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最終話「普通の恋愛」

3ヶ月後の宮廷舞踏会。




煌びやかなパーティー会場に、私は水色のドレスに身を包み、顔を青くした状態で突っ立っていた。




ーーー



3ヶ月前…



「悪いけど、僕は伴侶候補を辞退させてもらうよ。第一候補はエリオットに交代してもらうといい。」


そう言い残して、フィリスは部屋に戻ってしまった…


バタン…


「…え、あ…っ!」



…確かに…王命とはいえ、あんな超絶美男子の王子様に対して一方的に大勢の前で伴侶にする宣言をするなんて、セクハラが過ぎたのかもしれない…


せめて事前にお伺いを立てるとかすればよかった…


あんな自信満々に貴族達の前で伴侶をフィリスに選んだのに、まさかその相手に振られるなんて…っ!



自分勝手に思い上がってたあの時の自分を殴り倒したいし、穴があれば今からでも入りたい気持ちでいっぱいだ…!!



ああ…もう恥ずかしくて死にたい…っ!!




ーーー



あれから自分の非礼を詫びようと、フィリスの部屋に押しかけるも、笑顔でのらりくらりと交わされて部屋を追い出されるの繰り返しで、今日に至った…



私は決死の覚悟で、戦争前にフィリスに作ってもらった水色のドレスを着て舞踏会に臨んだ。


ペアルックなんて恥ずかしいし、フィリスに拒絶されてる状態で一方的にペアルックにするなんて、またフィリスに嫌な思いをさせちゃうかもしれないけど、今日はとことんフィリスと話し合うという意気込みを込めて着ることにしたのだ!



セレモニー中に、隣にいたフィリスが珍しく自分から話しかけてきた。


「…どうしたの、そのドレス?」


「へっ!?ど、どうしたって…!?」


「し、声が大きいよ」


「うぷっ」

フィリスはほとんど口も動かさずに笑顔で正面を見ながら喋りかける。


…さすがだ…



「…もしかして、エリオットのカラーと間違えちゃった?エリオットのカラーは青だよ?」


「…知ってる。知っててこれ着てきたの…」


「そうなんだ…なんか、ヤケになってない…?」


「…全然なってない…」


私が青い顔で答える様子を横目で見ると、肩を落として小さくため息を吐いた。



「…伴侶候補の変更をまだ行ってないみたいだね…?」


「この舞踏会の前に変更しておけば、いろいろと都合がよかっただろうに…」


「…わ、私の気持ちは…変わってないから…っ」

私が必死の形相でそう伝えると、


フィリスは「ふぅん…」とだけ言って、含みのある笑みを浮かべた。


「じゃあ、第三候補者としてよろしくね」

そう言って、変わらずに正面を見たまま薄く口の端を上げた。



「〜〜っ」




ーーー



そうこうしているうちに、セレモニーが終わり、国王と王妃のファーストダンスが始まった。



その後の私のファーストダンスのお相手は…



「おい、なんだ、そのダサいドレスは?」


「!!」


もちろん、リードベルだ。


もちろん選んだのは私ではなく、上からの指示だ。


リードベルを伴侶の第二候補にするとかなんとか言いながら、結局上層部の方々は、私とリードベルをくっつけようとしているのか…



「お前にはやっぱり赤が似合うんじゃないか?」

そう言いながら抱き寄せるように身体を密着させて上から覗き込む。


「あんたとペアルックなんかごめんだから!」


「前は自分からペアルックにしてきたくせに、つれねーなぁ?」

そう言って意地悪く笑う。


「あ、あれは、不慮の事故で、私がしたくてやったんじゃ…っ!」


「はいはい」

せせら笑いを浮かべたリードベルが、音楽と共に力強く私をリードする。



「フィリスを第一候補にって言ってたみたいだが、まーたお前らゴタゴタしてんだろ?」


「う…!ほ、ほっといてよねっ!!」


「放っておけねーよ」


「!?」


黒髪の間から見える金色の瞳が急に真面目な雰囲気でこちらを見つめる。


「まだ間に合うから、俺を第一候補に選べ」


「な!何言ってるのよ!!」

リードベルの言葉に動揺して顔が赤くなる。



「言っただろ?お前が好きなのは俺なんだって」


「う、うるさい!騙されないわよ!」


「騙されとけよ」

そう言って舌をべっと出したかと思うと、次の瞬間胸の中に押し込まれ、踊りながらぎゅっと抱きしめられる。


「……っ!!」


顔を真っ赤にしながらも悔しくて睨み付ける。


「はっ照れんなよ、可愛いヤツだな」


そんな私を豪快に笑い飛ばしながら、逞しい腕で頭をくしゃくしゃに撫でた。


今日は時間かけてセットしてるんだから、本当やめてーー!!!


私は心の中で叫んだ…




ーーー




リードベルとの騒がしいダンスが終わり、次はフィリスとのダンスが待っていた。



…が、どこを探してもフィリスがいない…!



…まさか、バックレた…!?



そうこうしている間に次の曲が始まりそうである。


ど、どうしよう…っ!?


内心、私が慌てていると、後ろから私の手を取る相手がいて、おもわず振り返った。



…そこにいたのはエリオットだった…



「!!」


「エリオット様…っ!!」


「フィリスがいないなら、先に俺と踊ろう…?」



「……っ!!」

断る理由なんてなかった…




ーーー




舞踏会場で、エリオットはひときわ人の目を引いていた。


エリオットがこのような華やかな場に姿を現すのはまだ数えるほどしかない。

密かにエリオットに恋慕う女性達が羨望の眼差しでこちらを見つめている…


今日のエリオットは、短めの前髪をオールバックにして、形の良い額が露わになっている。

白いワイシャツの上に目の醒めるような鮮やかな青いベストと上着を羽織り、金色の装飾が美しく映え、そのすべてが美しいエリオットの容姿をより一層引き立てている。



はあぁあぁ!!!



今日も最高にカッコいいー!!

さすがエリオット様ーー!!!

その髪型なにそれ!カッコ良すぎるんですが!!!


尊い!幸せ!生きててよかった〜!!!



そのまま昇天しそうな勢いで踊り始める。


胸いっぱい頭いっぱいの半ば夢心地で踊っていると、不意にエリオットが話しかけてきた。



「…俺、お前と出会えてよかった…」



「…!?」



「…お前と出会うまでは、俺あんまり人間が好きじゃなかった…」


「人間は、みんな嘘つきで、いつか絶対裏切る生き物だって、勝手に決めつけて生きてきた…」


その赤い瞳には、暗い影が落ちていた…

エリオットの過去に、そう思わざるを得ないような過去があったのだろうか…


私はエリオットの次の言葉を静かに待った。


「…でも、貴族の中でも、お前みたいに真っ直ぐで正直な奴もいるんだって分かった。」



「…お前はいつも俺に本音をぶつけてくれてた…」


「それが、俺は嬉しかった…」


…本音……?


…はて、それはいつのことだろうか…?



身に覚えは……




“はっ…どうせ私が悪者だって言っていたんでしょう…?”


“あなたもマイラの言うこと信じるんですね。所詮男なんて可愛い女の言いなりなんですね。”



「!!!!」

まさかあれ…!?

いやいや、もう一つあったぞ…!!



“…エリオット様は結局マイラの味方なんですね…”


“結局みんなマイラの話だったら聞くんですよ!私も吊り目じゃなくて可愛くて優しい顔してたら、みんな私の話を聞くんでしょ!?きっとそうなんでしょうね…!”



「………っ!!!」


うわぁあぁあぁ!!


劣等感とマイラへの嫉妬全開の黒歴史っ!!

よりによってそんなところを覚えてるなんてぇーーっ!!

穴があったら入りたいよーー!!


「ああああの時は、大変失礼致し…」


「それから…あの日、泣かせてごめん…」


「…へ、あの日…?」



「ルルを大雨の中探しに行ったお前に、酷いことを言った…」


エリオットが苦しげに顔を歪めて言った…


「………」



“…大事じゃない命なんてあるわけないじゃないですか…なんでそんなこと言うんですか…”



そんなことも覚えててくれてたんだ…



「いえいえ、あれは自分が悪かったので、気にしないでください!」



「私こそ…エリオット様にたくさんのご無礼を働いてしまい、すみませんでした…」


「その…お風呂も覗いてしまったし…しかも二度も…」


「あの時は…ルルをお風呂に入れるのかと勘違いしてしまって…」

「…本当にすみませんでした…」


あの時のことを思い出して、おもわず顔を赤くして俯く…


エリオットはそんなシスティーナをクスリと笑い、

「…次は一緒にルルを入れようか」

と声をかけてくれた。



「……っ!!」


「はいっ!!是非っ!!!」


勢いよく頷いてしまったが、ちょっと変態っぽかっただろうか…!?


でも、仮に社交辞令だとしても、エリオット様にこんな風に誘われるなんて嬉しい…っ!!


初めての(!?)共同作業じゃない…!?



私は興奮し過ぎて酸欠になりながら、なんとかダンスを踊りきった…



エリオットは、そんなフラフラの私の手を引きながら、そっと顔を近づけ

「フィリスはきっと中庭だよ」

と耳打ちした。



「!!」


私が顔を見上げると、柔らかな表情で目を細めて見せた。

「行っておいで」


「フィリスが泣かせたら、いつでも俺が慰めるから…」

そう言って、優しく髪を撫でてくれた。


「…あ……っ」


「ありがとうございます…っ」


私は顔を赤くしながら、またいつものように大きく頭を下げてお礼を言った。


エリオットの頷きを確認すると、ドレスの裾を掴んで、足早に中庭へと走り出した。



その様子をエリオットは少し寂しげな表情で見送った。




ーーー




「はあ…はあ…」




中庭を駆け抜け、渡り廊下を通り抜けて、そのまた先にあるガゼボまで辿り着いた。



そこにはやはり、ガゼボのベンチに背を向けて、もたれかかっているフィリスがいた。


「……」


フィリスは人の気配に気付いて、少しだけこちらに顔を向けた。


「……やあ、君も来たの…?」


フィリスは少しだけ口の端を上げて微笑んだ。

月夜の光がフィリスの白い肌を美しく照らし、右腕を背もたれの上に優雅に乗せているその姿は、まるで女神のように美しく、おもわず息を呑んだ。



「……来たのじゃないでしょ、一緒に踊る予定だったのに、いないから心配しちゃったよ…!」


私はドギマギする気持ちを押し隠して、不満そうに口を尖らせて抗議した。



フィリスは私とは目を合わせずに、微笑みながら「ごめんね」と答えた。



「……っ!」


私はズンズン近付いて行って、フィリスの隣にドカッと座って横を向いているフィリスの顔を正面から見た。


「お願い、はぐらかさないで…!」



「…なんのこと…?」


フィリスは笑うが、その目は合わない。

私は悲しくなって涙が滲んだ。



「…私のこと、嫌いになったの…?」



「……どうして、そう思うの…?」

フィリスは、相変わらず表情の読めない顔で尋ねる。


「…だってフィリスが冷たいから…」

「私がフィリスに呆れられるようなことばっかりしてるから、嫌になっちゃったんでしょ…?」



…以前フィリスに、私が手に入れたと思ったら手をすり抜けていくようだと言われたことがあるが、それはフィリスの方だと思った…


「………」


フィリスは目を伏せたまま何も言わない。


夜の闇に沈黙が響き渡った…


「……っ」


その間に耐えられず、何か言葉を発そうとした瞬間、フィリスが徐に口を開いた。



「…僕は、君のことを嫌いになったことなんて、一度もないよ…」

そう言って、こちらを見て優しく微笑んだ。


久しぶりに間近で目が合い、その端正な顔立ちにドキリとする。


「……じゃ…」


「…じゃあ、どうして伴侶候補になってくれないの…?」


「言ったでしょ、君は僕じゃない別の誰かを好きなんだって…」


「そんなこと…っ!」



「…君はこの世界に来て、初めて恋愛を経験したんでしょ…?」


「……っ!」


「僕の甘い言葉に騙されて、うっかり自分も僕を好きだと錯覚してしまっただけだよ…」


フィリスが肩をすくめて笑う。



「……っ」


そんなことないのに…


フィリスに信じてもらえなくて、悲しくなる…


「…この舞踏会が終わったら、伴侶候補を変更してもらうんだよ…」


俯く私の頭を優しく撫でながら、フィリスは悲しげに笑い、立ち上がった。


そして、私を残して舞踏会場へと歩き出した。


「………」



気付けば、最近ずっとこんな苦しげなフィリスの顔ばかり見てきた気がする…


フィリスは上手く隠してたつもりだろうけど、思えばいろいろな場面で違和感を感じていた…


唇へのキスを避けるようになったのは、いつからだったか…?


「愛してる」と言わなくなったのはいつから…?


一緒に寝ようと誘わなくなったのは…?



フィリスはずっと何かを確信していて、その思いを心に秘めてきたのだ…


フィリスは私を嫌いになったことはないと言った。


だとしたら、どんな気持ちでいつも私の隣にいたのだろうか…?


街歩きの時も…


命懸けで敵兵から助けてくれた時も…



そんなフィリスの気持ちを思うと、胸が痛んだ…



「……っ」


「ま、待って…っ!」


私は弾かれたように立ち上がり、フィリスを追いかけた。


黙って振り返るフィリスの上着を両手で掴んで声を張り上げた。


「わたし…フィリスのことが…、す……す……っ」


言いたいのに、言わなきゃいけないのに、心臓の音に邪魔されて、言葉が上手く出てこない…


その様子を黙って見下ろしていたフィリスが、表情のない顔で言う。

「…無理しないで…同情で言われても迷惑だから…」


フィリスの言葉に心が折れそうになるが、尚も身体をこわばらせて、言葉を一生懸命絞り出す…



「す……き……っ」




フィリスはそれを聞いて黙って俯く。



「……ありがとう…君の気持ち、受け取っておくね…」


そう言って再び歩き出そうとするので、今度はフィリスの身体にぎゅっと抱きついて、必死に声を上げた。


「嘘じゃないの!本当なの…っ!私は…フィリスが好きなの…っ!!フィリスが好き……他の誰よりも…!!」


今度は、はっきりと伝えることができた。

フィリスの動きが止まる。

私は必死に言葉を続ける。


「その…あなたを…えっと…あの…あ……あい……っ!」


「……愛してる…!…世界で一番…っ!!」


「…だから、どこにも行かないで…っ!お願い…っ!!」


私は恥ずかしさも相まって、フィリスの胸に顔を埋めた…



再び長い沈黙が訪れた…


「………」


私が沈黙に耐えきれず、顔を上げようとした瞬間に、ぎゅっと抱きしめ返された…


そして、上からクスクスと言ういつもの笑い声が聞こえてきた。


人がせっかく勇気を出して一世一代の告白をしたというのにと、抗議の言葉を口にしようと顔を上げると、不意にフィリスの唇で塞がれた。


「……っ!」

そして私の耳元で低い声で言った。


「ごめん…」


「……っ!?」



…えっ!?


「…また私、振られたってこと…っ!?」


おもわず狼狽える。



「…違うよ…」


「???」


「じゃあ、どういう意味…!?」

私は訳が分からなくてフィリスを見上げた。



「君の気持ちを試しちゃってごめんね…」



「……え……?」



「…どうしても、君からその言葉を聞きたくて…」



「……へ……!?」


「わた…わたしの気持ち、知ってたの…!?」



「途中からね…」

そう言って笑う。


「そんな…っ!!」


慌てる私を、またぎゅっと腕の中に抱きしめる。



「ねぇ、さっきの言葉、もう一度言ってくれる…?」


「!!」

フィリスのいつになく低くて優しい声で我に返って、一気に耳まで赤くなる。



「…そんな、舞踏会サボって人を騙すような人には言いませんっ!!」


「だって、大事なことでしょ?」


「…!?」


「一生を添い遂げる相手には、ちゃんと自分の本当の気持ちを伝えて欲しいじゃない?僕にとっては舞踏会なんかよりもずっと大事なことだったんだけど…」



一生を…



その言葉を聞いて、フィリスを見上げた。


月明かりに照らされたフィリスの青い瞳が優しくこちらを見ている。


「…愛してるよ、システィーナ」


「…いや、ひなって言った方がいいかな…?」


そう言いながら、ゆっくりと首筋に触れ、首にはめたチョーカーの宝石を指で掬い上げた。


「…君は僕にとって、この世界でどんな女性よりも尊く、代わりのいない大切な存在だ…」


「どうか僕の人生の伴侶になってくれる…?」



目の前の女神様が神々しさを放ちながら、こちらを微笑んで見ている。



「………へ!!?……へ!?」



まさかまさかの急展開に脳がついていかない…



「…もう、僕がいくら気持ちを伝えても何も返してくれないんだもん…てっきりリードベルが好きなのかと、ずっと勘違いしてたよ…」


フィリスが軽やかに微笑む。


「そんな…だって…そんなこと簡単に言えるわけないじゃない…っ!」


「エリオットに対しては、いつも好き好き言ってるじゃない。」


「言ってるけどもっ!!」


「じゃあなんで僕には言えないわけ…?」


「…それは…っ!」


「…分かんないけど…フィリスに気持ちを伝えようとすると、胸が苦しくなって、言葉が出てこなく…なるの…」


正直、それを言うこと自体、とても恥ずかしくてすごく勇気がいった…



「…そっか…」


その答えに満足したらしいフィリスは、もう一度だけ私をぎゅっと抱きしめると、それ以上何も言わずに私の手を握り、エスコートするように舞踏会場へと歩き出した。




ーーー



舞踏会場へ戻ると、間の悪いことに、私の悪口を言っている集団に出くわしてしまった。



「まったく女ってのは、いい家柄に生まれさえすれば、何の努力もせずとも王妃に選ばれるんだから、いいよな〜!」


中心にいる貴族子息が得意げに話し、周りにいる何人かの貴族達も同じように笑っている。



あ〜

なんか、ものすごーく悪いタイミングで来ちゃったみたい…


私が転移する前のシスティーナは、相当なお人柄だったようだから、このように言われるのも無理はないのだが…



隣にいるフィリスをチラッと見上げると、先程とは違う深い笑みを浮かべている。

そして私の手を引いたまま、迷わずその輪の中に真っ直ぐ歩いていく。


え、このまま参加する気!?

やめてぇ〜〜〜っ!!



「…これはこれは、南東領の侯爵子息様ではないですか…」


フィリスの華やかな声に、皆一様に肩をビクつかせて凍りつく。


うぅ…

こんな輪の中に入っていくなんて…

すごい…フィリスのメンタル…


おもわずこの場から逃げたくなるが、私の左手はしっかりとフィリスの右手に握られている…



「システィーナが将来の王妃候補だったのは、彼女が生まれる前から決まっていたことだよ。彼女は“いい家柄”に生まれたばかりに、幼い頃から血の滲むような努力を周りに強いられてきたわけだけど、それはもちろん知った上での発言なのかな…?」

「もし知らないでそんな幼稚な話を人前で得意げに喋っているのだとしたら、周りに自分がいかに無知かで短絡的な知能の持ち主か曝け出してしまうことになるよ…」

フィリスが、それはそれは素敵な笑顔でのたまう。



「…くっ…」

侯爵子息様が悔しそうに顔を歪ませる…


「…君は確か、マイラ嬢に熱を上げていた青年だね…マイラ嬢に唆されでもしたのかな…?」


「…そんな…マイラは関係ない…っ!!」


マイラの名前を聞いた途端に、声を荒げて反論する。

なんてあからさまな反応だ…

コイツこそ貴族教育をちゃんと受けてこなかったのか…


…なんて、そんなことを人に言えるわけもなく…



「あら、ごめんなさい〜!」


その時、人混みの奥から軽やかな声が聞こえてきた。

今日もパステルカラーの可愛らしいドレスに身を包んだ…かと思いきや、緑と黒の奇抜なデザインのドレスに身を包んだマイラが登場した。


「ま、マイラ…っ!」


マイラの姿を見ると、その男が救いを求めるように近付いた。


「リアン様…」

マイラが薄く微笑むと、その男は顔を赤らめた。

どうやら、リアンと呼ばれたこの青年は、マイラに首ったけのようだ…


「マイラ…ちょうどよかった、いまこの女の……」


「リアン様、実は私、システィーナ様とお友達になりましたの。」

「なので、今までお話したことは、すべて忘れてくださる…?」


リアンの言葉を遮りながら、ニッコリ笑顔で衝撃発言をするマイラ。



さすが、フィリスと同じくらいの強メンタルの持ち主だ…



私は周りの貴族達と同じように顔を青くした…

リアンも立場を失って狼狽える…

他人事ながら、彼に同情してしまう…


「…そんな…マイラ…!この女に脅されてるんだな…そうだろ…!?」

「この前の審議会で、この女が次代の王妃に選ばれたから、肩身の狭い思いをしてるんだろ…!?」

「何せこいつは、人を人とも思わない高圧的で高飛車な最悪の女だからな…っ!」


「………」


…このリアンという男…

マイラに手のひらを返されて、余程取り乱しているのだろう…


…でも、いくら冷静でないとはいえ、仮にも次代の王妃に対して“この女”だの“こいつ”だの呼ばわりするのは、流石によろしくない…


隣で微笑んでいるフィリスの笑みが益々深くなっていくのが怖い…



「私の過去の言動で、あなたを不愉快にさせたのでしたら、今ここでお詫び致します。」


私は凛と背筋を伸ばし、淀みない声色で、丁寧に詫びた。


「…っ!!」

リアンも私の予想外の反応に驚いている。


「幼少期より、遊ぶ暇も両親に甘える暇もなく、王妃になるための教育を徹底的に施されてきました…」

「私はその寂しさや鬱憤の晴らし方が分からずに、社交界であのような傲慢な態度をとってしまいました。」

「…今では、愚かな行為だったと自覚しています…」



「う、嘘だ…っ!!」

「王妃の椅子が近づいて来たから、俺達を欺こうとしてるんだ…っ!」


「嘘じゃない…」


「!!」


私のしおらしい態度に動揺し、顔を真っ赤にして尚も異を唱えようとするリアンの背後から、2人が姿を現した。


リードベルとエリオットだ。


フィリスも含めて、他の貴族子息達よりも頭一つ分くらい身長の高い彼らは、リアン達と並ぶとそのハイスペック具合が尚更際立つ…



「俺も最初はお前と同じ意見だった。だが、彼女と接するうちに考えが変わった。」


「彼女はもはや、以前の彼女ではない…」

リードベルがフォローしてくれた。


…うん…

…魂的な意味でね☆


確かにリードベルなんて、初っ端から私の首絞めてきたし、私のことスパイだと思って殺そうとしてたし、それに比べたら、このリアンくんの悪口なんて全然可愛い方だよね…?



「く…っ!そうやって、男を手玉に取ってきたんだな…っ!?」


「マイラに振られたのがそんなにショックなの…?」

エリオットが冷静に尋ねる。


「ふ、振られてなんかいない…!!」



「…ごめんなさい、リアン様、私空気が読めない方って、苦手なの…♡」


「く、くうき…っ!?」


笑顔でバッサリと切り捨てるマイラ先輩…

さすがです…


…でもさすがにちょっと可哀想…


そこにトドメのフィリス。


「…大体さっきから未来の王妃様に向かって、“あの女”だの“こいつ”だのって、不敬が過ぎるよね…?自分の立場弁えてる…?」


わーーっ!!

フィリスが火に油を注ぐようなことを言い始めたーっ!!


「フィリス!?私は大丈夫だから…っ!」


「君は良くても、僕は許せないよ…」

フィリスの青い瞳が色味を増して光った。


「…君は一侯爵家の立場で、公の場で公爵家の令嬢を軽んじた。君は良くても、君の領主である父君やご家族にまで影響が及ぶとは考えなかったの…?」


そこまで言われて、ようやくリアンもさっと顔色を青くした。



…うん、それくらい、少し前に公爵令嬢になったばかりの私でも分かったよ…

…余程気持ちが動揺していたんだね…



その場に膝をついてしまったリアンを見たら可哀想になり、おもわず彼の隣にしゃがみ込んで、そっと背中に手を当てた。


「…あなたは、マイラ様のことが好きで、マイラ様を守るために必死だったのですよね…?」


…誰かのために心を取り乱したり、一喜一憂したりする気持ちが、今なら少し分かる…


私はリアンに優しく微笑みかけた。


「…システィーナ…様…」


リアンは間近で私を見上げると、赤い顔を更に赤くして、涙目で私を見つめた。


…当初は、こんな平々凡々な見た目(失礼)の普通の身分(失礼)の男性と普通の恋愛をすることに憧れてたんだよな〜


ふと、この世界に来たばかりの頃のことを思い出し、微笑んだ。


…でも…



「おい、許可なくこいつを名前で呼ぶな!ブルーナー公爵令嬢だろ!」


「…距離近すぎ…」


「…これ以上、侯爵家に罪を着せるつもり…?」


私が感傷に浸っている間も3人の王子達に取り囲まれ、追い込まれ、踏みつけられたりしているリアン。


こういう時の息はぴったりだ…




…この世界に来たばかりの時の私は、マイラにいじめられて、3人の王子とも上手くいかなくて、辛くて泣いたりしていたけど…


…今は本当に、この世界でみんなと出会えてよかったと思う…



ーーー




「…みんな、ありがとう…」


ポーッとなったリアンを男性陣に片付けてもらった後、王族専用の控室で、私はみんなに感謝の言葉を伝えた。



みんなきょとんとした顔の後、一様に柔らかい表情を浮かべて笑い返してくれた。



「今日のことは、貸しにしといてあげるわね♪」


「いや、むしろこっちの貸しじゃない!?」


「お礼はキス一回な」


「なっ!?何言ってるの!?馬鹿じゃないの…っ!?」


「…じゃあ、俺もそれ…」


「えっ!?エリオット様も…っ!?/////」


「ちょっと、僕の未来の奥さんを誘惑しないでくれる…?」


「まだ正式に決まったわけじゃ、ねーだろ?」


「………」(ニッコリ)


「ちょ、ちょっと…!?ケンカはやめてよね…!?」


「じゃあ、システィーナ本人に聞いてみようか?」ガシッ!


「へっ!?」


「君は誰が好きなのかみんなの前で言ってごらん」


「!!!!」


「俺だよな?」


「違う!」


「俺だって」 


「違うっての!」


「リードベル、そんなにしつこく迫る男は嫌われるよ…?」


「じゃあ、いつもなよなよヘラヘラしてりゃいいのか?」


「………」(ニッコリ)


「だから、ケンカはやめてってば〜〜っ!!」




……



………



…………




「はあ、ようやく逃げてこられた…」



そのまま控室で二次会が始まり、完全に収拾がつかなくなった頃、一人ベランダに出て夜風にあたった。

少し汗ばんだ肌に夜風が心地よかった。


「システィーナ様」


不意に後ろからマーカスに声をかけられた。


「本日もお役目お疲れ様でした」


「マーカス…」


「…今日までよく、頑張って来られましたね…」

いつも表情の読めない目を細めて言う。


「…あなたのおかげで、この世界のループは完全に解かれました…」


「私もこれでようやく…生を全うできます…」


「………」


…マーカスは、一体どのくらいの時間、こちらの世界とあちらの世界を彷徨っていたのだろう…


…死の訪れない世界に憧れる人もいるけど、彼にとってはそんなにいいものではなかったようだ…


「…やはりあなたをこの世界に連れてきてよかった…」

マーカスは、いつか見たようなとても穏やかな笑みを浮かべた。


「ありがとうございます…あ…」

不意に彼は私を抱きしめた。


「…本当に…」


「………」

彼のひんやりとした体温にドキリとさせられる。



…その後、その様子を3人の王子に見つかって、事態は更に収拾がつかないことになるのだった…





ーーー




そこから数年後…


国王が崩御し、遂にリードベルが国王となった。


彼は即位するや否や奴隷制度を撤廃した。

戦争で親を亡くした子どものために施設を建て、職を失った者や奴隷だった者達には、職業訓練校へ通わせて生きるための知識を身につけさせた。

失業者や犯罪が減り、働き手が増えて経済が回り、それによって潤った国庫で無償の学校や低額で利用できる医療制度を確立したりするなど、今までにない新しい施策を次々と生み出した。

彼は後に賢王と呼ばれた。


彼は生涯独身で、それ以降は王をいただかず、法律に権限を支配される君主が象徴としておかれるのみとなった。


彼の周りにはいつも2人の王子と2人の貴族令嬢がいて、他の議員達と共に政務にあたったことが歴史書に記された。

あと非常に優秀な執事がいたことも。




ーーー




「システィーナ!」


「フィリス…」



「さっき、またあの馬鹿な国王に迫られてたでしょ…」


「ちょ…っ!そんな言い方したら不敬罪になるよ!?」


「彼が本当に馬鹿だったらね」



「…それより、なにその格好は…?」


「あ…エリオット様が、一緒にルルをお風呂に入れようって誘ってくれて…」


ニッコリ微笑むフィリス


「…今夜もお仕置きが必要だね…」


「っ!!//////」


「いや、でも私達がお風呂に入るわけじゃないから!服も着てるし!!」


「…でもそんな下着みたいな薄い服で、お湯でもかかったら身体のラインが透けてしまうよ…?」


「…おいで、試してあげるから…」


「えっ!?いや、大丈夫…っ!!」


「…じゃあ君の身体にいま一度、君は誰のものなのか教えてあげないとね…」


妖艶に笑いかけるフィリスに、顔が一気に熱くなる。


「…本当最近はエリオットも油断ならないから、僕の心配は尽きないよ…」


そう言いがら、有無を言わさず部屋へ手を引くフィリスの姿は今日も相変わらずカッコよかった…


私は彼の綺麗な顔に見惚れて言った。


「…フィリス…好き…」


「ん…俺も好き…」


フィリスは立ち止まると、いつものように私を抱きしめて、優しく私に口づけをしてくれた。


…こんな素敵な人が、私のことを好きって言ってくれるなんて…なんて幸せなことなんだろう…



…本当に、この世界に連れてきてくれて…フィリスやみんなに出会わせてくれてありがとう…


私は誰にでもない誰かに感謝をすると、そっとフィリスの腕の中で目を閉じた…




私の唯一の願いは、この世界でようやく叶えられたのだった…









最後までお読みいただきありがとうございました!

無事完結できてよかったです!



よかったら完結済「婚約破棄された公爵令嬢は地下牢で暮らす!?」もあわせてよろしくお願いします。


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