声をかけられた
新しい仲間をチームに入れて、僕たちは三人でダンジョンに潜る事に……本当は、一之瀬さんの加入をやんわりと断ろうとしたのに、本人が中々気付いてくれなかった。頑張ります! って元気に返されると、何とも言えない。断る理由が無いのだ。魔法使いとして一流であるし、杖を使って護身も出来る。
鍛えているのか体力まであり、性格もお淑やか……どう断れと? 下心も当然あるが、美人であるために彼女のチームへの加入は嬉しい。ただ、彼女のお父さんが問題だ。実力や名声が、日本で最も高い冒険者である彼女の父親だが、どうやら娘には甘いらしい。
「まだついて来るね。もうダンジョンに入っているのにさ」
後ろを振り向くと、微妙な距離で追跡してくる【ライトファング】の冒険者たち。一之瀬さんの護衛と思われ、低階層では見かけない実力者たちだ。
「くっ、残念だが、僕でも勝てるかどうか分からない連中だ。ここはひとつ、この女をこのまま置き去りにして逃げないか友よ?」
「最低なのは知っているけど、そんな事をしたらこの先、生きている保証もないよね。自分より目立つからって、一之瀬さんに当たるなよ」
浅野の馬鹿が、一之瀬さんの加入で自分が目立たない事を心配し始めた。実際に、低階層では彼女の価値は分かりにくいのだが、先に進めば進むほど、魔法使いと言う高火力が期待できるのは確かである。
「あのぉ、二人とも先に進まないのですか?」
馬鹿と僕が話していると、一之瀬さんが低階層の二十階へ降りる階段を見つけた。門番がいる階層で、二十階の門番は健在だったとドームで確認している。
「流石にこの先はきついかな。門番は健在だし、僕たち三人では荷が重いよ。今日はここまでにして、上に戻ろうか」
一之瀬さんにそう答えると、護衛をしていた一団も動き出した。何と、帰り道にテレポートの魔法が付与されている札をこれ見よがしに落としている。それを拾う一之瀬さんは、その札をバックにしまう。
「落とし物ですから、ドームで係りの人に届けましょう」
『お嬢様違います! 使って下さい!』
『そこの屑共も何かいえよ!』
『ダンジョンで落し物は有りません! 拾ったら全部自分の物ですよお嬢様!』
小声でわざと聞こえるようにいう護衛たち。そんな護衛たちの視線を受けて、僕は一之瀬さんを説得する。
「一之瀬さん、その札を届けても誰かが自分の物だと言い張って奪われるよ。だから拾ったら一之瀬さんの物さ。使っても大丈夫だよ」
「そうだぞ女。僕は疲れているから早く帰りたい。その札を使え」
しかし、説得のかいなく一之瀬さんは拒否をする。
「いいえ、これはきっと後ろをついてきた方々の落とし物です。私だって馬鹿じゃありませんから、それくらい気づいていました」
「一之瀬さん……」
「黒い服を着た冒険者さんたち、といってドームで預かって貰えば大丈夫ですよ! それに、もしかしたら帰る途中で引き返して来るかも知れません。その時に返してもいいんです」
「う~ん、一之瀬さんは理解してないよね」
そうして僕たちは徒歩でダンジョンから脱出した。支援魔法の上級コースを予約した方がいいのかも知れない。それよりも、一之瀬さんが護衛の存在に気付いていないが問題だ。
◇
「合計で四十五万円と二百一円になります。銀行振り込みと電子マネーへのチャージはどうされますか?」
ドームで魔石などを換金すると、日に日に金額が上昇してきている。嬉しいのだが、人数が増えると分け前の事を考えないといけない。チームで使う消耗品の弾丸や薬、そして食料の事も考えると出費は増えるのだ。
そう思ってチームのメンバーを見れば、一之瀬さんは働いた事に感動し、馬鹿は借金の返済でほとんどの収入を使い切っている。
「今日はこのまま帰るけど、一之瀬さんはどこに泊まっているの? それともアパートとかマンション?」
僕は解散しようとするが、一之瀬さんは女の子である。下手にドームで別れて、問題が起こると不味い。送っていく事を考えたら、一之瀬さんはホテルを探しているという。だが、一之瀬さんの話を聞くと、何だか不安になってきた。
「ドームに来る前に、表通りから離れた場所に迷い込んだんですけど、そこに格安でお風呂まで完備した休憩所があるんです。安いし綺麗だったし、可愛いピンク色ですよ! 私、今日はそこに泊まろうかなって」
それ違うホテルだよね。確かに間違ってもいないけれど、大方の日本人は使用目的が違う気がする。耳を澄ませると、護衛たちから僕らに指示が出された。
『止めろ! お嬢様を止めろ!』
『表通りで一番高いホテルを進めろ!』
『ドームからも見える最高級ホテルまで案内しろ!』
小声で聞こえる声に従って、ドームから見える立派なホテルを見る。凄く高そうな雰囲気なんだが、大丈夫だろうか?
「い、一之瀬さん、あの大きなホテルとかいいんじゃないかな? 今日は初日だし、ゆっくり休める所がいいよ。気に入らなかったら、また探せばいいしさ」
背中に突き刺さる護衛たちの視線を受けながら、僕は必死に一之瀬さんを説得した。こんな時に馬鹿は、綺麗に磨かれた窓で、自分の全身を見て微笑んでいる。しばらく考えた一之瀬さんは、最初は難色を示した。だが、時間が出来たら探せばいい、という僕の言葉に納得してくれる。
「そうですよね。最初は安心できる所がいいですよね」
そうしてホテルまで一之瀬さんを送り届けると、護衛をしていた連中とは違う黒服の一団に囲まれる。サングラスをして、黒いスーツに身を包んだ一団は、僕たちを拉致する感じで車に乗せる。そのまま人工島にあるライトファングの本部ビルへと連れていかれた。
◇
「お前らが娘のチームメンバーか?」
一之瀬さんのお父さんを、僕はナイスミドルの娘に甘いお父さんだと想像していたけど、想像以上に迫力のあるお父さんだった。筋肉の鎧に身を包んみ、短い髪を逆立てて凄みのある顔。歴戦の猛者という雰囲気を超えて、覇王を思わせる人物だった。
この人と口喧嘩できる一之瀬さん凄ぇ。
「俺の質問が聞こえないのか? お前らが娘のチームメンバーか、と聞いている!」
は、迫力があり過ぎて声が出ない! それでも何か言わないと、本当に殺されるかも知れん!
「は、はいぃぃぃ!」
声が裏返り、隣に座る浅野の馬鹿は僕に全部丸投げするつもりらしい。目を瞑って、友よ……後を頼む。そんな事を呟きやがった。
「そうか、あの子の母親はあの子が小さい時に亡くなった。それ以来、俺の妻たちに面倒を見させてきたが……女と言うのは嫉妬に狂うらしい。あの子には辛い思いをさせた時もある」
いきなり昔の話をし始めたけど、僕たちは黙ってそれを聞くしか出来ない。いったいどんな目的で呼び出したのか? それが今の僕にとって重要な問題だ。
「その後は俺自身が面倒を見てきた。それなのに、今になって反抗してきたと思えば、冒険者になるとはな。昔は素直な子だったというのに」
怖い、怖いよ! 僕たちこれからどうなるの!?
「あの子の選んだ道だ。好きにさせるつもりだが、冒険者と言うのは仲間が大事だ。それは理解できているな?」
「ひゃい!」
「さっきまでお前たちの事を調べさせていた。結果からいえば不合格だが、娘への対応はギリギリ合格と言えなくもない。このまま娘はお前たちの仲間として『大事に』扱え。ただし! 娘に何かあれば、この俺がお前たちを必ず殺してやる」
「す、すいませんでしたぁぁぁ! 命ばかりはお助け……え!? 一之瀬さんを任せるんですか?」
「……不満があるとでもいうのか? あの子のステータスは見たのだろう? 大事な自分の情報を安易に見せた娘も悪いが、このまま仲間でもない人間があの子のステータスを知っているのは不味い事だな? 言っている意味は分かるだろう」
ステータスと言うのは、冒険者にとって大事である。履歴書などには記載しても、知り合いに安易に見せる物ではない。
「大事にさせて頂きます!」
「……何かあれば俺に連絡をしろ」
◇
ライトファングのビルから、足元をふらつかせながら出る僕と浅野。手にはお土産と称した各種装備品。そして浅野の借金は、ライトファングが払ってくれる事になった。何でも、娘のチームメンバーに借金をしている者がいるのは許せないという指示が出たらしい。
「こ、これで僕も一流ギルドであるライトファングに顔を覚えられた……さ、幸先がいいじゃないか」
「青い顔をして言っても格好悪いよ。それよりも明日からどうしたらいいんだ! このままだと、これ以上先に進むのも難しいぞ。下手に先に進んで怪我でもされたら……」
そこまで言ったら、一之瀬パパの顔が頭に浮かんだ。お、恐ろしい事が起きるのは想像できる。
「友よ、ここは早急に仲間を増やすべきではないだろうか? このままでは魔物に囲まれて、あの女が怪我するという、僕たちの死亡条件がすぐにでも発生してしまう恐れがある。ダンジョンでは何があるか分からないんだぞ」
「そ、そうだな。すぐにでも仲間を集めよう。けどさ、変なの入れても、あの一之瀬さんのお父さんは怒るよな?」
「当たり前だ! もしも仲間に僕たち以外の男がいたとしよう。そいつがあの女に手を出したら、もれなくあの女以外は殺されるぞ! 最強の冒険者を相手に戦う程、僕は愚かではない!」
「ま、待てよ、そうすると女の人を集める事になるよな? それって不味いだろ」
男もそうだが、人間と言うのは相性がある。こればかりはどうしようもないが、比較的男性は仕事とプライベート分ける事が出来るのに、女性では問題が起こる事の方が多い。下手にハーレムを目指した冒険者が、同じチームの仲間に刺されたり、仲間の女性同士で殺し合いが発生する事も多いのだ。
無論、僕たちがその辺を気にして仲間には手を出さなければ問題ない。いや、問題が発生する確率は少なくなる。男性を入れる事が出来ないなら、女性を入れるしかない。もしくは、女性に興味の無い男性を加入させるかだ。
「あぁ、不味い! だがな友よ、僕は自分が大好きであって、男が好きではない。男に興味を示す男がチームに入るのは許す事は出来ない。何故なら、そういう奴等は、僕と言う美しい存在を放ってはおかないからだ!」
「問題が起きないように、女性を加入させる。でもさ、それって可能かな? 今回は一之瀬さんがたまたま了承してくれたけど、本当はもっと難しいよね」
前回の出会い喫茶では、一人も仲間に出来なかった。それを考えると、無名でギルドにも所属していないチームに加入してくれる女性がいるのか? ……何と言う事だ。人工島に来てまで詰んでしまった。
◇
それからしばらくは、ダンジョンに潜りつつ仲間探しの日々だった。朝から昼過ぎまでダンジョンで探査を行い、その後はギルドに所属していないフリーの冒険者に声をかけて回る日々。
結果からいえば誰一人仲間に入ってはくれなかった。いや、男共は向こうからこちらに来たし、一之瀬さんを引き抜こうともした。一度、本当に犯罪者が集まるようなギルドのメンバーに声をかけられたが、そいつらはライトファングのメンバーが裏路地へと連れて行ってから見る事がなくなった。
「どうするよ浅野! このままだと本当に不味いぞ!」
「僕に声をかけられて喜ばない女なんか、いや、今はそんな女でも盾になればそれでいい!」
最低な発言をする馬鹿だが、ここ最近は精力的に声をかけてくれている。まぁ、全部失敗しているのだが……
一之瀬さんも声をかけてはくれるが、男女関係なく声をかけるので困る。一之瀬さんが声をかけると、ほとんどの男は加入するか、自分たちのチームに誘おうとするのだ。それでは問題の解決にはならないし、女性の冒険者たちは、僕たちが女性ばかりに声をかけているのを見抜きだしている。
完全に警戒されて、声をかけても反応が悪いです。ネットの掲示板では、どこぞの頭空っぽのアイドルが、僕の事を女に声かけまくっている低能猿と書き込んでいた。負だ、負のスパイラルが発生している。
そんな事で悩んでいると、僕たちに声をかけてくる人が現れる。下心のある男でもなく、軽い感じの女子と言った感じだ。冒険者崩れと言った感じで、ピースサインをしていう。
「ねぇ、お兄さんたち、一回二十万なら相手しても……」
「帰れ!」
「消えろ!」
「……」
全く、この一大事になに声をかけてきてんだ。僕たちは女に飢えているのではない! 冒険者に、仲間に飢えているんだ!




