第十四章[私、ここにいていいのかな]
―文化祭当日・・・
「嫌な予感」は、当たってしまった。
生徒 「ねぇ、イベント実行委員いる?」
生徒 「あそこにいるぜ」
生徒 「照明はあそこか・・・。」
生徒 「本番は確か14時だったよな?それまで待機だな」
生徒 「よし・・・」
ミカ 「あ~緊張する!どうしよう!」
翔 「リラックスリラックス!・・・って、あれ?俺ギターどうしたっけ?」
ジョニー 「楽器はさっき舞台裏に置いて来たぞ・・・」
翔 「あ」
ジョニー 「ったく、大丈夫かよ」
ツバサ 「あははっ、翔が一番緊張してるね~!」
翔 「恥ずかし!」
ミカ 「はは・・・」
タクヤ 「そろそろステージ向かうか?」
ミカ 「え、もうそんな時間!?」
マリナ先輩 「あと十五分よ」
光 「じゃあそろそろ行った方がいいNA」
翔 「うし!行くか!」
みんな 「おー!」
―ミカたちは体育館に向かった。
ツバサ 「わぁ、盛り上がってる!」
マリナ先輩 「あれが私たちの前の演奏のグループよね?舞台裏で準備しましょ」
ミカ (あぁ・・・もうすぐか・・・いよいよだなぁ)
ジョニー 「よし・・・もうあとはやるだけだ」
翔 「ミカ、頑張ろうぜ!」
ミカ 「うん・・・!」
生徒 「ビバ☆ロックのみなさん、あと5分で本番なのでよろしくです~!」
マリナ先輩 「は~い!」
ツバサ 「うぅ、僕も緊張してきた」
ミカ 「・・・。」
―ミカは舞台袖の暗闇に包まれて、ひとり目を閉じた。
今までの事をそっと思い出しながら。そして、
これまでに何回かやってきたライブとはまた違った感情に包まれながら。
いじめられていた自分が、突然の出会いによって仲間たちに出会えた。バンドでボーカルをやるなんて。まさか自分がチア部と両立するなんて。
―そしてこれから、自分にとって一番嫌いだった場所でライブをやるのだ。
緊張を通り越して、もはや不思議な気分にもなった。
幕があがったら、その先にはどれだけの人がいるんだろう。
誰も来なかったらどうしよう。
でも・・・。
―そう考えているうちに、本番の時間がやってきた。
翔 「よし、みんな行こうぜ!」
ミカ 「ビバ☆!」
みんな 「ローーーック!!」
生徒 「続きまして、ビバ☆ロックのライブを行います!それでは皆さん、どうぞ☆!」
ミカ (あれ・・・!?意外と人がいる!)
翔 「いぇーい!」
メンバーがそれぞれの位置についたことを確認すると、ミカは一歩前に出て挨拶した。
ミカ 「みなさん、本日はお越しくださりありがとうございます!ビバ☆ロックです!」
パチパチ・・・
ミカ 「私たちは普段、駅前や広場でライブ活動をしています。初の学校での演奏という事で、緊張していますがよろしくお願いします!まずは一曲目、聞いてください!」
♪~~♪♪~~~~
―その頃、ステージ裏では生徒たちが動き出していた。
生徒 「始まったぜ」
生徒 「なぁ、何曲目でいく?」
生徒 「もうやっちゃえばー?」
生徒 「それもアリだけど、面白みがないよね~」
生徒 「バレないようにうまくやらないと見つかるし・・・」
♪♪~~~~♪~~~~
観客 「わー!!」
ミカ 「ありがとー!!!」
パチパチ・・・
ミカ 「え~・・・次の曲は私が作曲した曲になります。この曲は・・・」
生徒 「おい、やばい。どんどん人が来てる」
生徒 「マジかよっ!?」
生徒 「外からの客多くね?」
生徒 「なにげファンがいたんだ」
生徒 「そろそろ位置につこうぜ」
生徒 「そうだな・・・」
生徒たちは暗闇の中をコソコソと動き、スイッチの前で待機した。
ミカ 「とても大切な思い出が詰まった曲なので、私が今日ここで歌えることはほん・・・嬉しくっ・・・ます・・・」
観客 「?」
翔 (なんだ、マイクの音飛びか?)
ミカ 「では、聞いてください!」
♪~~~♪♪~~♪~~~~
生徒 「よし、せーのでいくぞ」
生徒 「ああ・・・」
生徒 「せーの!」
カチっ・・・
プツっ・・・
―生徒たちは照明のスイッチをはじめ、電気関係のスイッチを同時に全て消し、逃げるようにして観客席に紛れ込んだ。
体育館ステージは真っ暗になり、ミカのマイクも、楽器の音も全てが聞こえなくなった。
ミカ 「え・・・!?」
観客 「え、何~?」
観客 「停電か?」
観客 「真っ暗~~~」
翔 「何だ?・・・おい、実行委員いるか?」
ミカ (そんな、いきなり・・・)
会場は混乱しているが、マイクが通じないため呼びかけることもできない。ジェスチャーも見えない。
ミカ (どうしよう・・・)
翔 「おい!実行委員誰か!!」
生徒 「ビバ☆ロックのみなさん、すみません!実行委員ですけど・・・照明が勝手にいじられたみたいで・・・」
ジョニー 「消されたのか!?」
生徒 「僕は別のところにいたので、わからないのですが・・・今、他の委員の人が復旧しに行ってます!とりあえず、このパニックをどうにかしないと!」
―ミカはステージのギリギリに立った。
翔 「・・・おい、ミカ!!危ない!」
ミカ 「みなさーーーーーん!ミカです!!!すみません!!全ての電源が落ちたみたいなので、皆さんは安全のためにその場でお待ちください~~!!!」
ミカは自分の出せる一番大きな声を体育館中に響かせた。
翔 「ミカ・・・」
観客 「・・・。」
生徒 「見ろよ、すげー焦ってるぜ」
生徒 「いい気味だ」
生徒 「俺たちが照明消したってだけでこの混乱・・・笑えるな」
生徒 「これでライブは中止だ」
電源を落とした生徒たちが、観客に紛れてニヤニヤしていた。
ミカ (どうしよう・・・この後何をどう言えば・・・)
マリナ先輩 「ミカちゃん!一度裏に!」
ミカ 「でも、お客さんたちを残して・・・」
生徒 「僕らが繋ぎますから!」
ミカが裏に戻ろうと後ろを向いた瞬間、背中から聞き覚えのあるメロディーが聞こえた。
♪~~~
♪♪♪~~♪~~
ミカ 「え・・・!?」
その声は一人、また一人と増えていった。
ミカが歌っていた曲を、みんなで合唱し始めたのだ。
♪~~♪♪~
生徒 「おい・・・何してんだ・・・」
生徒 「ここにいる客のほとんどが歌ってるぞ・・・!?」
生徒 「マジかよ・・・!?歌詞覚えるほどファンだってのかよ!?それに、この人数・・・!」
生徒 「に、逃げようぜ」
生徒 「おう・・・」
涼 「ちょっと君たち」
生徒 「お前は・・・!野元涼・・・!」
涼 「今の会話全て聞かせてもらったよ。君たちが犯人だね?」
生徒 「なっ・・・何の事かな?」
生徒 「聞き間違いだろ・・・お、俺たち急いでるんでまたな!」
涼 「待った!」
生徒 「おい、アイツら追いかけろ!」
生徒 「分かった!」
涼 「待てっ!」
ミカはそんなことが客席で起きていることも知らないまま、
自分の耳に聞こえてきた合唱に泣きそうだった。
ミカ (なんで・・・)
―気が付いたら、自分たちの事を知ってくれる人たちが増えていた。
そして、自分の歌も、それに込められた過去も。今の想いも。
涙目で後ろをふりかえると、メンバー達が笑顔でこちらを見ていた。
「これは夢じゃないんだよね?」
・・・そう確かめたくて、涙声のまま、自分も歌に参加した。
ミカ 「君が教えてくれたね~♪全てに意味があること~」
♪~♪♪~~~
歌い終わると、観客は皆拍手をした。
大声を出し切ったミカは、嗚咽と息切れの中、
声を振り絞った。
ミカ 「ありがとーーーー!!!!」
パチパチ・・・
生徒 「翔さん!復旧したと思うのでちょっと弾いてください!」
翔 「お、おう!分かった」
翔は光と目を合わせ、イントロから弾こうと頷いた。
♪~~~~
ミカ 「!」
自分達の音が返ってきた。そう確信したら嬉しくなった。
そして、今までで一番大きな歓声に包まれて
ミカはもう一度歌った。
―もしあの時翔に会わなかったら、きっとこんな自分はいなかったに違いない。
「本当に私は仲間に支えられてきたんだな」
過去の様々な事を思い出して、再び泣きそうになった。
そして一瞬、目を疑った。
何度かライブで見かけたファンの中に、いつもミカをいじめていた生徒たちが楽しそうに音楽を聴いているのだ。
あの笑顔は、何かを企んでいた今までの不気味な笑顔ではなく、自分の音楽を認め、楽しんでくれている笑顔だ。
「私、ここにいていいのかな」
―過去の自分に見せてあげたい風景。
今日は今までで最高の日だ。