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華麗なる闇堕ちラスボスを全うしたい夜神くん  作者: 霞花怜(Ray)


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64. 闇堕ちラスボス 魔王リリム

 床が盛り上がって弾ける。大量の土が飛び出して、リリムの足に絡まった。

 ルカが魔術を籠めて土を固める。

 カデルの火が土を焼いて更に強度を増した。

 

 フェリムが飛ばした水の塊が空中で紐状になってリリムの腕と体幹を拘束した。

 シェーンが放った風がリリムを囲む。

 風に乗せたレアンの光魔法が結界を造って壁が出来た。


 リリムの体があっという間に拘束された。

 真ん前に立ったカロンは、弓を具現化してリリムを狙った。


「動かないでね、リリム。すぐに終わるから」


 力いっぱいに弦を引く。

 皆をぐるりと眺めて、リリムが首を傾げた。


「どうして皆、僕を拘束するんだ? 僕は何か、おかしな発言をしただろうか」


 不思議そうにするリリムは、本当にわかっていない表情だ。


「自分が変なこと言ってるって、わかってないの?」

 

 ルカの声は焦りを含んでいた。


「変? 何が?」

「世界を消滅させたいなんて、リリムは今まで言わなかったよね? 虫食いってやつに言わされている。そんな風に思い込まされているんだよ」


 シェーンの必死の言葉にも、リリムは首を傾げるばかりだ。


「世界を消滅させたい願望は、そんなにおかしなことなんだろうか? ……あぁ、そうか、わかった」


 気が付いた顔をしたリリムが、くいと手首を捻った。

 闇が渦巻いて、風を巻き起こす。


「ぅわ!」


 あまりに勢いが強くて、カロンは目を瞑った。


「カロン! 俺に摑まれ!」


 飛ばされそうになるカロンの体を、カデルが引き寄せる。リリムに背中を向けて、カロンを庇った。


 風が止んで、闇が避ける。

 総ての拘束と結界を吹き飛ばしたリリムが、立っていた。


「僕は主人公パーティに倒される闇堕ちラスボスだから。カロンや皆に攻撃されてもおかしくない。世界を消滅させたいのは、僕がラスボスだからだ」


 リリムの顔が愉悦に染まった。


「これが正しい展開だ。僕が主人公パーティを退けて、世界を消滅する。至高の悪となる瞬間だ。だから、こんなに気分がいいんだ」


 心底嬉しそうにリリムが笑んだ。


(リリムの言葉、どんどん変になってく。洗脳も乗っ取りもされてないのに、リリムのまま狂ってく。これが虫食いが巣食うって状態なんだ)


 ちらりと後ろのメロウに目をやる。

 メロウもきっと、自分ですら気が付かないまま、思考を狂わされて世界の消滅を望んだ。


(紙の本の文字を食う虫。喰われた文字が消えて、消えた分だけ世界の消滅に近付く。リリムの中のリリムが食われて、虫食いの衝動だけが残ったら……)


 天使以上に質の悪い乗っ取りだと思った。


「攻撃を止めないで! リリムを拘束して、動きを止めて!」


 カロンの声に、レアンが最初に反応した。

 光魔法の鞭を振るって、リリムの体を拘束する。


「愛するリリムが犯されるのは、見ていられない。力尽くでも元に戻すよ」


 リリムが光の鞭を掴んだ。


「レアンの魔法はいいな。強くて、しなやかだ。僕はレアンの魔法が大好きだ」


 掴んだ光の鞭に、リリムが口付けた。


「リリム……」


 レアンの魔力が揺れた。

 その瞬間に、リリムが光の鞭を引き千切った。


「だから一緒に終わろう。僕はここにいる皆が大好きだから、苦しめずに最後を迎えたい」


 リリムの手から闇の雫が零れ落ちる。

 雫が砂になって、大量にレアンに向かった。


「レアン、避けろ!」


 叫んだシェーンが突風でリリムの闇を弾いた。

 レアンの体を後ろに引いて、フェリムが前に出た。

 水の刃をリリムに向かって投げつける。

 リリムの服を絡めて、壁に体を縫い付けた。


「どれだけ好きでも、こういう場面での躊躇はいただけません。レアン皇子らしくないですよ」

「すまない、フェリム。リリム相手だと、上手くいかないね」


 レアンが眉を下げる。

 しかし、すぐに表情を引き締めた。


 ルカが手を伸ばし、土弾を打つ。

 リリムの手がたやすく弾いた。


「シェーン、カデル!」


 ルカに呼ばれて、シェーンとカデルが構える。

 ルカが放つ土弾に火を纏わせる。

 風で速さを増した土弾がリリムに届いた。

 リリムの体にぶつかって弾けた土が固まる。リリムの体を壁に縫い付けた。


「皆、強くて格好良いな。だから僕は、皆に負けないくらいに強い悪役になりたいと思ったんだ」


 リリムが嬉しそうに話す。

 両手から溢れた闇が、フェリムの水の矢とルカの土に絡まる。

 スライムのように、どろりと溶けて消えた。


「リリム、強すぎじゃないの……」


 ルカが後退りする。

 リリムが手を前に出して、開いた。


「そろそろ僕も、鍛えた成果を皆に見て欲しい。特にカロン、よく見ていてくれ。僕はカロンのために、至高の悪役になろうと決めたんだ。この物語をより面白くするために」


 闇の塊がリリムの手に現れた。

 徐々に大きくなった闇が、ルカに向かって飛んだ。


「ぅわっ!」


 避けきれなかったルカの体に闇が絡まる。

 あっという間に体幹から足までを覆い尽くした。


「まず、一人。次は、誰にしようか」


 リリムの目が、離れた場所に一人で立つシェーンに向いた。


「フェリム、援護を」

「承知しました」


 言葉と同時に、レアンが光の塊を放つ。

 フェリムが水魔法を混ぜて、光の矢が飛んだ。

 矢がリリムにあたり、腕を貫いて壁にまで刺さった。


「レアン、フェリム、やり過ぎ!」


 動きを止めるにしても、怪我をさせるのはやり過ぎだ。

 カロンが叫んでも、レアンとフェリムは表情を変えなかった。


「多少の怪我は仕方がないよ」

「レアン皇子が無事なら、治癒魔法が使えます。死なない程度の怪我は、耐えてください、カロン」

「そんな……」


 レアンとフェリムの覚悟した目が、リリムを見詰める。


「フェリムとレアンの魔力は気持ちがいい。直に触れると、こんな感触なんだな」


 腕の矢をそのままに、リリムが反対側の腕を上げた。

 瞬時に闇の塊をシェーンに向かい放つ。

 向いた先のシェーンが、風を起こした。


「同じ魔法じゃ、つまらない。シェーンの別の魔法を見せてくれ」

「ご要望に沿える魔術を放ったつもりだよ」


 風の結界がリリムの闇を覆う。

 風の壁を蹴散らして、闇が大きく口を開けた。


「くっ……」


 スライムのような闇がシェーンの体を飲み込む。

 ルカと同じように全身に纏わりついて、腕と足を拘束した。

 シェーンがその場に倒れ込む。


「シェーン!」

「俺を気にするな。カロンは早く矢を放て!」


 駆け寄ろうとしたカロンは、リリムに視線を向けた。

 リリムの周囲を風の壁が覆っている。

 徐々に距離を縮めた風が、リリムの全身に張り付いて、手の自由を奪った。


「強い拘束の魔術、さすかシェーンだ。すぐには解けそうにないな。けど……」


 リリムの周囲に、いくつもの闇の塊が浮いた。


「手が使えない状態でも、僕は攻撃ができる」


 闇の塊がカロン目掛けて飛んでくる。

 飛んできた闇を、前に出たカデルが剣で斬り捨てた。炎を纏った剣が闇を焼く。


「カロン、周囲は気にしないで、矢を番え。虫食いってやつをどうにかしねぇと、リリムは止められねぇ」


 闇の塊を切り捨てながら、カデルが言い放つ。


「わかってる、わかってるけど」

「どっちにしろ、このままじゃジリヒンだ。今のリリムは俺たちより強ぇ。六人で束になっても勝てねぇ。残り三人が拘束される隙をついて、矢を射れ」


 カデルの言う通り、魔王になったリリムの魔力は以前の比ではない。


(わかってるけど、本当に矢で射抜いて平気なの? リリムが死んだりしないの?)


 原作者は、虫食いは潰すのが必須、メロウは倒せと言った。


(リリムを殺したら、リリムが消える。それだけはするなって、夢野先生も言ってた。だけど、何とかしないと)


 迷いが、カロンの決意を鈍らせる。


 闇の塊の攻撃を弾いて、カデルが火魔法の結界を張った。

 薄らと赤い火魔法の壁が、カデルとカロンの間を分かつ。


「カデル! カデルも結果の後ろに!」

「それじゃリリムの隙を作れねぇ。カロンは結界の後ろから矢を放て!」

「そんな、どうすれば……」


 手の中に弓矢を具現化するも、この矢を射るのを躊躇う。

 矢を番えていたら、後ろでラスが動いた。

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