## 零細生活者の生態 ### 第二十三章 四人の朝餉
「気にしないで」
花音は笑った。
「友達を助けるのは当たり前のこと」
それに、
「四人で朝マックってなんか楽しいじゃん」
―――
ヨシオがハンバーガーを一口かじった時だった。
「うわー……マジでキモくない?」
隣のテーブルから若い女性の声が聞こえた。
紗月が顔を上げると、
制服姿の三人組がスマホを弄りながら小声で話し合っていた。
「あのオッサン、絶対ホームレスじゃん」
「なんで女子高生と一緒にいるの?パパ活?」
「ヤバすぎ……近づかない方がいいよ」
声は抑えられているものの、
明らかにヨシオたちを指していた。
ヨシオは顔を伏せた。
「放っておけ」
「でも……」
柚希が身を乗り出す。
「許せないわ」
しかし行動に移したのは紗月だった。
彼女はスクランブルエッグを喉につまらせたような顔をした後、
急に立ち上がった。
「あの人たち失礼すぎます!」
隣のテーブルに歩み寄る紗月を三人が追いかける。
「あのっ!」彼女の声が店内に響く。
「さっきから聞こえてます!叔父さんに失礼ですよね?」
女子高生たちは驚いた顔で振り返った。
「え?何?聞こえた?」
一番背の高い子が茶化すように笑う。
「私たち何も言ってないよ〜」
「嘘です!」
紗月の頬が紅潮する。
「『キモい』とか『ホームレス』とか……全部聞こえてました!」
「何マジになってるの?」
ショートヘアの子が舌打ちした。
「てかマジで関係あるの?あの人みたいなのが周りにいるってさ……アンタらもヤバくない?」
店内の視線が一斉に集まる。
柚希は拳を握りしめ、
花音は冷静に状況を観察していた。
「関係あるよ!」
紗月の声が大きくなる。
「叔父さんは大切な人なんです!昨日だって私たちを守ってくれたし……」
「はいストップ」
ヨシオが前に出て紗月の肩に手を置いた。
「もういい。店に迷惑だ」
「でも……」
「座れ」ヨシオの声には威厳があった。
三人が席に戻ると、花音が小声で尋ねた。
「大丈夫ですか?」
「ああ」
ヨシオはコーヒーを飲み干した。
「慣れてる」
だが彼の手は震えていた。
過去の記憶が蘇る。
会社の廊下で陰口を叩かれた日の屈辱。
妻との最後の会話。
「あなたのせいよ」
という言葉。
「叔父さん」
柚希が心配そうに覗き込む。
「無理しないで」
「無理してるのはお前たちの方だ」
彼は静かに言った。
「こんな場所に俺なんかと……」
「俺なんか?」
紗月が鋭く反論した。「自分で自分を卑下するのはやめてください!」
「そうだよ!」柚希が続けた。
「私たちは自分の意志でここにいるんだからね」
花音は冷静に観察しながら口を開いた。
「失礼な人たちでしたね。でも気にすることはありません。無知な人ほど声が大きいのです」
店内が静まり返る中……




