始まりの梗概 (1)
CE(共通歴)2118年7月24日、 月面 ショーンベルガークレーターに設置された 液体鏡面式光学望遠鏡「嫦娥天眼」 により発見された 不可解な軌道を描く 実体不明の恒星間天体 「 ウーシア 」
はちぶんぎ座α星 方角から太陽系に接近しつつあった この天体の軌道は、 明らかに 太陽の重力影響を凌駕する、何らかの恣意的な力により 制御されていた。
世界統合機関である 「 世界連環 (WEL) 」 は, この状況が FC [ファーストコンタクト] ケース に進展する可能性が高いと判断し、 ウーシアに関する情報の公開を 一時保留する。
そして、 さらなる 詳細な観測と 状況の分析を 急ぐこととした。
地球公転軌道上に設置された 全16機の ジェームズ級天象観測衛星 による大規模な S-VLBI観測 と 当時 世界最高位の能力を記録していた 人工知性 [ 伏犧(Fuxi) ] によるデータ推考解析。
しかし、 その結果 明らかになった ウーシアの形象実体は、
直径4.1km、 延長 3.95光年 (37.4兆km) の 「 極超長柱状剛体 」という 想像を遥かに越える 超常的存在とでも言うべきものであった。
同時に、 その軌道は いびつな螺旋形を描きながら、 極めて正確に 「地球」 に向かっている事が 確認された。
ウーシアに関する 全面的な情報の封鎖 が正式に決定された。
その 約4年前。
南極大陸最大の氷底湖である ボストーク湖の湖底で、 約4千500万年前のものと推定される 非人類文明の 大規模遺構が発見される。
公然の秘密結社 と称される 「 プルス・ウルトラ 」 の 80%以上の出資により 「 ボストーク湖遺構深境探査隊 」 が組織されるが、
探査隊が 湖底に到達するためには、 湖上に存在する 厚さ 3,800m以上の「 氷床 」 を貫く 進入坑を 掘削する必要があった。
進入坑が完成し、 湖底に探査のための 調査作業施設 「 氷床下キャンプ [Under Sheet] 」の設置が完了したのは、 遺構発見から 18ヶ月後のことであった。
湖底の詳細探査において 最初に発見されたものが、 この遺構の 文明構成生物と見られる 霊長類 の大量の埋葬遺骸であった。
そして、 驚くべきことに、 その遺骸群には 明らかに 別種と見られる 2種類の霊長類が ほぼ同比率で混在していたのである。
「 ホモ・フェレス 」 「 ホモ・インファン 」 と名付けられた この2種類の霊長類は、 極めて平和裡に 共生・共同して この文明社会を維持していたものと考えられた。