第四十六話 シラユキの心のありか
人間への話の通し方については沢山話し合った。
一つは、勇者に負けてから和解案を提示する方法。もう一つは勇者の記憶を取り戻させてから王へ話を通しに行く方法。
一つ目を推したのはミディ団長で、二つ目を推したのはラクスターだった。
とはいえ、ラクスターは幹部でもなく、私の側近であるというだけなので発言力はないのだけれど、それでも皆が圧される説得力を持っていた。
「あの奥様のドレスの色を見立てた勇者だ、話した感じだと嫌味なやつでもない。信じて託してもいい話だ」
ラクスターからの訴えはこんな感じで、皆を頷かせるものがあった。
一方でミディ団長は人間のプライドを尊重した方が話がうまくいきやすいと判断した。
「ここまで闘っておいて、詫びの一つもなく和解というのは難しいんだね。勇者が倒したから言うことを聞くという体勢のほうが、自然に人間達は納得しやすいと思うんだね」
これがミディ団長の意見だった。
どちらも五分五分で意見に賛同するものがいて、私はどちらの意見にも頷けた。
「人間としての意見で奥様はどう思うね?」
「うーん、……私は一度は人間に謝罪する場面を作るべきだと思う。人里襲う魔物もいたのでしょう?」
「奥様、そりゃあ対等って形が消えるぜ。それでもいいのか?」
「対等というプライドを取りたいのか、和解したいのかどちらを重視するか、よね? 私は後者を重視すべきだと思うの。プライドは必要だけれど、今ではないわ」
「勇者の対応はどうする?」
「兄様の記憶は取り戻してもいいかもしれないわね。兄様だけは事情を知っていてもいいと思う」
私の言葉に皆は頷き、この一週間かかった議論もようやく終えそうだった。
シラユキに意見をとりまとめて貰おうと視線を向けたら、ぼうっとしていた。
それも……そうね。シラユキは何せ、兄様からキスを貰い、そのまま記憶をなしに別れてしまった。
シラユキは返事を出すことすら許されず、一方的に想われて一方的に忘れられた。
シラユキの想いは分からないけれど、理不尽さには少し同情はする。
我が兄ながら罪作りなお人。
私と目が合うとシラユキははっとしてからにこりと笑いかけ、書類を纏めながら皆へ発言する。
「それでは、勇者には記憶を取り戻して貰うという方針で宜しくて?」
「ええ、そうして頂戴。威厳やそれっぽさが欲しいなら、演出すればいいから」
「分かりました。次に他の魔王たちの現在です。ヴァルシュア様とユリシーズ様は手を組んだ情報が手に入りました」
「ふられた女同士で本命を蹴落とす、怖いなア、女ってえ奴は」
「軽口叩くくらいで終わればいいのですけれどね、何か牽制できないかしらと思いまして。魔王様はいかがお考えですか?」
「先に此方から仕掛けるとしたら、ユリシーズのほうだ。ユリシーズは軍勢が少なく、ヴァルシュアより魅力が低いからチャームは厄介ではない」
「はっ、でしたら其方を優先して情報を手に入れて参ります」
シラユキは会議の最後に私へ視線を向け、困り眉で笑いかけた。
「奥方様、どうぞ魔王様のことよろしくお願いしますね」