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出演してみよう

 流石に人を使い潰すようなやり方は好みではない。そう思って、僕は新人の勧誘を行う事にした。こちらの条件はしっかり相手に伝え、その上で判断して貰えばいいと判断した。それを木崎さんに伝えると、興味無さそうに「そう」とだけ言って、反論する事はなかった。


「それでドームで新人を勧誘しようと思ったんですけど、僕たちって以前女性に声をかけまくって警戒されているんですよね。それに、新人勧誘はどうしてもギルドに入っている連中に流れるというか……」


「全然ダメじゃない!」


 木崎さんに浅野と共に頭を叩かれると、反省しろといわれて正座している。


「木崎さん、二人だけが悪いんじゃないんです。私が手伝っても役に立たないから……」


 木崎さんに、自分も悪いと説明する一之瀬さんだが、彼女は多くの新人や冒険者を勧誘してくれた。ただ、僕たちの都合により不合格にしたに過ぎない。彼女は悪くないというか、でも元凶だともいえるし……あぁ、何でこんな事になったんだ?


「まて女共、この僕が思うに、これまでの稼ぎやチームの人数が増えた事で、周りの見る目が変わっているかもしれない。ここはもう一度、新人を勧誘しようではないか!」


「あぁ、それ無理だから」


「何故だ友よ?」


 浅野のいう事も一理あると思った二人も、僕の答えに首をかしげる。稼ぐ事が目的の冒険者なら、稼ぎのいいチームを探して当然だ。そこまでなら浅野のいう事も可能だろう。そこまでならね。


 僕はスマートフォンを取り出して、それを三人に見せる。


『大谷稼いでるって聞いたけど本当?』

『生意気だよな。潰そうぜw』

『この前はドームで年増連れてたw もう誰でもいい感じだろ』

『惨めだな大谷』

『年増と可愛い子も連れてた。ムカつかないか?』

『ダンジョンで誰かに殺して貰おうぜw そのまま女の子だけ持ちかえればいい』

『こいつらの悪い噂拡散しているから、これ以上は活躍できないよw』


 ここ最近の僕に対する書き込みだ。暇人どもは、人工島に来ても僕を監視している。きっと見下して悦に浸っているのだろうが、時々書き込む無能アイドルは、僕の家族を馬鹿にするから黒いノートに書かれていた内容を、いつか書き込んでやると誓った。


「……くっ、何故に僕の事が書き込まれていないんだ!」

「これは、酷いですよ。大谷さんは頑張っています!」

「……」


「そういう訳で、無理だと思います」


「……としま」


「え? 何ですか木崎さん」


 僕がスマートフォンをしまうと、木崎さんから表情が消えた。


「こいつらが誰だか知っているの?」


「はい。高校時代の同級生のようですよ。ここ最近、外に出るようになったら馬鹿にされてますね」


「そう」


 そのままタブレットを取り出した木崎さんは、操作をし始める。そのまま数分の操作後に、いつもの冷静な顔になるとこれからの事を相談する。


「それで、新人勧誘も絶望的ですね」


「大谷さん? 普通にしていられる状況では無いと思うんですけど。ここまでするなんて異常ですよ」


「あぁ、僕も友のようにずっと監視されていたい」


 一之瀬さんが心配してくれるけど、実際問題として僕には他人事に近い。家族を馬鹿にした奴らは許せないが、それ以外の連中はどうでもいいのだ。暇な奴等だ。それくらいにしか感じなかった。でも、流石に悪い噂まで流すのはどうかと思う。


「……ここまでされるような何かを、君がしたのかしら?」


 木崎さんの言葉に、少し考える。この世界の僕の言動や家族からの証言をまとめ、自分なりに考えた結果……何かした可能性は低い。限りなく低い! そうでなければ、平行世界に移動できるのに、その力で復讐しないのがおかしい。


「覚えが無いですね」


「無自覚で何かしたの? これは異常よ。有名でも何でもない一冒険者に、ここまで寄って集って……何かあったとしか思えないわね」


 う~ん、寝取られた事以外にも、何らかの事があったのだろうか?



 その日のダンジョン探査も終わり、僕は利用しているホテルに戻ると久しぶりに向こう側に電話をする。


『何だよ。随分と久しぶりだね』


「そっちからはかかってこないからな。それよりも聞きたいんだけどさ、こっちに来てからお前をいじめた連中がやたら絡んでくるんだけど、それって何で? こっちでもそれは異常だって言われたぞ。お前何した?」


 電話越しの向こう側の僕は、少し溜息を吐いてから説明する。


『……悔しい事に何もしてない。あの馬鹿女や馬鹿男が、家に来てから生徒会長まで僕を悪者にした。そこまでは知っているよね。その後が問題だったんだよ。全員が僕をいじめて楽しむようになると、歯止めが効かなくなってた。僕が引きこもった後も、同じように学校全体で一人の生徒をいじめたんだ』


 それに何の関係が? そう思ったが、僕は話を聞く事にした。


『逃げればいいのに、いじめられた子は無理し過ぎたね。学校で死んだよ。その件にも馬鹿男が絡んでいるようだったし、自殺とか事故でもみ消してたようだけど……でも、周辺でその子がいじめられた証拠っていうのが沢山有ったんだよね』


 向こう側の僕が話してくれた内容は、近隣住民の証言やいじめられた子の両親の訴えだ。いじめを黙認した学校側は、いろんな所からの圧力で事件をもみ消したらしい。教育委員会、馬鹿男の父親……その他いろいろな関係者がもみ消したらしい。


『馬鹿だろ……でもさ、今時のネット環境でその事を隠そうなんて無理だったんだよ。相当叩かれたよ。やり過ぎだって。こっちでは、その手の話は過剰に反応するよね』


 ……その程度で済むのが、僕からしたら不思議でしょうがない。馬鹿男というのは、寝取り男の事だろうが、そいつが絡んでいたからもみ消したのか?


『だからさ、連中は意外と繋がりが強いんだよ。いじめっ子どうしの繋がりみたいな? そのまま許されてきたから、未だに続けてるんじゃない。だからさ、君も悪い噂を拡散……』

「あ、それはいつかやるから。じゃ!」


 通話を終了すると、僕は少しだけ考える。高校卒業後も繋がりが強いのは、妙な連帯感を持ったからだと納得するとして、僕を標的にする理由はなんだ? 普段の書き込みを見る感じだと、大した理由が無いかも知れないな。それが一番腹立たしい。



 それから数日した頃だろうか? ダンジョンに潜るとテレビで見た顔を見かけたのだ。佐竹 真奈というあの無能アイドルだ。僕たちが二十階層で慎重に進んでいると、追い付く形でテレビの機材を担いだ冒険者や、テレビの関係者が揃っていた。


 佐竹が、ダンジョン内を案内するような感じで撮影が行われていた。


「みなさん、今回真奈は低階層に来ていまーす! 今回はここで、ダンジョンを紹介したいと思います!」


 元気にポーズを決め、カラフルな強化スーツが違和感ありまくりだ。仲間たちと笑いながらダンジョンでの戦いを紹介している。何かの宣伝だろうか?


 その光景を見って、一之瀬さんが少し興奮していた。


「テレビですよ大谷さん! 私、撮影の現場何て初めて見ました。……あそこにいる人は、時々テレビで見ますよね」


 嬉しそうな一之瀬さん。しかし、僕からしたら憎くてしょうがないし、邪魔だ。そこの道を進みたいのに、そこで邪魔をして通れない。ダンジョンではマナー違反だ。


 だが、僕だってそれだけで争う気はない。ここは別の道を通ろう。そう思っていたら、馬鹿が行動を開始していた。目立つ事が大好きで、自分こそが美しいと持っている男だ。こんな機会を逃すはずが無かったんだ。


「ハハハ!!! 友よ、今こそ僕の出番だ! 僕はこれから全国区ぅぅぅ!!!」


「おい馬鹿止めろ!」


 僕が浅野の馬鹿を羽交い絞めにすると、テレビ局の関係者が嫌そうな顔をしてこちらに来た。その後ろには、ギルド【エイト】の冒険者がついている。


「今撮影中何で、他の道を使って下さい」


 投げやりな態度で、当然の事を言っている感じで注意してくる男。そんな事を言われても、この馬鹿は泊まりそうになかった。


「そんなチンチクリンを映すくらいなら、僕を映したまえ! この美しさ、素晴らしい動き……完璧ではないか!」


「何だよこいつら……」


 嫌な顔をされるが、僕だってこいつの扱いには困っているんだ。そう思っていると、注意をしに来た男よりも、偉そうな男が近付いてきた。僕たちを値踏みするように見ると、そのままある提案を持ちかけてきた。


「君たち、そんなに出演したいなら、出てみるかい」


「え!?」



 急遽、僕たちがテレビに出演する事になった。その事で、木崎さんはスケジュールが狂うとか、そんな事をしている余裕はないとか言っていた。言ってはいたが、化粧を直していたからまんざらでもないようだ。


 浅野の馬鹿は張り切っているし、一之瀬さんは緊張している。僕は……無能アイドル佐竹 真奈が睨んでいた。自分のチームと、僕の事を小声というには大きな声で話している。


「元引きこもりよあいつ」

「本当? 何でこんな所にいるの?」

「不思議じゃないだろ? ここは低階層でゴミ屑共のたまり場さ」

「お、あの子可愛いから声かけようぜ」


 カラフルな強化スーツは、強化パーツでカスタマイズされている。全身を覆うタイツに、胸当てや小手がついている。装備している武器も高価な物で、低階層では過剰戦力だ。


 そんな無能アイドルと共に出演するのだが、僕たちは彼ら一流の冒険者たちと一般の冒険者の違いを明確にするための引き立て役らしい。


「じゃあ、先ずは君たちが戦闘してくれる」


 テレビ局の若い男が、僕たちにそう言うとカメラの前を歩かせた。そのまま歩くのだが、慎重に歩く僕らの後ろから怒鳴り声が聞こえてくる。


「もっと早く進めないの? こっちも時間が無いんだよね!」


 ……罠や待ち伏せを気にして、慎重に進んでいると言うのに。


 仕方なく最新のダンジョン情報を、スマートフォンで確認しながら進もうとする。そうすると今度もお気に召さなかったようだ。


「そんなもん使って進まれても、臨場感が出ないんだよ! 今すぐしまえ。それから、早く戦闘をしてエイトの真奈ちゃんと代わってくれる?」


 敵が出てくるまで、どうしようもないだろうが!


 そのまま歩くと、一つの罠を確認する。潜る前に確認していた『初心者殺し』だ。通常は地図というのはダンジョンでほとんど見ない。それは地図に気を取られるのを避けるためと、変動期でなくともダンジョンの中身が動く事があるからだ。


 信じきるのは危険である。最後には、自分たちの感覚が頼りになってくるのだ。


「罠があるな。ここには気を付けて下さい」


 僕が注意を後ろの連中に促すと、無言だった。そんな事は知っているから、さっさと進めという事らしい。この初心者殺し、という罠を見ると、ボタンがこれ見よがしに設置されているのだ。押すな、と言われると押したくなる感覚を利用しているのだろうか?


 ダンジョンによって、罠の形は違う。だが、罠のパターンは決まっている。


「ふむ、以前この罠にかかった時は、本当に死ぬかと思ったな友よ。まぁ、アレが僕と友との運命の出会いであったがな」


「え、お二人はこの罠を発動させたんですか!」


「よく生きてたわね」


 驚く一之瀬さんと、呆れる木崎さん。


「さっさと進め!」


 後ろからの怒鳴り声に、僕がイライラした。こんな事をしても金にならないのに、向こうはテレビに出してやっている。そう言った感情があるのか、上から目線だ。


 ここは耐える事にして、先に進もうとするのだが、歩き出してしばらくすると目の前の景色が一変する。急な事に驚くと、以前経験した事を思い出す。テレポート……初心者殺しが発動したのだ。ドーム状の部屋には、中央に大きな鎌を持ち、黒いローブを着た宙に浮かぶ骸骨が、こちらに狙いを定めている。


「最悪だ……死神じゃないか」


 浅野が呟くと、木崎さんの目の色も変わる。一之瀬さんと僕の反応が薄いと、木崎さんが説明してくれた。


「初心者殺しと言うのは、その階層に不釣り合いな魔物がいる部屋にテレポートさせる罠だけど、その不釣り合いな魔物っていうのが問題なのよ。多少強い奴から、深層にいるような化け物まで、何が出て来るか分からないのよ」


 木崎さんの説明を、今度は浅野が引き継ぐ。


「その中でも恐ろしいのが『死神』と呼ばれる存在だ。正確には死神ではないのだが、存在と中層のメンバーすら歯が立たない事でそう呼ばれている」


 僕は急いで後ろを振り向いた。そこには、エイトのギルドメンバーが、テレビ関係者の胸ぐらを掴んでいる姿が見えた。


「何してんだテメェ!」

「罠だって言われたのが聞こえなかったのか!」

「死神の部屋に飛ばされたじゃねーか!」


「だ、だって、あいつらは前も生き残った事を言うから、アクシデントには丁度いいかなと……」


 若い男が震える声で、自分のやった事を説明する。わざと罠を発動させたのか? 僕は後ろのエイトのメンバーを見て表情を確認する。全員がテレビ関係者に怒るか、青ざめている。期待は出来そうにない、それを感じ取ると木崎さんが声をかけてきた。


「彼らには無理よ。いい所で中層の後半辺りを攻略できるレベルね。目の前の化け物は深層でも厄介なレベルよ……勝てないわ。本当に最悪!」


 前を向いて敵を見れば、大きな鎌を両手に持ってこちらにゆっくりと近づいて来ている。

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