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シリウスと死霊の密約

「――寝ましたかね」


 寝息を立てていることを確認して、そっと腕枕を解いた。物音を立てないようにそっと離れ、ぐっと背伸びをする。さっきはなかなかに危なかった。彼女が助けてくれなかったらどうなっていたか。


 妻の寝顔を眺めると、すやすやと安らかに眠っている。落ち着かせるように仕向けたのは自分だが、本当に寝るとは思わなかった。わが妻ながら肝がすわっている。

 腕に残るぬくもりが名残惜しくて、頭を撫でた。ううんと寝言とともにまつ毛が震えた。


 離れるのが忍びないが、そうも言ってはいられないだろう。


「コントリオン、ここに」


 呼びかけると、影から染み出すようにコントリオンが現れた。足元にすわり、後ろ足でカリカリと首をかく様は猫そのものだ。

 初めて会った時は、形を失いかけていたが、すっかり猫の姿を取り戻している。私が彼を猫だと認識することで存在が強化されたのだろう。死霊の存在は、認識によって強化されるというのが私の仮説だ。


 そして先ほどの彼も、はっきりと人の形を残していた。彼は死霊の中でも特異な存在に違いない。彼を逃すわけにはいかない。


「彼にもう一度会います。コントリオン、彼の探索、お願いできますか」

 コントリオンは大きく伸びをすると、とことこと部屋を出ていった。


     ◆◆◆




「お前、何しに来たんだ。さっきの仕返しに来たのか?」

「いえいえ。君と話す事があったので、探していただけですよ」


 はたして、一階のエントランスに彼はいた。

 意外とすぐに見つかったものだと拍子抜けた。隠れているか、それとももう屋敷の外に逃げてしまったかと思っていたが。


「変な奴……、いっとくけど、謝らねぇからな」

 黒い輪郭だけの存在だとしても、拗ねた子供であることが見て取れる。


「かまいませんよ。私もあなたに気を許すつもりはありませんから。――それから、私はシリウス・プリンシパル。正式にこの館の主人になったものです」


 ――はぁそうかよ、と黒い子供は嫌そうにつぶやいた。


「今ってさ、テレンスが領主だった時からどれくらいたったんだ」


「テレンス・プリンシパルは6代前の領主、ざっと100年くらい前ですね。この度は、すいませんね。見苦しいところを見せました。こちらも新婚でして、多少大目に見てもらえると助かります」


 私の予想が確かならば、悪いのはこちらだ。彼はこの館を守っていただけなのだから。


「――あの部屋はよ、テレンスのお気に入りなんだ。だからついかっとなった。いきなり凍えさせたのは悪かったよ」


 彼も殊勝しゅしょうに謝った。表情は影に覆われてわからなかったが、どうやらもう敵意はない。


 プリンシパル領には死霊の伝説がいくつか残っている。

 その中でとくに有名なものが、『領主と死霊の少年』の話だった。


 昔々、領主の館の前に、少年が一人行き倒れていた。優しい領主はその少年を保護し育てた。回復した少年は、そのまま領主につかえた。しかし、その時代、領土一帯でたちの悪い伝染病が流行った。領主のもとで働いていた少年は、哀れにも伝染病に倒れ、三日三晩苦しんで死んでしまったという。


 続いて領主も熱病に倒れたが、そこに死んでしまった少年が死霊の姿となって表れ、熱病に聞く薬草の場所を領主に教えて消えてしまったというのだ。


「まさか昔話の少年霊と会うことができるとは思いませんでした。あなた、しばらくどこに居たのですか? 人前に現れるのは数十年ぶりなのではないですか?」


「へん、なんでお前にそんななこと言わなきゃいけねーんだよ。お前らが悪いんだろう。テレンス様の館を壊れたままほっとくから。盗賊が入り込んだらどうすんだよ」


「……それはすいません。あなたは、代わりに館を守ってくれていたという事ですか」


 テレンス様と約束したんだからな、ここを守るって――とつぶやくように言って彼は、すいっと宙を飛んだ。


「じゃあせいぜいがんばれよ。おいらはもう用済みだから、元いたところに戻るぜ」

「君は普段はどこか別のところにいるのですか? 私たちはこの館を継承しました。君はテレンスのゆかりの者のようだし、ここに居たらいいじゃありませんか」


「――死霊は人間と一緒に居られない。おいらは知ってる」


 そういっていずこかへ飛び去ろうとする。

 一緒には居られない。それはわかります。ですが、


「コントリオン! 捕まえてください」


 呼びかけに答えて私の足元から、無数の腕が伸びた。変幻自在の死霊は、形にとらわれない。そして、死霊に触れるのも、死霊だ。


「何しやがる!?」


 突然の暴挙に、ダンテは抵抗するが、コントリオンの腕からは逃れられない。黒い網にがんじがらめにされたダンテは、身動きが取れなくなったようだ。

 コントリオンは最近、私の片腕として、特に腕を上げているのだ。


「お前も死霊を使うのかよ!? 最近のやつは、どうなってるんだ!」

「――無力な人間と思って油断しましたか? 今代のプリンシパル伯はそう甘くありませんよ。一度は私に手を出したのです。そのままハイさようならとはいかないでしょう?」


 我ながら悪役じみた発言だ。教会の監査官などやっていると、このような振る舞いばかりが得意になる。


「なに、悪いようにはしません。君にはちょっとお願いしたいことがあるんです。死霊である君にしかできないことです。拒否権はありませんよ」


 ダンテはすっかり怯えている様子で、小さくまとまってしまっている。

 彼にはちょっとした密約を交わしてもらいましょう。


 すべては愛する妻のため。君にも一肌脱いでもらおうと思うのです。


読んでくださりありがとうございます!

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楽しいお話を書いていくつもりですので、今後ともよろしくお願いいたします。

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