20ヴェストル帝国の使節団(アインベック)
その日はヴェストル帝国の使節団が王宮を訪れる予定だった。
それというのもローズの一件以来チェランド国との間に微妙な隔たりが生まれつつあった。
ここ数年、穀物の輸入が少しずつ減っていて明らかにチェランド国の嫌がらせのような感じがあった。公に声を荒げればまた戦争にでも発展しかねない微妙な立ち位置がなおさら問い詰められないような雰囲気だった。
そんな時ヴェストル帝国から一度我が国を訪れたいと話が来た。
帝国は豊かで穀物の取引や鉱物の取引もチェランド国とは比較にならないほど手広く貴族は魔力も大きい。
なのにアフラシュタイン国などの小国を相手にする事もないと思うが、そこは俺だって一国の王だ。
こんなチャンスを逃す手はないだろう。それにわが国にはレスター第5王子という男もいる。帝国の王は代替わりをして今やレスターの兄が国王だ。その王の姪や甥が我が国にいる。
血のつながりというものは何よりも濃いものでもあるからな。
まあ、そんな事はいいがせっかく来てくれるんだ。いい話なら乗ってもいいと思っている。
そんな訳で俺はアンディの具合が気になり朝早くアンディの部屋を訪れた。
そっとアンディの眠る寝室に入る。
まだ外は薄暗く淡い姿が見えた。
あつ、うっかりしていた。昨夜はアリスが付き添ってくれていたんだ。そう思ったがここまで来て引き返すのも。
アンディはアリスに抱きつくようにして眠っている。穏やかな寝息が聞こえてアンディの具合がいいのだろうと思った。
これもアリスのおかげだな。これ以上アリスの寝顔を見ているとおかしな気持ちになってしまいそうで恐くなった。
何考えてるんだ俺は、そばにアンディがいると言うのに‥
そっと忍び足で部屋を後にした。
そして臨んだ帝国使節団との交流会。
来たのは帝国でも屈指の財力を持つと言われるキャディ公爵家の嫡男のスロートで彼は現国王の王弟ヘンリーの息子、ヘンリーは5人の兄弟のうちの2番目だ。
スロートは一度結婚したが離縁の経験がある男らしい。
他にもラエリア伯爵、ディンブラート商会の会長など豪華メンバーがいた。
我が国も宰相のアンリー、ヴァルト伯爵も参加してもちろんレスターも側近として参加した。
穀物の輸入の話や鉱山資源の売買など話は盛り上がった。そしてスロート・キャディ公爵令息の口から出たのは、婚約者を探しているという話だった。
「私も一度目の政略結婚では失敗しましたが、27歳にもなり父からは早く身を固めるようにと言われてまして‥ですが今度こそ失敗はしたくなくていろいろ国内で探しましたがこの人だと言うご令嬢と出会えていないのです。それで」
そこでキャディ公爵令息が話しを切り、レスターを見た。
「この国には帝国の王族であるサンバイン伯爵のご令嬢がいらっしゃるとお聞きしまして、彼女とはいとこどうし。ぜひ、アリス・サンバイン嬢とお会いしたいと思っていまして‥もちろん、お相手の気持ちもお聞きしながらの話で、強引に話を進める気はないんです。が‥」
お前、それって見合いしたいって事か?うそだろう?強引に話を進める気はない?いや、あるだろう。これって嫌とは言わせないからなって圧たっぷりじゃないか!
俺は動揺した。かなり。だって俺はアリスが好きだから。彼女となら家族になれるんじゃないかって思ったから。
彼女は太陽みたいに温かくて、家庭的で優しくて、それでいて言いたいことははっきり言うしこんな女性とならアンディも安心して任せられる、そして俺たちの愛の結晶も生まれ、アッサムやアーシャやアナやアルとみんなで家族になって行きたいって‥
何でお前がいきなり?
そりゃ帝国との取引は大切だ。だからってアリスは渡さないからな。
お前みたいな男ならどんな令嬢でも喜んで結婚してくれるはずだろう?俺のアリスを横取りしようなんてもってのほかだ!!
なんて心の中で散々悪態をついた後で俺はシレッと次の言葉をかました。
「キャディ公爵令息お話はよくわかります。レスターは帝国の王族で我が国の王女だった叔母のアリソンと結婚。そして生れたアリス、アーシャ、アナの3人の女の子がいる事も、ですが、さすがに帝国の公爵家ともなるとかなりの格差では?それにアリス嬢は先日婚約者に裏切られいまだ心神喪失状態。とても次の縁談の話など受け付けれる状態にないのです。他の令嬢はまだ8歳という年齢ですし‥ここは帝国で素晴らしいご令嬢を探された方が賢明だと思いますが‥」
柔らかな口調で何でもないように。
スロートは眉間に皺を寄せて婚約解消の話を聞いていた。
「すでに調べはついていると思いますが‥令息ならお判りですよね?相手に裏切られると言うことがいかに心を痛めるかを」
すでにスロート・キャディの結婚が妻の不貞によるものだったことは調査済みだ。
これは裏切られた人間の気持ちがわかるが故の脅し文句なんだからな。
「ええ、彼女の気持ちを思うと胸が痛みます。この話は時期尚早でしたね。私としたことが申し訳ありません」
「いえ、わかって頂ければ‥話はこれくらいにしてさあ、食事を用意しておりますので」
俺は昼食会の会場にと話を切り替えた。
そして午後には商工会(貴族の商会)の面々との会合に付き合い今日の予定は終了した。使節団はこれから王宮内の別室でゆっくりしていただく予定になっている。
まあ、商工会の連中が放ってはおかないだろうが。劇場にその後もお楽しみが目白押しだろう。
明日は工房などを視察してその後、夕方からガーデンパーティーがあり王宮に宿泊後、明後日には使節団は次の国を訪れる予定になっている。舞踏会をという声もあったが翌日の出発が早いと言うことでガーデンパーティーになった。
俺は執務に戻ると一番にアリスはどうしたかな?と思った。
アンディは元気になったと報告が入っていた。後でアンディの顔を見に行こう。で、アリスに会いたい。
アリス、アリス、アリス。俺の脳内はアリスでいっぱいになって行く。




