04-08.最凶の一手
僕らは森に引きこもった。
領民の大半をガルディアス竜王国に預かってもらい、軍や一部の者たちだけで森の中心地点に拠点を構築した。
当然その工程は至難極まるものだった。
ステラとガルディオンには、森の魔物たちが周辺の人々を襲わないよう、力を尽くしてもらっている。残念ながら二人の力は借りられない。今回は僕たちだけでやるしかない。
お父様がお戻りになったことは追い風となった。長年先陣に立って開拓を主導してきたその経験は、今の僕らにとって何より心強いものだった。
カラミティは約束を守ってくれた。僕らが完全に森の中へ籠もるまで軍の侵攻を遅らせてくれた。
加えて、僕らを炙り出して討ち取るという名目で、森の周囲に軍隊を展開してくれた。お陰で森から逃げ出す魔物たちを迎え討つ戦力が確保出来た。
カラミティと約束したのはこの二つだ。彼女は僕の願いを聞き届けてくれた。これで世界征服にまた一歩近づいた。
ステラとガルディオンに余裕が出来てきた。未だ東側から逃げだす魔物たちへの対応は必要だし、あの二人にはガルディアス竜王国を中止とした国々を纏めてもらう必要もあるけれど、少しずつ開拓も手伝ってくれた。
やはり二人の力は突出している。開拓のペースもそれまでとは別物だ。家を建てる職人の方が足りないくらいだ。コルカの御爺様も頑張ってくれているけれど、もっともっと人手が欲しい。
もちろんその点についても頼れる仲間たちが頑張ってくれた。ベルナールがドワーフの隠れ里を見つけ出し、勧誘を成功させてくれたのだ。本当に彼にも世話になりっぱなしだ。
「旦那様」
「完成したのかい!?」
「ばっちり」
コルカが珍しくVサインなんてしながら浮かれている♪
「ありがとう♪ これでピースは揃ったよ♪ 本当にありがとう♪ ああ♪ コルカ♪ 愛しているよ♪」
燥いだ僕も調子に乗って抱きしめた。そのまま持ち上げてくるくる回してしまったくらいだ。
後になって知ったことだけど、コルカはこの時僕に惚れたらしい。
ドワーフとは力強い相手を好むそうだ。普通の人間はコルカのような小さな少女にしか見えない者であっても、ドワーフを軽々と持ち上げて振り回すなんて出来ないそうだ。
ここ最近の僕は常に魔術で身体能力を上げていたからね。ちょっとズルしちゃったんだけどね。ふふ♪
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世界各地にガルディオンが出現し、一斉に襲撃を始めた。
多くの人々はその光景を見て心が折れてしまったようだ。
僕らは最初からこの戦争を終わらせることが出来た。けどそうしなかった。そんな風に受け取られたらしい。
実際は世界中に隠れたカラミティを追いかけ回していただけなんだけど。どうやら威嚇行為と考えたようだ。
まあ、カラミティが潜伏していたのって、イコール僕らに敵意を持っていた人たち、或いはこれから持とうとしていた人たちだからね。やましいものはあったのだろう。
いつでもどこでも現れる黄金竜は対処不可能な災害だ。要するに僕らは前の世界における最強の爆弾兵器と同等の抑止力を手にしてしまったわけだ。
ぶっちゃけその考えは全く無かった。こんな簡単に降伏してくるなんて思いもよらなかった。
次第に敵軍の勢いは衰えていった。
正直これはこれで困った状況だ。まだ森の開拓は完全には終わっていない。スタンピードの脅威も以前のもの程ではないにせよ、依然として残っている。
そんな悩みに頭を抱えていると、更に悪い知らせが舞い込んできた。
「汚染された!?」
「はい。残った森が一斉に」
ここにきてカラミティが最悪の一手を差し込んできた。
油断していた。もうその手は使わないでくれるものと思い込んでいた。彼女には僕が提示したプランだってあった筈なのに……いや。彼女は最初から言っていた。自分のプランが本命だと。あくまで僕のはサブプランとして飲むと。
そうか。これが彼女の計画なのか。
「ガルディオンは近づけないで! 絶対に!!」
汚染は……呪いは魂の秘術によるものだ。アストラル体であるガルディオンでは影響を避けられない。今の彼女には自らの魔石を守りぬいた強靭な肉体も残ってはいないのだ。
マズい……。まだステラだけでは手が回りきらない……。
いったいどうすれば……。
「全ての魔物たちは外へと向かっているようです」
それは……朗報だ。内側に向かっていたなら僕らに自身を守り抜く方法は存在しなかった。
けど何故……とにかく動かなくちゃ。
「ステラには森の焼却を優先させて!」
「御意!」
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人々は一丸となって脅威に立ち向かった。呪われた魔物たちはその強靭な膂力と生命力で多くの人々の命を奪い、世界中の草木を枯らしていった。
そんな森や魔物たちを焼き払い続けるステラの姿は、誰もが目にするところとなった。
人々は理解した。ステラのこれまでの行いの意味を。
時を同じくして、カラミティは表舞台から姿を消した。




