表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

見てられない(とある友人視点)

ネタバレが嫌いな方は、奈夕サイドの本編が終了した後に透和サイド(透和視点、とある友人視点)を読むことをお勧めします。

トウワは、生まれながらの王だ。

持って生まれた美貌は当然のこと。

才能。

頭脳。

カリスマ性。

全てがある。

そして、そんな全てを持っているからか。

トウワは、物事に執着しない。

それでいて、どこか脆い一面がある。

強靭な肉体の強さと、不安定な精神。

俺は、透和のそのアンバランスさに――魅せられた。



トウワは、むやみやたらと人に心を開いたりしない。

断言できる。

絶対しない。

こっちがたまに泣きそうになるくらい冷たいヤツで、容赦もしない。

そんなトウワが、変わった。

原因は――、




「トウワさんが暴れてるんですッ。俺達じゃ手が付けられなくて……!」



連れられて、俺が店に到着した時には、それはもう酷い状況だった。

テーブルも椅子もバラバラ。

ガラスは割れ、壁には穴まで開いてる。

何度か、この店には来たことがあった。

少し暗めの照明に広々とした店内は、掃除が行き届いてるのか、とても綺麗だった記憶がある。

それがこの有り様。

全て一人の男によって為されたモノであるのは明白だ。

体を押さえる数人の男たちを軽々と払いのけ、一人の男を顔の原型が分からない程ボコボコに殴り続けている。

止めに入ってやられたのだろう、辺りは死屍累々だ。

勘弁してくれよ、と内心深い溜め息を吐き出してから口を開いた。



「もうその辺にしとけ、トウワ」



それほど大きな声ではなかったが、男の耳にはしっかりと届いたらしくピタリと拳が止まる。

喧騒はなりを潜め。

この場で意識のある者全員が、俺に視線を向けた。



「何だ?テメエも止めんのか?」



ギラつく目で、トウワが言った。

(完全にキレてやがる……)

ボコられてる男は、一体何を言ったんだ。

と思いつつも、だいたいの予想はついていた。

――大方、あの女の悪口でも言ったんだろう。




トウワが一人の女に入れ込んでる。

それは、俺らの間では有名な話だ。

それを気に入らない奴は多い。

おそらく今トウワにボコボコにされてる男も、その一人。

確か、トウワを崇拝の域で慕っていた奴だった記憶が、(おぼろ)げにある。




今度は本当に溜め息を吐いて、トウワに言葉をかけた。



「――これ以上やると、大学退学になんぞ?」

「っち」



そんな俺の言葉に、トウワは舌打ちして。

胸ぐらを掴んでいたぼろ雑巾よりボロボロな男を、ポイッと床に投げ捨てた。

そして。

不機嫌そうな表情を隠しもせずに、俺の横を通って店を出て行った。




“大学退学”。

それが、今のトウワを止められる唯一のキーワードだ。

この言葉を言えば、トウワは不機嫌を全面に出しながらも俺の言い分を聞き入れる。

何でそこまで(こだわ)るのか。

トウワが大学に固執(こしつ)する理由を――多分、俺は知っている。

それは。

親が怖いから、とか。

世間体が、とか。

そんな理由からじゃない。

そんなの、トウワの中じゃ何の意味もない。

そもそも、あの大学に通うのを選んだのも“住んでるマンションに近かったから”ってだけの理由だ。

講義もくだらなそうに聞いてるだけ。

なのに、退学をチラつかせるだけでトウワが踏みとどまるのは。

あの大学に――“あの女”がいるからだ。

“あの女”――“松本奈夕”に、トウワが異常なくらい固執してるからだ。




今は春休みに入ったから違うが。

この間まで、トウワは毎日大学に来てた。

今、トウワはあの女から逃げられている。

同じ大学に通っているというのに、この一か月強は顔を見ることさえ、出来ていないだろう。

それでも。

顔が見れるわけでも、話せるわけでもないのに。

トウワは大学がある日は、毎日、登校してた。

遅刻や無断欠席の常習犯だった、トウワが。

講義自体は、相変わらずサボってばかりだったが。

大学構内にいるだけでも、今まででは殆どなかったことだ。

そんな風にトウワに影響を与えられる奴なんか、一人しかいない。

悔しくても。

ムカついても。

認めたくなんてなくても。

それが事実だ。

トウワは。

会えなくても。

話せなくても。

“あの女”がいる空間に。

“あの女”と同じ空間に。

居たい、と望んでるんだと。

認めるしか、なかった。




何であの女なんだ、という思いはある。

そんなにも好きなのか、という思いもある。

会えなくても。

話せなくても。

少しでも近くにいたいと。

そう思うほどに好きだったのか、という思いもある。

他にもっと良い女はいるだろう、と。

言ってしまいたくなる思いも、ある。

でも。

別れを切り出され、あの女に会えなくなったトウワは。

泣きたくなるくらい、ボロボロで。

むき出しの感情のまま、抑えきれない激情のままに荒れ狂ってて。

あの女じゃないと。

“松本奈夕”じゃないと。



――駄目なんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ