63. 世界を消滅させたいリリム【KK】→
リリムの体が闇に包まれ弾けた瞬間、天使の姿をした男が外に弾き出された。
それが大天使メロウだと、カロンには一目でわかった。
メロウが呆然と立ち尽くしている。
カロンを始めとした全員が、メロウの姿を唖然と眺めた。
倒れた振りをしていたシェーンまで起き上がっている。
「何故……、どうして弾かれた? 何故、リリムの体から外に出た?」
自分の体とリリムを見比べて、メロウが呆気にとられている。
「ん……、あれ? レアン? 幼くなったか? でも、感じる気がラスだ」
腕の中に抱いたラスを、リリムがぼんやりと眺める。
「リリム! リリムに戻った? リリム!」
フェリムに抱えられたまま、カロンは必死に叫んだ。
リリムが視線を泳がせた。
カロンを見付けて、微笑んだ。
「カロン、フェリム。無事で良かった。……あれ? どうして無事で良かったと思うんだろう?」
リリムが自分の言葉に悩んでいる。
記憶が混濁しているようだ。
「リリム……」
「ぼんやりしているのかい、リリム。私が愛して目覚めさせてあげようか?」
カロンが走り寄るより早く、レアンがリリムに抱き付いた。
頬に舌を這わせて、ねっとりと舐め挙げる。
「レアン、以前よりスキンシップが濃厚だ。何かあったのか?」
レアンを宥めるように、リリムがその頭を撫でた。
リリムに抱き付いて、レアンがスリスリと自分の頬を擦り付ける。
「良かった。少し前の鈍いリリムに戻りましたね」
フェリムが安堵の息を漏らした。
「リリムは良かったけど、とりあえずこの大天使を何とかしようよ」
シェーンの声に、メロウを振り返る。
風魔法の結界の中で、土の手枷に拘束されたメロウが呆然としている。
「よくわかんない内に、なんか色々進んじゃってたみたいだね」
ルカがシェーンの隣で頭を叩いている。
「俺も記憶が曖昧だ。リリムがやけに可愛かったのは、覚えてるんだが」
頭を振りながら、カデルが玉座から下りて来た。
「やっとリリムの体を手に入れたのに。ようやくアンドラスに触れられたのに。私はまた天使に戻るのか? もう従魔のラスと呼んでキスできないのか? こんな世界、滅べばいいんだ!」
メロウが突っ伏して泣き出した。
「え? 何なの? これが大天使なの?」
ルカが微妙な顔でメロウを眺めた。
「えっと、メロウはアンドラスが大好きで、姿が激似のレアンをアンドラスの代わりにしようと思ったけど、教会でリリムを見付けて、リリムを乗っ取ればアンドラスに触れられるって思って乗っ取りを決意した。みたいだよ」
カロンの説明に、シェーンたちが黙した。
「アンドラスに恋をしてレアンとリリムを利用しようとした行為を女神アメリア様に咎められたのが鬱陶しかったので、アメリア様を幽閉したそうです。アンドラスが手に入らない世界は嫌いだから消滅させようと考えていたようです」
フェリムの補足説明に、シェーンたちが言葉を失くした。
「ちなみに今のレアンには、リリムを乗っ取っていた時のメロウが淫紋を付けてるから、リリムを愛することしか考えられないレアンになっているみたい」
「それ、ただのいつものレアンだよね」
カロンの説明にルカが鋭くツッコんだ。
言われてみれば、その通りかもしれない。
「淫紋? 『魔実』の魅了か。解除しよう」
「解除しなくていい。このまま永遠にリリムだけの騎士でいたい」
手を伸ばしたリリムを制してレアンが抱き付いた。
「どっちでもいいんじゃないの? 淫紋あってもなくても、リリムにエロいことしたいレアンに変わりないんだから」
ラスが呆れた目でレアンを眺める。
やっとメロウの腕から解放されたラスが、疲れた息を吐いていた。
「その姿がラスの人型か? 確かに子供の頃のレアンに、よく似てるな」
カデルが感心しきりにラスを眺める。
「我はこの姿、嫌いなの。無駄に綺麗なのは使い勝手良いんだけど、レアンに似てると地上では動きづらいんだよ」
吐き捨てながら、ラスが元の可愛くない犬に戻った。
「一先ず、淫紋は解除だ。誰かに支配されている状態は、健全じゃない。僕はレアンに、そういう真似はしたくない」
リリムがレアンの服を捲った。
「あぁ! リリム、積極的だね。ここでするのかい? 皆に見られてしまうけど、リリムが望むなら、そういうプレイでも、いいよ」
恥じらいながら、レアンがリリムを押し倒す。
王子らしからぬ発言だが、レアンだと思うと違和感もない。
「そうではなくて、淫紋は腹につけるから、服を捲らないと」
押し倒されたまま、リリムがずるずるとレアンの腹に移動する。
レアンの腰を押さえて、リリムがレアンの腹を舐め始めた。
「ぁっ…、リリム、擽ったい。んっ……、ぁぁっ」
「我慢してくれ。淫紋は舐めて落とさないといけないんだ」
レアンの声が、やけにエロい。
リリムが舌を這わせるたび、レアンが腰をくねらせる。
冷静に腹を舐めるリリムが事務的な動きをしているからか、レアンの声と動きのエロさが際立つ。
「これで消えたかな。もういいよ、レアン」
「ん……、はぁ……」
レアンの体から力が抜けて、下にいるリリムに抱き付いた。
「淫紋がなくても、リリムに腹を舐められたら気持ちがいいよ」
レアンがリリムを抱きすくめる。
リリムがレアンの肩をポンポンと叩いた。
「元に戻って良かった、レアン」
「あれ、元に戻ったの?」
「淫紋、あってもなくても発言が同じだな」
ルカとカデルが呆れている。
「確認するけど、全員正気だね? 誰かに乗っ取られたり洗脳されたり、してないね?」
シェーンが点呼のように確認する。
散々、天使に洗脳やら乗っ取りやらされているから、訳が分からなくなってきた。
「ここまで見ていた状況として、今は全員が正気だと思います。大天使を断罪するなら、今ですね」
フェリムがメロウに杖を向けた。
よく考えると、フェリムは一度も洗脳も乗っ取りもされていない。
天使に誘拐されて、竜穴に閉じ込められただけだ。
鋼の精神だなと思った。
「もういい。アンドラスに触れられない世界なんか、嫌いだ。私を殺すなりアメリア様を殺すなりすればいい」
メロウが突っ伏して泣き続けている。
(何となく、夢野先生に似てるな。さすが、原作者の負の感情が詰め込まれたキャラ)
変なところで感心した。
「だとしたら、殺すのはアメリア様だ。僕はこの世界を消滅させないといけないから。世界が無くなればメロウも死ぬから、断罪する必要もない」
リリムから普通のテンションで流れてきた言葉に、カロンはリリムを二度見した。
あまりにもいつものテンションすぎて、流しそうになった。
「え? リリム、何言ってんの?」
さすがのシェーンも、戸惑いながらツッコんでいる。
「僕に懐いた虫が、この世界を消滅させたいらしいから、そうしようかと」
「虫……」
カロンは、周囲を見回した。
あの蛇のような変な生き物の姿がない。
(虫食いって、メロウに巣食っていたんじゃないの? メロウが出た時に虫食いだけリリムの中に残った?)
「あのさ、リリム。メロウを体の外に弾き出したのって、リリム?」
「そうだ。『魔実』や天使の核を出そうとした時と同じ要領でやったら、出せた」
リリムがやっぱり普通に頷いた。
「その時さ、蛇みたいな変な生き物、見なかった?」
「見た。僕の腕に絡まって、懐いたんだ。気色悪いと思って、カロンに相談しようと思った」
「そうだったんだ、それね……」
「どうしたら、アメリア様を殺して世界を消滅させられるだろうか。竜を殺せばアメリア様も死んで一思いに世界は滅ぶんだが、ミケを殺すのは忍びない。消滅したら皆死ぬから同じだろうか。カロンに相談しようと思ったんだ」
虫食いがリリムの中に巣食っている事実が、カロンの中で確定した。
シェーンたちに緊張が走る。
魔力が尖ったのを感じた。
「その気色悪いのは、虫食いといって、この世界を消滅させようとする原因だ。メロウに巣食っていた虫食いが、リリムの中に残ったんだよ」
「虫食い?」
リリムが不思議そうな顔をする。
カロンは大きく息を吸い込んだ。
「全員で、リリムを確保! リリムの中の虫食いは、俺が持ってる軟膏で退治する!」
カロンの号令をきっかけにして、全員同時に魔術を展開した。




