恋慕の奔流 【予期せぬ告白】
「誰がそんな嘘を……」
「出どころは特定できていません」
柚希は首を振った。
「問題はそのような風評被害が事実化しかねないことなんです。貴方は常習犯ですからね」
鋭利な刃物のような言葉に心臓が跳ね上がる。
「やめてくれ……」
「やめません」
彼女は容赦なかった。
「私がこの職場にいる限り永遠に監視下におくしかないんです」
最終通告とも呼べる宣告だった。
「だから選んでください。安全に暮らし続けるかあるいは身動き取れない監獄のような場所で耐えるか」
選択肢を与えてくれているようで実質的には一つしか残されていない状況。
ヨシオは震える唇を噛みしめた。
「時間をくれ」
「今すぐ答えないと公表します」
柚希は時計を指差しながら迫る。
「五分以内ですよ?」
追い込まれた状況下であっても思考停止には陥らなかった。
寧ろここで決断しなければ一生後悔することになると本能
「柚希はさらに追い打ちをかける」
「私、知っているんです」
柚希の声は冷たい刃のようだった。
「叔父さん……事務員の女性の方にいやらしい視線を送っていたでしょ」
その言葉にヨシオの全身が硬直した。
図星だ──完全に。
資料室の整理を手伝ってくれた若手の佐伯恵美に、無意識とはいえ魅力を感じていた事実は否定できなかった。
「女の感というやつか?」
自分でも驚くほど乾いた声が漏れる。
「事務的な会話しかしてないはずだが……」
「フリーズ効果って言葉知っていますか?」
柚希は皮肉な笑みを浮かべた。
「普通に振舞おうとしても異性の脳は自動的に性的魅力を探知するものなんですよ」
心理学の講義のような口調だった。
目の前の十六歳の少女がここまで詳しいことにヨシオは恐怖すら覚えた。
「俺はそんなつもりじゃ……」
苦し紛れの弁解をしようとするも、柚希が遮る。
「そんなつもりがないって本気で言えます?」
彼女の目が射貫くようにヨシオを見据える。
「あの人のウエストライン眺めてませんでしたか?それとも爪先のネイルカラーをチェックしていました?」
あまりに的確すぎて絶句した。
確かに昨夜帰り際に彼女が履いていたピンヒールのデザインを記憶している自分がいる。
「冗談だろ……」
懸命に虚勢を張るものの声はかすれた。
「証拠はあるのか?」
「必要ですか?」
柚希は嘲笑うように言った。
「女の勘ってものがあります。それに……」
一呼吸置いて致命的な一撃を放つ。
「私があの人に直接確かめたからです」
その言葉が脳内で爆発した瞬間、膝から崩れ落ちた。
「そうか君の考えは分かったよ」
ヨシオは心の底から諦めの声を漏らした。
「やはり俺みたいな人間が君に関わってはいけない。せっかく紹介してもらったけど、今日で辞めるよ」
その言葉を言い終える寸前だった。
柚希の瞳から一滴の涙が滑り落ちた。
「なんで……」
嗚咽混じりの声が資料室に響く。
「なんでそんなに簡単に諦めちゃうの?」
先ほどまでの高圧的な態度は幻だったかのように柚希は両手で顔を覆いしゃくり上げ始めた。
「わたし……わたし……」
彼女の肩が震える。
狭い空間に漂う緊張が突如として溶解していくような錯覚に襲われるヨシオ。
「柚希?」
慎重に声をかけると彼女は顔を上げた。
濡れた頬に夕陽が反射して妖艶な輝きを放っている。
「叔父さんがほかの女性と話ししていると……」
途切れ途切れに言葉が続く。
「気になって仕方がないんです。そう、嫉妬です。叔父さんが出ていった後にいつもいま何をしているのか、考えてしまう」
再び俯いた彼女が深呼吸をしてから顔を上げた。
「わたし──叔父さんのことが好きです。ヨシオさんが好きです」
その言葉の破壊力にヨシオの意識が空白化した。
100話達成!ついに姪っ子の柚希が中年男のヨシオに告白―しかし、まだまだ話は続きますので今後もよろしくお願いします!
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