会いたい(透和視点)
ネタバレが嫌いな方は、奈夕サイドの本編が終了した後に透和サイド(透和視点、とある友人視点)を読むことをお勧めします。
ガンッ。
苛立ちのままに、目に付いた看板を蹴り飛ばした。
派手な音を立てて転がる看板に、さらに苛立ちが増した。
あの、校舎裏で奈夕に逃げられた、あの日から。
奈夕のマンションに行っても。
文系学部の校舎に行っても。
大学のカフェテリアの行っても。
どこへ行っても。
奈夕と会うことは出来なくて。
もう一か月以上、奈夕に会えてない。
――避けられている。
最初は、一方的に避ける奈夕に怒りが湧いた。
――逃がすものか。
そう思った。
でも。
大学を辞めたわけじゃないのは、分かってる。
大学構内で奈夕を見かけた、と知り合いが言ってたから。
なのに。
会えない。
――気が変になりそうだ。
何でもいい。
どうでもいい。
とにかくムシャクシャして仕方なくて。
手当たりしだいに喧嘩を買った。
物に当たり散らした。
苛立ちのまま歩いていると、ついさっきの店での会話が、脳裏に蘇る。
――「今……なんつった?」
――「え?トウワ、さん?」
――「なんつったって聞いてんだよ!ああ?」
――「っ、あ……あの女が、トウワさんと別れてくれて、良かっ」
――「ざけんじゃねぇ!」
――「がァ……っ!?」
気付けば、殴り飛ばしていた。
そこからの記憶は、途切れてる。
周りがやたらと騒がしかった気もするけど。
正直、覚えてない。
ただ、目の前が真っ赤になって。
ひたすら暴れまくってた気がする。
意識がはっきりした時には、店の中がめちゃくちゃになって。
ふざけたことを抜かした男をボコボコにしてた。
カズが止めに入らなかったら、今もまだ殴り続けてたかもしれない。
「ははっ」
思い出して、笑いが漏れた。
自分の思いが常軌を逸してるのは、気付いてる。
この間、俺の喧嘩を見てたギャラリーの一人が顔を真っ青にして「狂ってる」と呟いてた。
きっと、俺の行動は周りから見れば“狂ってる”んだろう。
思えば、最後に見た奈夕の顔は真っ青だった。
大切にしてる、つもりだった。
誰よりも何よりも大切に。
でも。
“狂ってる”俺では、きっと大切になんて、出来てなかったんだ。
だから奈夕はあんなに真っ青な顔をして。
今でもずっと、俺から逃げ続けてる。
「はっ」
何だか無性に可笑しかった。
最初は、近くにいられるだけで良かった。
それだけで、満たされてた。
だけど。
会う回数を重ねるごとに、次第にそれだけでは我慢できなくなった。
奈夕にも俺が奈夕を好きなのと同じくらい、俺のことを好きになって貰いたかった。
好きになって貰いたいと、思ってしまった。
これは、高望みしすぎた報いなんだろうか。
奈夕の笑顔が好きだ。
その笑顔を護りたいと思ってた。
なのに。
「……くくっ」
笑える。
そう思ってた俺自身が奈夕から笑顔を奪った、なんて。
どんな笑い話だ。
でも。
俺には奈夕を傷付けることしか、出来ないのだとしても。
俺は奈夕を諦めきれない。
自分でも、こんな俺なんかに好かれてしまった奈夕を可哀想だと思うけど。
それでも。
――なぁ、奈夕?
(会いてぇよ……)




