## 零細生活者の生態 ### 第二十九章 過去の遺恨②
彼は一呼吸置いて、
「ホームレスになってから……犯罪者扱いされて」
「犯罪者扱い?」
宮本が眉をひそめた。
「そうです」
ヨシオの目に憎悪の色が浮かぶ。
「窃盗未遂の疑いで逮捕されたんです」
「冤罪だったんです」彼は強調した。「でも……」
「でも?」
「証拠不十分で釈放されたのに……」ヨシオの声が震えた。
「世間は信じてくれなかった」
彼は空を見上げる。
「裁判所に出頭する途中で職質されて……」
「手錠をかけられたんです」
その言葉には深い怨念が込められていた。
「それで……」宮本が言いかけると、
「名前が出回ったんですよ」ヨシオが続けた。
「『窃盗犯』として」
「会社も辞めざるを得なくなって……」
「妻子も離婚しました」
宮本は沈黙した。言葉が見つからないようだ。
「今では……」ヨシオは自嘲気味に笑う。
「誰も信用してくれない」
「それでも……」宮本が言った。
「今日こうして助けてくれたじゃないですか」
「それは……」
ヨシオは答えに詰まった。
「君が特別だからだ」
「特別?」
「普通だったら……」彼は首を振る。
「こんなボロボロのオッサンに声なんかかけない」
宮本は微笑んだ。「私も普通の人間ですよ」
「違う」
ヨシオはきっぱりと言った。「君は違う」
「どう違うんですか?」
「優しい」
そのシンプルな一言に宮本の顔が赤らんだ。
「そんな……」彼女は照れくさそうに視線を逸らす。
「ただの仕事なんです」
「嘘つけ」
ヨシオは笑った。
「仕事だけでここまで面倒みてくれる奴がどこにいる」
二人の間に柔らかな空気が流れる。
初めて会ったとは思えない親密さ。
「それで……」ヨシオが真剣な表情になった。
「これからどうするんだ?」




