な、何とか生きてる」

「サーシャお姉ちゃんありがとう」

「姉さん、皆無事です!」


 マリア達は互いの無事を確認すると、直ぐにジーク達の方へと視線を向ける。

 するとそこには、互いにボロボロの二人が立っていた。


「ふっふっふふふふふふ……化け物めが……」


 ヘンドリクスは縦に切り裂かれそのまま絶命し。


「まさか、この様な形で因縁に終止符が差されようとはな……」


 ジークは感慨深そうに剣を背中の鞘へと納めた。

 こうしてマリア達のリルティアへの逃避行は幕を閉じたのだった。




─────────────────────────




「ただいまー」

「ただいま」


 ギルドからマリアとイリスが帰ってくると、家の中は美味しそうな香りがしていた。

 家の居間ではサーシャとリアが4人座りのテーブルにシチューやパン、サラダを置いてる最中だった。


「あ、お帰りお姉ちゃん、イリス! 今日はサーシャお姉ちゃんお手製のシチューだよ!」

「お二人共、お帰りなさい。ふふ、お母様がよく作ってくれた物ですから」


 リアとサーシャはマリア達に気付くと、二人を迎えて食卓に付いた。

 マリアはそんな穏やかな日常を見て、改めて決意を固めるのだった。


 この日常も妹達3人も必ず守り通して見せると強く心に誓うのだった。

帝国のヤバさを書きたかったんです。

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