目標を立てよう
「こうなれば誰でもいいのではないだろうか?」
仲間を募集してから数週間。結果は0人である。誰一人として仲間になってはくれなかった。いや、下心満載な男共は、一之瀬さん目当てに群がってくるのだ。しかし、一之瀬パパの事を思い出すと怖くて仲間にできない。
そんな時に、浅野が諦めた感じで言ったのが、誰でもよくない? これである。
「それでいいと思うのか。変なのを入れると、僕たちが危険だと言ったのはお前だぞ」
「あぁ、だが、考えてくれ友よ。このままでは先に進めないばかりか、あの女は誰も仲間に入らない事を自分の責任だと思い始めている。このままでは本当に不味い。あの女が僕たちから離れても、きっとあの女の父親が殺しに来る!」
この数週間で、お互いの役割が決まってきた事もあり、ダンジョンではそこそこ稼いでいる。一日に五十万を稼ぐなど普通になってきた。なっては来たが……これ以上は進めない。
僕が前衛で敵を防ぎ、浅野がスピードで敵を翻弄、最後は一之瀬さんが敵を一掃する。このパターンが確立できたのだが、3人では限界だ。これ以上深く潜れば、帰りがきつい。
二十階層で稼げばいい方なのだ。
「誰でもいいとはいうけどさ、宛てなんかあるのかよ? 僕たちはギルドに入っていないし、この人工島には来てから日が浅いんだぞ。頼れる人間なんか……いや、いたね。凄く頼りになる人が」
「そうだ! だから頼んだぞ友よ!」
そう言って、浅野は僕にコールしているスマートフォンを手渡した。……相手の名前は一之瀬パパだった。
「何してんだお前! 心の準備も何も出来ていないのに、僕にどうしろと……」
『何だ』
ギャァァァ!!! ゴメンナサイィィィ!!!
僕はそのままガクガクと震えながら、電話の向こうの一之瀬パパと話をした。僕たちの現状と、仲間をどう探したらいいかという相談をしたのだ。決して、仲間が欲しいとは要求していない。先輩冒険者の体験談を聞こうとした訳だ。
『……そんな事で電話してきたのか』
「す、すいません」
『まぁいい。仲間の件はこちらでどうにかしてやる。貴様らはいつも通りドームに行け』
そう言って電話を切る一之瀬パパ。心臓の音が聞こえそうな僕は、電話が切れるとその場に座り込んでしまう。怖かった。本当に怖かった!
「こ、この馬鹿! どうして急にそんな事をするんだよ!」
「ふん、そうしなければ誰が連絡するかで揉めるだろうが。そして僕はまだ死にたくない」
こいつ、さっらと本音をいいやがる。
◇
「あ、おはようございます大谷さん。今日もいい天気ですね」
朝から柔らかい笑顔で挨拶をしてくる一之瀬さん。これが今の人工島での癒しである。そんな一之瀬さんとドームで合流して、僕たちはダンジョンを目指す。ここまでならいつもと同じであるが、今日に限って僕たち三人に声がかかった。
下心のある男でも、如何わしい女でもないその女性は、眼鏡の似合う仕事の出来る女。そういった感じの女性だった。冒険者の装備も着慣れており、後ろでまとめた長いストレートの髪がさらさらしていた。紺色の髪と少しばかり紫に近い瞳が特徴的だと思う。
「少しいいかしら、これからダンジョンへ行くのよね? それなら私も加えてくれない」
近付いてきた女性が、僕の所に来る。愛想のいい笑顔で近付き、顔が一之瀬さんに見えなくなった所で本性を現した。
「……ギルドマスターからの依頼で来ました」
その一言と、装備から外したライトファングのエンブレムを見せてくる女性。あぁ、一之瀬パパは、人材を貸してくれた訳ですね。
女性はそのまま浅野の馬鹿や、一之瀬さんに振り向くと笑顔で自己紹介をする。
「木崎 香よ。よろしくね。あ、それからリーダーにはステータスを見せるから、考えて配置してよ」
【木崎 香】【27】【ランクA】【職業・騎士】【剣術五段】【攻撃魔法 火 上】【銃器資格】【ギルド・ライトファング脱退】
ステータスをタブレット端末で見せてくれた木崎さん。しかし、ここまでするか一之瀬パパ! ギルドを脱退させてまで娘に護衛を付けさせるなんて……それにステータスの職業が騎士! この人も一流の冒険者なのだろうか?
ステータスを見て考え込んでいると、木崎さんが耳打ちする。
「ギルドマスターの第三秘書をしていました。ダンジョンにはそこそこ潜りましたが、ここ数年は前線から離れていますので、その事は覚えておいてください」
冷たい感じの木崎さんは、そういうと笑顔に戻って一之瀬さんと話を始めた。強化スーツとアサルトライフルに、盾と剣を装備したお姉さんが、僕たちに無理やり加入した。
「……友よ。あの女がそうなのか?」
「そうだよ。一之瀬パパに感謝しないとな」
◇
「何なんですかこの出鱈目なスケジュールは! それにここから先の敵は、私たちには効率よく倒せませんよね? 何で無理して進むんですか! それからほとんど毎日ダンジョンに潜るなんて馬鹿ですか? 馬鹿なんですね分かりました」
ダンジョンからドームに帰ると、僕たちは木崎さんに叱られた。タブレット端末で僕たちの効率の悪さや、無計画なダンジョンへの挑戦が問題だったらしい。一之瀬さんもシュンとしている。浅野の馬鹿は……居眠りしていた。
ドームの中にある喫茶店で、僕たちは反省会を行うと言って連れてこられた。そこからは木崎さんの独壇場だ。次々と駄目出しをしてくる。
「それからリーダー。あなたは、いつまでに支援魔法の上級を手に入れるの? このままだと本当に効率が悪いのだけど」
「いや、それはお金が溜まって時間が出来たらでいいかな、って」
「駄目、全然駄目! 今はそこそこ稼いでいるでしょう? ならダンジョンへ行く回数を減らして、魔法教室に通いなさい。それから装備にしても、メンテナンスを怠るなんて論外よ。予備を残してメンテナンスをすぐに済ませるの。その後は予備もメンテしなさい」
「いや、何というか僕は特殊みたいで、装備も回復するといいますか」
「確認したの? それとも完全に元通りになるとでも言うの? それも確認しないで、安全だと思い込む方が危険でしょう! 自分の使う道具は、基本的にしっかり管理しなさい! 普段の行動も見て無いようで、周りはしっかり見てるわよ!」
駄目出しされて木崎さんが怖く見える。
「本当ならチーム内で、交代で休んで毎日ダンジョンに潜る所だけど、この人数では無理ね。そうしたらチームで休日を設けるのは、当たり前の事よ」
「仰る通りです」
「明日は休日にします。私がこれからの予定を立てますから、あなたたちは装備の管理とこれから自分に何が必要かを考えるように! ……それからそこの馬鹿。今度居眠りしたら蜂の巣にするわよ」
「ふへぇ!」
木崎さんがハンドガンを浅野の馬鹿に向けると、浅野は射線から転げるように避けた。ただ、避けると椅子から落ちてしまって情けない姿になる。
「き、厳しい方ですね大谷さん」
「そうだね一之瀬さん」
君のパパが送り込んできた凄腕の秘書の方ですよ。
◇
木崎さんにスケジュール管理を任せるようになってから、僕たちの効率は以前と比べ物にならない程に向上した。休みが増えたのに稼ぎが変わらない。これは凄い事だと思うんだ。思うんだけど……
「何なのその射撃は! ただ撃てばいい訳じゃないって教えたわよね!」
「す、すいません!」
「そこの馬鹿、アンタは軽装でスピードを活かさないといけないのに、何で動きに無駄があるのよ。その変なポーズは止めて」
「ぬう、貴様に僕の美しさが理解できるものか!」
「それから一之瀬さん……無理はしないで」
「は、はい」
「一人だけ贔屓はいけないと思います!」
「だから女は駄目なんだ」
厳しい。木崎さんは兎に角、厳しいのだ。今までのようなダンジョンでの探査は、無駄が多いと叱られ。時間の管理が甘いだの、装備について理解しろだの言ってくる。
僕よりもリーダーに向いているのではないだろうか? 浅野はリーダーとして論外だし、本人も面倒くさいといって断るし。一之瀬さんは強いけど、人に命令をする感じではない。消去法で僕が暫定的にリーダーなのだが……木崎さんは、前衛も後衛も出来てチームの中央で指揮をしてくれる。
これはリーダーになって貰おう。そう思った。でも、木崎さんは拒否した。
「それは出来ません。そこまでする必要は無い、といわれていますから」
一之瀬パパが絡んでいるであろう反応に、僕は無言で従った。
そうして今日もダンジョンの探査が終わると、魔石や鉱石などを換金する。今では四人で七十万を一日で稼げるようになっていた。消耗品はチーム全体で管理して、残りは均等に分けたのが自分たちの収入である。最近では実家に仕送りが出来るようになり、僕としては満足だ。
そうして、ドームから高級ホテルまで一之瀬さんを送り届けると、木崎さんから声がかかった。
◇
「仲間ですか? ここに来てから散々募集しましたけど、結局集まりませんでしたよ。出会い喫茶とか行きましたけど、全然でしたね」
木崎さんと二人、喫茶店で軽食を食べながら話している内容は、相変わらず仲間の事だ。基本的に、木崎さん一人が増えた所で解決にはならない。仲間を増やさないと、低階層を超える事が難しいのだ。強さ的にではなく、時間の関係で休憩をはさむ事になっても、人数が少ないと負担が大きい。
そして、見つけた魔石に鉱石は、強化スーツを着ていても重いのだ。日雇いのバイトで、荷物持ちもあるくらいだが、元から仲間でないためにトラブルが多い。
「どうして最初にそんな所に行ったのか、理解できないわね。はぁ、あの馬鹿に話しても意味がないし、実力があるのに他を気にしないとか、本当に迷惑な奴よね。そうすると、君と話す事になる訳だけど……これからどうするつもりだったの?」
「あぁ、正直に言うと、考えてませんでした。ヒッ!」
正直に話すと、木崎さんが物凄い形相で睨んできた。僕は怯えながら木崎さんの話を聞く。一度溜息を吐きながら、眼鏡を取って話を再開する木崎さん。
「はぁ、ギルドマスターにこれ以上手を貸して貰っても困るし、出来れば自分たちでどうにかしましょう。普通ならギルドに入るのが妥当だけど、お嬢様が他のギルドに入ろうものならギルドマスターが黙っていないわ。個人でダンジョンに潜る連中は、信用できる連中は少ない。なら、ここは一つ育ててみるのもいいかもね」
「育てる、ですか?」
「人工島には結構な数の人間が来るわ。その中には有望な奴もいれば、ただの馬鹿もいる。準備もそこそこに、ここで一旗揚げようとする連中ね。それ以外にも泣く泣く来る奴等もいるわ。借金とかね」
聞いた事はある。荷物持ちのバイトですら、一日に数万円から数十万の稼ぎになるのがダンジョンだ。借金を返済できない人たちを集めて、荷物持ちとして使う事があると聞いた。テレビの中だけの話だと思っていたけどさ。
「肩代わり、そうすれば簡単にそういう連中をチームに入れられるわ。金を貸した連中は、金さえ回収できれば問題ない。いえ、それ以上に命を落として金を回収できない方が怖いから、喜んで売ってくれるわよ」
人を、物の売り買いのように扱うのは酷いと思う。前の世界よりも弱者に厳しい世界だから、そのような事も当然のように起きているのだろうか?
「それって人身売買じゃ……」
「そうね、表だって言わないだけで、裏では人身売買その物よ。でもそれが何? もっと酷い事だって出来るのに、チャンスを与えられているだけマシでしょう」
そんな事を言いきる木崎さん。僕は元の世界を思い出し、この世界の僕が言っていた言葉を思い出す。そっちは平和だろ……命が軽い世界というのを、再度実感してしまった。
「今じゃ、身体を売るよりもダンジョンで稼ぐ方が人気よ。命は落とすけど、一攫千金も夢じゃない物。よっぽどの美人じゃない限り、女でもダンジョンに放り込まれるわ。だから、ここに来て日が浅い奴や、借金をしている子をチームに入れましょう。その中で優秀なのがいたら声をかければいいのよ。駄目なのは、すぐに命を落とすから問題も無いわ」
「でも、それって不味くないですか? ここに来てすぐの人間を騙してますし、肩代わりして強制的に働かせるのも法律とか……一之瀬さんに悪い噂がたっても悪いと思うんですけど?」
「それじゃあ、これからどうやって仲間を増やすのかしら? 綺麗事もいいけど、結果を出してから言って欲しいわね」
木崎さんは厳しい人だと思っていたが、目的のためなら手段を選ばない言動が目立つ。僕の言っている事は確かに綺麗事だろう。だが、木崎さんのやり方は選べない。そしてもう一つ疑問がある……どうしてこんな人を一之瀬パパは送り込んできたんだ? やはり感覚が違うのか、それとも……
「どうするかは君が決める事だけど、チームの方針はしっかり決めなさい。曖昧なままだと、いざという時にチームがまとまらないわよ。人を使い潰すにしろ、仲間を大事にするにしろ、その場で方針がコロコロ変わればチーム全体が不安になるわ」
木崎さんの言葉に、僕は胸が痛んだ。




