## 零細生活者の生態 ### 第三十章 純粋な誘惑③
【アパート到着】
「ここです」
小さな鉄階段の前に立ち止まる。
確かに古びているが掃除は行き届いている。
二階の突き当たりに彼女の部屋があった。
「お邪魔します」
玄関を跨ぐ瞬間、ヨシオは奇妙な感覚に襲われた。
二年ぶりに誰かの家に入った安堵
【初めての室内】
扉を開けると6畳ほどの和室が広がっていた。
窓際に置かれたベッドと小さなデスク。
押し入れの前には衣装ケースが積まれている。
想像していたよりも片付いた空間だった。
「どうぞ」
真実が明るく言った。
「狭いでしょ?でもこれが私の城なんです」
部屋には女子らしい淡い香りが漂っていた。
柔軟剤だろうか。ヨシオの鼻腔がむず痒くなる。
「きれいだな」
思わず感嘆の声が漏れる。
「でしょ?」
真実は自慢げに腕組みした。
「警備員は早番と遅番で不規則だから、整理整頓だけは欠かさないようにしてるんです」
畳の上には小さな折りたたみテーブルがあり、隅にはノートパソコンが充電されていた。
壁にはいくつかの写真が飾られている。
「あれは……」
ヨシオは一枚の写真に目を留めた。
学生服姿の真実と数人の男女。文化祭の看板を持つ姿が写っている。
「高校時代の友達です」
真実は少し照れた様子で説明した。
「みんな今でも時々集まってますよ」
一瞬だけ二人の間に静寂が流れる。
ヨシオが室内を見渡し、真実が立ったまま彼を見つめる。
「あの……」
ヨシオが口を開こうとした時、
「まずはシャワーですよ!」
真実が元気よく宣言した。




