そのひとつ/01 「 夢 と 少女 」
夢を見ていた。
少女は 夢を見ていた。
そして、 今 自分が夢を見ていることを ぼンやりと自覚していた。
何故ならば。 今見ている景色を、 この光景を、 何度も過去に見ていた。
幾年も前から。 幾度もの夢で。
夢でのみ訪れることのできる、 馴染み付いた お気に入りの風景。
周囲に拡がるのは、 眩いばかりに煌めく 何兆もの星々が永遠と敷き詰められた 漆黒の宇宙空間。
少女は、 地球を遠く離れた広大な空間に ぽつンと浮かんだ 小さな宇宙船の中にいた。
火星に向かい疾走するこの宇宙船 「 ランバート号 」 は、 世界で一番速い船だ。
今まで船の内にいた筈の少女は、 いつの間にか 宇宙を駆ける自慢の船を 誇らしく見上げていた。
鈍く輝く船体の あまりにも速い走宙は、 空間を切り裂く三本の光筋を後方に引き摺り たなびかせていた。
船の進行方向 その遥か彼方には、 赫く冷たく光る 「火の星」 が みるみると近づいて来る様が感じられた。
ふと、 背後に奇妙な気配を感じる。
振り返ると、 満天の星々の手前に 揺らめく小さな真黒の点があった。
何故それが見つけられたのか不思議なほど小さな点であったが、 星を遮るような その小さな点に自然と眼が惹きつけられた。
その点に近づこうと手を伸ばした 瞬間。
少女は、 船の中に戻っていた。
少女は、 うっすら赤い照明に照らされた船内の小さな部屋で 大きな椅子にゆったり腰掛け 窓の外を眺めていた。
全身が 不自然な程に重たく感じたが、 不快とは思わなかった。
部屋の大きさに似つかわない大きな窓の表面に 自分の姿が映っていた。
そこに映っていたのは、 初老の女性であった。
体が重たいのは当然だ。
今年で もう62歳なんだから。
これも夢だと自覚しながら、 少女は 「おばあさん」 であることの違和感を感じていなかった。
目的地である 「火星」 には、
正確には 火星の衛星 「デイモス」 には、 彼女の愛する人が待っていた。
何十年も前に離れ離れになった愛しい人が。
あまりにも永い間離れていたため、 顔も名前も思い出せなくなった 大切な人が。
視線を下へと落とし、 自分のお腹を見つめる。
お腹の中には、 その人の子供が宿っていた。
何十年も 自分と共に生き続けてきた 小さな生命。
彼に再び出会えたならば、 ようやく、 ようやくこの子も産まれ出る事が許されるのだろう。
視線を再び窓に向ける。
小さな窓に映る 自分の姿の隣に何かが見えた。
少女の座る椅子の横に、 自分の背丈の半分程もある 大きな黄色いぬいぐるみがいた。
その黄色い 「くま」 は、 始まりから ずいぶんと自分のそばにいたのだ。
何故だろうか、 今まで そこいる事を忘れてしまっていた。
「 モク ずっとそこにいた? 」
少女は その くまの事を知っている気がした。
名前は 「モク」 だった・・・ はずだ。
・・・ はずだった。
「 ミシル ! 」
モク は少女に対し 堰を切った言葉を浴びせてきた。
「 オレの事忘れてるだろ。 なんで オレ が クマ なんだよ ! 」
「 そんな事より、 いつまでこんな処にいるんだ 」
「 とっくに起きる時間だぞ。 過ぎてるぞ ! 」
ビクッと震えがはしり、 いきなりと身体が落下する。
必死に両手で布団を捕まえ握りしめる。
ランバートが 自分を置き去りにして 遥か彼方に消え去って行く。
片手を布団から離し、 ランバートからたなびく シッポを捕まえようと伸ばす。
息が苦しい。
身体が締め付けられる。
もう・・・ 限界・・・ 。
・・・・・・・・・
身体に絡みついた布団からの脱出に成功した 「ミシル」 を見下ろす様に、 「モク」 が 畳の上に立っていた。
そして、 呆れた様な表情を浮かべた顔で 空中に浮かぶ 「7時55分」 の時刻表示を指し示していた。
小説投稿サイト 「カクヨム」にて、
並列ストーリー
「 つくもぶね [ 境外宇宙より来襲する超常天体に抗する3人の厄災級異才者と人造意識体たち ] 」
を 投稿中。
https://kakuyomu.jp/works/16818093073160539410




