21つい言ってしまった(アインベック)
それからすぐだった。
王家の護衛から俺に知らせが入る。
「なに?アリスが襲われた。それでアリスは無事か!?」
「はい、すでに屋敷に戻られています。襲った相手はロイド・ヴァルト。アリス嬢を誘い出したのはスーザンという元子爵令嬢です」
「まったく、お前が付いていながらなぜこんな失態をした?」
俺は怒りに任せてリートを怒鳴りつける。リートは没落した男爵家の次男で騎士だった男だ。能力を買われて王家の陰の護衛任務をしている。
「スーザンとか言う女を確実に仕留めようとしておりましたが、少々計画に誤差がありました。申しわけございません」
「ああ、あの女か。まったく、アリスがいい迷惑をこうむっている。くっそ!あんな女早く何とかすればよかった。いいか、もうこれ以上は許されないぞ。おあいつら確実に王都から排除しろ」
「はい、ついでにヴァルト伯爵の悪事も手を打った方がいいのでは?帝国との取引にもさわりが出ては一大事にございます」
「ああ、それについては叔父上がすでに調べを進めていられる」
「はい、余計な事を‥申し訳ありません」
「陛下。アリス嬢はとても勇敢な方です。あんな状況でもあくまで抵抗をして‥それに街の人がアリス嬢を助けろとそれはもううるさく申しまして‥わたくしあの方のファンになりました。とても素晴らしい女性です」
「勇敢だと?抵抗したとはなんだ?おい、アリスに何があった!」
俺は事の状況を聞いてロイドに殺意を抱いた。あの男殺してやる!!
それにしても健気に振る舞っただろうアリスに愛しさを感じた。
「いいかリート、ロイドを厳しく取り調べろ。他にも何かやってるかもしれん、スーザンとか言う女もだ。容赦はするな。殺さない程度に拷問も許す」
「承知しました」
執務室にはもちろんレスターもいた。
「レスター今日はもう帰れ。アリスが心配だ」
「陛下アリスを助けていただきありがとうございます。では失礼します」
「ロイドとか言う奴とんでもない男だったな。俺も後から行くからな」
「いえ、陛下はお疲れでしょう。アリスも気を使いますので」
「そんなこと出来ると思うのか?いいから行くと言ったら行く。いいな」
「はい、では、お待ちしております」
そして俺はアリスに会いに行った。アンディの容体を見に行ってから。
だってこんな事を聞いて我慢できるはずがないだろう。心配で心配でたまらない。
もしリートが間に合っていなかったらと思うと恐ろしくて背筋がブ瑠璃と震えた。
*~*~*
屋敷に行くとレスターが出迎えてくれた。子供たちはもう部屋で休んでいるらしい。
「陛下、お食事は?」
「まだだ」
「では、ダイニングルームに」
「アリスはどうしてる?」
「はい、私が帰ると早かったねと言って調理場でクッキーを焼いておりました。アンディ殿下に持って行くと言って‥それにアルからも作ってほしいと言われたようで‥」
「元気そうだったか?」
「まあ、話しは聞いたと言いましたら、皆さんが助けに来てくれて無事だったから大丈夫だと‥我が子ながら見上げた根性かと」
「ああ、でも、今はどうしてる?」
確かにすごいな。でも、内心は穏やかなはずがないだろう?俺にはわかる。ローズがあんなことをしていたと知った時の驚き。動揺。怒り。悲しみ。表に出してはいけないと内に抱え込んで、でもそれがどんなに苦しい事か俺にはよくわかるから‥
「アルの世話をして寝かしつけると部屋に入りました。陛下が来られるからと言っておきましたのでまだ起きていると思います。食事がすんだら呼びましょう」
「ああ、そうしてくれ」
アリスとどうしても話がしたかった。いや、話しなんかしなくてもいい。顔を見るだけでもいいと思う。
夕食はコックが作っていると聞いた。旨い魚のソテーに食べやすい野菜の煮込み料理だった。
食事がすんで客間に案内される。レスターがアリスを呼んだ。
アリスはラフなワンピースを着ていた。目が少し赤いとすぐに気づいた。何でもないふうを装って声をかける。
「アリスこんな時間にすまない。もう、休んでいたのか?」
「いえ、友人に借りた小説を読んでおりました。ちょうど今日連れて行かれたあいびき宿が読んでいた小説に酷似していたもので実際の宿をモチーフにしたのかと思いまして‥」
俺はその言葉に安堵を覚える。そんな事をしていれるなら大丈夫って事なのか?
「護衛から報告を受けた。すまない。もっと早くロイドを何とかするべきだった」
「いえ、彼は口でこそなんだかんだと言ってましたが実際には何もなかったんです。どうする事も出来なかったはずです。今日は驚きましたが結果的には助けていただいたので‥」
「もし護衛が遅れていたらどうするつもりだった?」
ばかな事を聞いている。だが止めれなかった。
「きっと、犯されて私はズタズタに傷ついたでしょう。でも、それはあくまで憶測で、現実はそうではなかったんですから、私はその事に感謝こそしますが起こらなかった事まで考えても仕方のない事だと思います。でも、すごく恐かったですけど‥」
「ああ、そうだな。すまない。王になると先々の事まで予測する癖がついてしまったらしくて、つい、もし、そうなったらと想像してしまうんだ。でも、アリスの言う通りだな。起こってもいないことをくよくよ考えるのは無駄だな。それでもアリス君が無事で本当に良かったと思う。これは心からの気持ちだ。俺にとって君はもう特別で決して失いたくない存在なんだ」
「それは私が陛下の身内だから?」
アリスの言葉に啞然となった。
「違う。確かに最初は従兄妹だからもっと付き合うべきだと思っていた。アンディもいるしな。でも、アリス。君を知るうちに君と一緒にいたいと思うようになった。君は俺を温かい気持ちにしてくれる。まるでオアシスみたい俺の乾いた心を潤してくれて‥この先の将来を共に歩めたらって思っている。もちろん妻としてそしてアンディの家族として。アッサムとアーシャもアナもアルもみんな一緒の家族として‥どうだろうか?本気で俺との事を考えてもらうわけには行かないだろうか?」
俺としたことが‥こんなことを今言うべきじゃないのに。アリスは傷ついて俺は慰めるためにここに来たって言うのに。何やってるんだ。
でも、アリスはそんな軽々しくされていい女性じゃないんだ。
すごく素敵で子供好きで家庭的で誰にも優しくてこまめで器用でもう何もかもが素晴らしいんだ!!
君はすごく素敵なんだって俺は知っているって言いたかったのに、つい我慢できなくて‥
ただ、アリスのそばに近づいて彼女の手を取り真剣にアリスを見つめていた。
ただ、ただ真摯にその気持ちを伝えたいと願って。




