真実の待つ部屋
信号待ちで立ち止まった瞬間、背後から声がかかった。
「ヨシオさん!」
振り返ると真実が走ってくる。
息を切らせながらも笑顔を見せていた。
「よかった……やっと会えました」
彼女はヨシオの袖を掴む。
「何度電話しても出ないから心配しましたよ」
「すまない……」
ヨシオは目を伏せた。「いろいろあってな」
「詳しく聞かせてください」
真実は真剣な眼差しで言った。「私の部屋で待ってます」
彼女の優しさが痛い。だが逃げる選択肢はなかった。
部屋に入ると変わらぬ温かい空間がヨシオを迎えた。
真実がホットココアを淹れる。
「昨日はどうでしたか?」
彼女の問いに答えるには勇気が必要だった。
「駄目だったよ」
ヨシオは苦笑いで頭を搔いた。「予想通りだ」
詳細を伝えるうちに自分の情けなさが倍増する。
健康であることが逆に障害になるとは皮肉なものだ。
「そんなこと……」
真実が唇を噛んだ。「法律の方がおかしいんです!」
彼女は珍しく声を荒げた。
「仕事が見つからない人間を責めるなんて……」
「落ち着け」
ヨシオは宥めるように手を振った。
「それが世の中だよ。俺みたいな人間には居場所がない」
「諦めないでください!」
真実は泣きそうな顔で訴える。
「私と一緒に方法を探しましょう。福祉制度だけじゃないはずです」
その言葉にヨシオの心が揺れた。
こんな境遇に追い込まれてもまだ見捨てない人がいる。
それがどれほどの価値か。
「ありがとう……」
ヨシオは素直な感謝の気持ちを口にした。
「迷惑はかけられない」
ヨシオの言葉は静かだが芯が通っていた。
湯気の立つカップを見つめながら続ける。
「俺みたいな人間がいつまでも他人の世話になってるわけにはいかないさ」
真実がカップを両手で包み込んだ。指先がわずかに震えている。
「それって……私のことも他人って言ってます?」
言葉の裏にある傷ついた感情にヨシオは気づいた。慌てて補足する。
「そうじゃなくて……君の負担になりたくないんだ」
「負担かどうかは私が決めることです!」
真実が珍しく強い口調で言い返す。目には涙が浮かんでいた。
「どうして一人で抱え込もうとするんですか?私たち、もう知り合った仲間でしょう?」
その「仲間」という言葉が胸に響く。
かつて友と呼べた人々から遠ざかって久しいヨシオにとって、その響きは新鮮だった。
「でもな……」
ヨシオは言い淀むが、真実が一歩近づいてきた―




